黒殻回く
広場の中心が白く光る。
一瞬、昼間みたいに明るくなる。
「うわ、まぶしっ!」
レナが目を細める。
次の瞬間。
ドォォォンッ!!
衝撃が爆発する。
音というより圧。
空気が殴られたみたいに膨らむ。
石畳が一斉にひっくり返る。
噴水の残骸が空に舞う。
俺はとっさに地面に伏せる。
息が抜ける。
耳鳴り。
砂埃。
数秒、何も聞こえない。
やがて、瓦礫がぱらぱらと落ちる音。
咳き込む声。
誰かが泣いている。
俺は顔を上げる。
広場の中央に、巨大なクレーター。
黒殻の獣は、その縁に立っている。
甲殻の隙間から光が消えていく。
……撃ったのか。
吸収した魔力を、まとめて。
「範囲攻撃とか聞いてない……」
レナの声が横からする。
振り向く。
立っている。
服はボロボロ。
髪は爆発したみたいに広がっている。
だが立っている。
「生きてるか」
「ギリギリ!」
笑うな。
黒殻の獣がこちらを向く。
明確に狙っている。
さっきまでの“ついでに町壊す”モードじゃない。
完全に“敵を潰す”モードだ。
「ねえ」
レナが言う。
「今のもう一回きたら、さすがにまずくない?」
「まずい」
「どうする?」
どうする。
魔法を吸う。
物理は弾く。
だが、脚の継ぎ目は通る。
そして今、脚は傷ついている。
重心が少し崩れている。
「転ばせる」
レナが一瞬きょとんとする。
「転ぶの?」
「ああ」
「でかいよ?」
「知ってる」
黒殻の獣が踏み込む。
脚がわずかに鈍い。
痛みをかばっている。
そこだ。
「同じ脚を狙え!」
「またあそこ?」
「執拗に!」
レナがニヤリと笑う。
「性格悪い!」
黒殻の獣が突進する。
今度は完全に速い。
広場の端まで一気に距離を詰める。
レナが横へ回る。
俺は反対側へ走る。
挟む形。
黒殻の獣が迷う。
どちらを見るか、一瞬だけ。
その一瞬。
レナが脚の内側へ滑り込む。
「二回目ぇぇ!」
剣が叩き込まれる。
ズガン、と鈍い音。
黒い液体が飛ぶ。
黒殻の獣が体を震わせる。
怒りの振動が空気を震わす。
だがレナは止まらない。
もう一撃。
さらに一撃。
甲殻の隙間をこじ開けるように叩き込む。
「倒れろ!」
黒殻の獣が大きく体をひねる。
尾が振られる。
レナが吹き飛ぶ。
だが。
脚が、踏ん張れない。
ぐらり、と傾く。
広場全体が静まる。
一瞬。
そして。
ドォォォォンッ!!!
黒殻の獣が横倒しになる。
地面が揺れる。
建物の壁が震える。
砂煙が舞い上がる。
広場に、巨大な黒い山ができる。
「……倒れた?」
誰かが呟く。
レナが瓦礫の中から顔を出す。
「倒れた!」
まだ油断するな。
黒殻の獣は動いている。
脚がもがく。
起き上がろうとしている。
今しかない。
「首元!」
「どこが首!?」
「たぶんそこ!」
本当に雑だ。
だがレナは走る。
倒れた巨体を駆け上がる。
甲殻を足場にする。
滑りながらも頂上へ。
黒殻の獣が暴れる。
体が震える。
振り落とそうとする。
レナが叫ぶ。
「これ落ちたら死ぬやつ!」
「落ちるな!」
黒殻の継ぎ目。
一番太い接合部。
そこへ剣を突き立てる。
一瞬、止まる。
そして。
レナが全体重をかけて押し込む。
「終われぇぇぇ!」
鈍い破裂音。
黒殻の獣の体が大きく震える。
暴れ方が乱れる。
脚の動きが止まる。
空気が、静まる。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
黒殻の獣の力が抜けていく。
広場に沈黙が落ちる。
レナがその上に立っている。
剣を突き立てたまま。
数秒。
十秒。
動かない。
「……終わったか?」
俺が呟いた瞬間。
レナがへたり込む。
「腕、限界!」
緊張感を返せ。
だが。
黒殻の獣は、もう動かない。
町のど真ん中で。
封印されていた化け物は、ついに沈黙した。
そして次の問題が、静かに浮上する。
――広場、ほぼ壊滅。
レナが周囲を見回す。
「……怒られるね?」
俺は深く息を吐いた。
「たぶんな」
生きて帰れただけ、まだマシだ。




