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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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扱いの回

短剣を買ってから、町の空気が微妙に変わった。

何が変わったかというと。

俺の扱いだ。

今まで。

「参謀だから後ろでいい」

だったのが。

「武器持ってるなら前もいけるよな?」

になった。

違う。

そこは違う。

武器は護身用だ。

前進用ではない。

だが町の連中は、俺の腰の短剣を見るたびにうなずく。

「ああ、覚悟決めたんだな」

決めてない。

財布が軽くなっただけだ。

その日。

ギルドに依頼が貼り出される。

【旧採石場にスライム大量発生】

スライム。

雑魚。

初心者向け。

つまり。

嫌な予感しかしない。

「参謀いるし楽勝だな」

だからなぜ俺基準。

しかも今回は新人も同行するらしい。

緊張した顔の青年が俺に頭を下げる。

「ご指導お願いします!」

やめろ。

俺は教官じゃない。

だが周囲の空気は完成している。

「今日は参謀前でいこう」

待て。

今なんて言った。

「後ろから指示もらうより、前で実践型だ」

誰がそんな教育方針決めた。

俺は抗議しようとする。

だが。

全員、当然の顔。

短剣が悪い。

腰にあるだけで「やれる人」に見えるのが悪い。

旧採石場。

岩だらけ。

ぬめぬめ音。

スライムがうごめいている。

確かに多い。

二十はいる。

だがスライムだ。

本来なら問題ない。

「参謀、号令を」

前に立たされている。

おかしい。

視界の最前列。

嫌な汗が出る。

「えー……散開」

無難なことを言う。

みんな散開する。

スライムが跳ねる。

意外と速い。

一体が俺の足元に張り付く。

冷たい。

嫌な感触。

「うわああああ!」

情けない声が出る。

新人が叫ぶ。

「参謀落ち着いて!」

お前が落ち着け。

俺は短剣で斬る。

ぬるっと切れる。

スライム、分裂。

増えた。

最悪。

「斬るな!」

後ろから怒号。

知るか。

反射だ。

足元がどんどん増える。

俺は跳ぶ。

岩に足を引っかける。

転ぶ。

前に。

前に転ぶな。

俺の顔面の前に、巨大なスライム。

ボスっぽいやつ。

なんでいる。

聞いてない。

巨大スライムがゆっくり迫る。

俺は腰を抜かす。

新人が叫ぶ。

「参謀の作戦ですね! ボスを引きずり出す!」

違う。

偶然だ。

俺は後退。

巨大スライムが追う。

ぬめぬめ音が怖い。

本能が叫ぶ。

逃げろ。

俺は走る。

採石場の奥へ。

完全撤退。

「参謀! 深追いは!」

深追いしてない。

追われてる。

俺は狭い通路に入る。

巨大スライムも入る。

狭い。

振り返る。

もう目の前。

無理だ。

俺はやけくそで短剣を突き出す。

刺さる。

だが飲み込まれる。

短剣が溶ける未来が見える。

嫌だ。

俺はさらに後退。

足がもつれる。

壁に背中。

終わった。

巨大スライムが覆いかぶさる。

その瞬間。

天井から岩が落ちる。

どさ。

巨大スライム、潰れる。

静寂。

俺は数秒固まる。

何が起きた。

後ろを見る。

俺がさっきぶつかった支柱が折れ、天井が崩れたらしい。

偶然。

完全に偶然。

だが。

ボスは潰れている。

外から仲間たちが駆け込む。

「すげえ……」

やめろその目。

「狭所に誘い込んで落盤を誘発させたのか」

違う。

支柱に激突しただけだ。

「参謀、恐ろしい」

恐ろしいのは偶然だ。

帰還。

スライム討伐成功。

被害なし。

俺は全身ぬめぬめ。

短剣は無事だった。

少し溶けかけた気がするが気のせいだ。

ギルドで拍手。

新人が尊敬の目。

「前線指揮、勉強になりました!」

何も教えてない。

逃げただけだ。

受付嬢が微笑む。

「やっぱり武器を持つと違いますね」

違わない。

俺は椅子に座る。

心底疲れた。

武器を持った結果。

前に出された。

逃げた。

偶然で勝った。

評価だけ上がった。

何一つコントロールできていない。

夜。

部屋。

短剣を拭く。

少しだけ刃こぼれ。

俺はため息をつく。

「俺、向いてない」

前線にも。

英雄にも。

だが町は勘違いをやめない。

武器を持ったことで、逃げも“戦術”に変換される。

もう後ろ専門とは言えない空気だ。

窓の外で子供の声がする。

「参謀だ!」

やめろ。

名前で呼べ。

俺は短剣を見つめる。

武器はただの道具だ。

だが周囲は意味を乗せる。

覚悟とか。

前進とか。

成長とか。

俺は小物のままだ。

たぶん次も逃げる。

でも。

逃げた先でまた何かが起きる。

それが一番怖い。

短剣を鞘に収める。

明日もきっと、前に出される。

そしてきっと。

俺はまた、全力で逃げる。

参謀だからではない。

単純に。

死にたくないからだ。

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