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依頼内容はこうだった。
【貴族屋敷・晩餐会の静観警備】
戦闘不要。
威圧担当。
参謀は壁。
もう嫌な予感しかしない。
「大丈夫」 ミレアが言う。
「人は観測されると秩序を保つ」
「その理論、貴族にも通じるのか?」
「統計上は八割」
二割を引くのが俺だ。
屋敷は豪華だった。
シャンデリア。
赤絨毯。
料理が無駄に高そう。
俺は壁際に立つ。腕を組む。
ミレアは後ろで本。
完璧な布陣。
貴族たちは最初こそピリッとしていた。
「参謀殿が来ているそうだ」 「静かにしろ」
静観、成功。
やっぱ俺、向いてるんじゃ――
ドン。
床が揺れた。
天井のシャンデリアが揺れる。
ざわつく会場。
「なに今の」
二度目。
ドゴォン。
壁が割れた。
外から巨大な影。
出てきたのは。
三メートル級の魔物。
黒い装甲。
赤い目。
明らかに畑向きじゃない。
貴族、悲鳴。
「きゃああああ!」
俺、腕組み継続。
やばい。
足が震えてる。
ミレアが小声で言う。
「想定外」
だろうな。
「静観、継続しますか?」
「するわけないだろ!」
魔物が咆哮。
窓が割れる。
テーブルが吹き飛ぶ。
貴族が転ぶ。
俺の評価が消し飛ぶ。
しかし。
逃げたい。
でも。
貴族の一人が叫ぶ。
「参謀殿が動かないぞ!」
動けないんだ。
「計算しているのか!?」
してない。
「策があるのだ!」
ない。
ミレアが冷静に言う。
「今あなたが走ると、秩序が崩壊します」
「もう崩壊してる!」
「まだ三割」
何の割合だ。
魔物がこちらを見る。
ロックオン。
俺。
終わった。
その瞬間。
ミレアが一歩前に出る。
本を閉じる。
珍しい。
「弱点、胸部中央」
「知ってるなら先に言え!」
「今分析完了」
遅い。
魔物突進。
俺、悲鳴。
だがその瞬間、別の方向から矢が飛ぶ。
屋敷の護衛隊がようやく参戦。
「援軍だ!」
遅い。
混戦。
テーブルが砕ける。
料理が飛ぶ。
ワインが俺にかかる。
最悪だ。
ミレアが言う。
「今です」
「何が!?」
「あなたが指をさせば統率が生まれる」
無茶言うな。
だが。
護衛隊が混乱している。
「どこを狙え!?」
「散開!?」
「いや集まれ!?」
ぐちゃぐちゃだ。
俺、半泣きで叫ぶ。
「胸だ! 胸を狙え!」
言っただけ。
根拠はミレア。
矢が集中。
魔物、怯む。
さらに魔法。
ドン。
爆発。
魔物、倒れる。
沈黙。
会場、静まる。
貴族全員が俺を見る。
「……最初から弱点を」
「やはり静観は策だったのだ」
違う。
震えてただけだ。
ミレアが小声で言う。
「成功率、上昇」
「上げるな」
ギルド翌日。
掲示板に新しい紙。
【緊急時対応参謀(静から動へ)】
やめろ。
二つ名みたいにするな。
受付が笑顔。
「昨日の件、王都に報告が」
最悪だ。
ミレアが真顔で言う。
「理論更新。静観は万能ではない」
「やっとまともなこと言ったな」
「ですが」
嫌な予感。
「あなたが叫ぶと成功率が高い」
「叫び担当にするな」
俺の異世界生活。
静かにしてるだけのはずが、
なぜか本番だけ当たる。
一番怖いのは。
理論が崩れたはずなのに、
評価だけは上がることだった。




