人生相談の回
始まりは最悪だった。
ギルドでいつものように壁に張り付いていた俺の前に、
筋肉質の冒険者が立った。
でかい。暑苦しい。
「参謀殿」
嫌な呼び方。
「恋の策を授けてほしい」
帰りたい。
「いや無理」
即答。
「相手は受付嬢だ」
地雷。
「どう攻めればいい?」
攻めるな。
俺は恋愛経験ゼロだ。
ミレアが横で本をめくる。
「人間関係も戦術の一種」
裏切り者。
仕方なく言う。
「……まず距離を詰めすぎるな」
普通。
筋肉が目を見開く。
「なるほど……包囲しない、と」
違う。
翌日。
受付前に整然と並ぶ筋肉。
三歩下がって待機。
無言。
圧。
受付嬢が怯えている。
「参謀殿の策だ!」
やめろ。
噂は一瞬で広がった。
「参謀、恋も操る」
やめろ。
次に来たのは魔法使い。
「幼なじみと進展がない」
知らん。
「何か刺激が欲しい」
危険ワード。
俺は面倒になって言った。
「一回、距離置け」
適当。
翌週。
魔法使い、泣きながら報告。
「向こうに彼氏できました」
俺のせいじゃない。
でもなぜか。
「参謀の試練だな……」
前向き解釈やめろ。
ギルドの片隅に机が置かれた。
札。
【参謀の恋愛戦略室】
誰が作った。
椅子まである。
逃げ場がない。
列ができる。
なぜ。
冒険者、商人、なぜかパン屋。
「妻が怒っている」 「婚約者が冷たい」 「告白のタイミングは?」
俺は壁になりたい。
ミレアが横でメモを取る。
「興味深い」
何が。
俺は全部、適当に答える。
「謝れ」 「待て」 「様子見」
九割それ。
だが。
なぜか成功報告が増える。
「謝ったら許された!」 「待ったら向こうから来た!」
偶然だ。
絶対偶然。
ついに。
町の掲示板に貼り紙。
【恋愛参謀・本日夕方まで】
違う。
俺は畑の人間だ。
そこへ。
見覚えのある影。
ヒルダ。
王都帰り。
有名人オーラ。
「久しぶりですね」
やめろ。
こんな場面で再会するな。
ヒルダが微笑む。
「恋愛も、静観ですか?」
やめろ。
深いこと言うな。
周囲がざわつく。
「元パーティー!?」 「参謀の元相棒!?」
誤解が増える。
ヒルダは言う。
「私も相談していいですか?」
心臓止まる。
「……何を」
「どうやったら距離を縮められますか?」
誰と。
聞きたくない。
ギルド全体が静まり返る。
俺、逃げ場なし。
ミレアが小声で言う。
「ここが山場」
何の。
俺は絞り出す。
「……無理に縮めなくていい」
静観理論。
「自然でいい」
無難。
ヒルダは少し考えて、
笑った。
「参謀らしいですね」
その笑顔に。
ギルド全体が勝手に感動。
「深い……」 「究極の策だ……」
違う。
ただ逃げただけだ。
その日以降。
俺の肩書きは増えた。
・内部監査参謀
・教育顧問
・恋愛軍師
もうやめて。
俺はただの小物だ。
畑でカラスを見ていた男だ。
なのに。
なぜか。
人生相談所になっている。
一番怖いのは。
俺が一番恋愛に向いてないことを、
俺だけが知っていることだった。




