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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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お嬢様の回2

朝、町がうるさかった。

 目覚ましより早く、

外から聞こえてくる足音と怒鳴り声と金属音で、俺は目を覚ました。

「……まだ、朝だよな?」

 窓を開けると、

そこには戦争前夜みたいな光景が広がっていた。

 衛兵が倍に増えている。

 なぜか見張り台に人が立っている。

 鍛冶屋からは朝から火花が飛んでいる。

 理由は分かっている。

 昨日のお嬢様の一言だ。

 ――「この町、とても落ち着きますわ」

 あれが、

なぜか「問題が隠されている」という意味に変換されたらしい。

 俺は頭を抱えながら外に出た。

「おはようございます、案内役さん!」

 元気な声。

 振り向くと、お嬢様がいた。

 昨日と同じように元気で、

昨日と同じように無自覚で、

昨日と同じように町を壊す準備が整っている。

「今日はどこへ行きますの?」

「……できれば、静かなところに」

「まあ! でしたら広場ですわね!」

 なぜそうなる。

 広場は、すでに静かではなかった。

 冒険者が集まり、

商人が集まり、

なぜか町長までいる。

 全員、緊張した顔。

「来ました!」

 誰かが叫ぶ。

 視線が一斉にこちらに集まる。

 俺は心の中で叫んだ。

 やめろ、俺を見るな。

「この方が……?」

「例の案内役だ」

「王都の……?」

 勝手に肩書きが増えていく。

 俺はまだ、

卵もろくに買えない冒険者だ。

「まあ、にぎやかですわね」

 お嬢様が楽しそうに言った。

 その瞬間、

町長が咳払いをした。

「お嬢様。こちらは平和な町でして」

「ええ、とても」

「ですが……その……」

 町長は俺を見る。

 なぜだ。

「……何か、お気づきの点は?」

 俺は何も気づいていない。

 だが全員の視線が刺さる。

「……特には」

 正直に言った。

 ざわめきが起こる。

「特に、ない……?」

「つまり……」

「つまり?」

 誰かが結論を出す。

「問題が巧妙に隠されている」

 違う。

「冒険者さん」

 お嬢様が俺を見る。

「この町、冒険者さんがたくさんいますのね」

「まあ……そうですね」

「皆さん、お仕事は?」

 その質問で、空気が凍った。

 冒険者たちは一斉に目を逸らす。

 俺は察した。

 仕事がない。

 平和すぎて、仕事がない。

「……今は、準備期間です」

 誰かが言った。

「そうですわね!」

 お嬢様はにっこり笑う。

「備えあれば憂いなし、ですわ!」

 その瞬間、

町全体が備えに走った。

 鍛冶屋が叫ぶ。

「剣を研げ!」

 商人が叫ぶ。

「保存食を!」

 衛兵が叫ぶ。

「巡回を増やせ!」

 なぜだ。

 なぜ、誰も止めない。

「冒険者さん」

 お嬢様がまた言う。

「魔王って、本当にいるんですの?」

 静寂。

 これは、まずい。

「……います」

 俺は答えた。

「まあ!」

 目を輝かせるお嬢様。

「近いんですの?」

 全員が息を呑む。

「……遠いです」

 精一杯の配慮。

「でも、可能性は?」

 可能性。

 この町で一番嫌われる言葉だ。

「……ゼロでは」

 言った瞬間、

鐘が鳴った。

 なぜ鳴らした。

「警戒態勢だ!」

「冒険者を集めろ!」

「何も起きてないが、備えろ!」

 俺は頭を抱えた。

 何も起きてないのに、一番騒いでいる。

 昼。

 町は完全に戦時モードだった。

 だが魔物はいない。

 異変もない。

 ただ人だけが疲れていく。

「楽しいですわ!」

 お嬢様だけが元気だ。

「こんなに活気がある町、初めてです!」

 活気ではない。

 焦りだ。

「冒険者さん」

 また来た。

「あなた、この町が好きなんですの?」

 俺は一瞬考えた。

 逃げたい町だ。

 だが住み慣れている。

「……嫌いではないです」

「素敵ですわ!」

 その一言で、

町の人々が感動した。

 なぜだ。

 夕方。

 町は疲弊していた。

 何も起きていないのに。

 お嬢様は満足そうに言った。

「今日はとても勉強になりましたわ」

 何を学んだ。

「また明日も、町を見て回りたいです」

 俺は、無言でうなずいた。

 夜。

 掲示板には、新しい貼り紙が増えていた。

「※王都お嬢様滞在中

 ・過剰反応禁止

 ・憶測禁止

 ・ただし準備は怠るな」

 無理だ。

 俺は宿の天井を見つめる。

 まだ二日目だ。

 明日――

お嬢様は、

もっと無邪気な質問をする。

 それだけは、確信できた。

 そして町は、

今日以上に、

何も起きない戦いを始めるだろう。

 平和な町は、

平和を疑い始めたとき、

一番うるさくなる。

 俺は目を閉じる。

 願うのは一つ。

 明日こそ、何も言わないでくれ。

 だが願いが叶った試しは、

この町では一度もない。

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