どうでもいい昼の回
発端はどうでもいい昼だった。
ギルド前の広場。
俺はいつものように壁。
ミレアは本。
平和。
そのはずだった。
「いたぞ!」
小さな声。
振り向くと、子どもが三人。
木の棒。
ボロ布マント。
目がキラキラ。
嫌な予感。
「参謀さまだ!」
やめろ。
「静かなる軍師!」
誰だそれ。
「伝説の“動かない人”!」
悪口だろ。
俺は否定する。
「違う。帰れ」
子どもAが言う。
「今日は作戦を教えてください!」
「ない」
「どうやったら敵を倒せますか!」
「知らない」
「どうやったら勝てますか!」
「逃げろ」
教育に悪い。
ミレアが横で冷静。
「あなたの思想が浸透しています」
してない。
どうやら昨日のギルド騒動を
誇張した噂が町に広まったらしい。
・静観で盗賊団を追い詰めた
・一言で混乱を鎮めた
・動かずに勝った
全部盛られてる。
俺は壁だっただけだ。
子どもBが言う。
「僕たち、秘密基地を守りたいんです」
どうでもいい。
「向かいの通りの子に奪われるんです!」
子ども戦争。
帰りたい。
「作戦をください!」
ミレアがこっちを見る。
やめろ。
振るな。
仕方ない。
俺は適当に言う。
「……相手より高い場所を取れ」
今思いついた。
子どもたちがざわめく。
「高所支配!」
違う。
「さすが!」
違うって。
翌日。
広場が騒がしい。
秘密基地が屋根の上に移動していた。
は?
「参謀さまの策です!」
危ないだろ。
子どもAが胸を張る。
「相手は登れません!」
確かに。
だが。
町の大人が激怒。
「屋根に登るな!」
当然だ。
なぜか俺が呼び出される。
「あなたが指示したのか」
してない。
いや、したけど。
軽率に。
ミレアが分析。
「言葉の影響力、拡大中」
やめろ。
拡大するな。
子どもたちはまだ尊敬の目。
「次の策は?」
ない。
「長期防衛戦を!」
やめろ。
内戦起こすな。
俺は深くため息。
「……戦わなくていい」
子どもたち、固まる。
「え?」
「基地なんてどうでもいいだろ」
名言っぽくなってしまった。
子どもCが涙目。
「でも負けたくない」
めんどくさい。
俺は言う。
「一緒に使え」
静観の極み。
「は?」
「時間で分けろ」
適当。
翌日。
秘密基地は共同管理制になっていた。
なぜ成功する。
子どもたちが報告に来る。
「参謀さまの策は平和を生みました!」
俺、何もしてない。
広場の母親たちが噂する。
「子ども同士の争いを止めたらしいわ」
やめろ。
拡散するな。
ギルド掲示板。
新しい貼り紙。
【教育顧問・参謀】
ふざけるな。
ミレアが言う。
「あなたは争いを回避する方向に最適化されています」
「ただの面倒くさがりだ」
「それが平和」
やめろ。
哲学にするな。
俺は思った。
魔物より怖いのは、
期待だ。
動かないだけで評価される。
適当に言っても成功扱い。
そして今。
子どもたちにまで尊敬されている。
一番の恐怖は。
このまま何もしていないのに、
本当に“それっぽい人”になってしまうことだった。




