座ってるだけの回
討伐からしばらく。
俺は学んだ。
目立つな。
喋るな。
壁になれ。
ギルドの隅で、完全に気配を消していた。
完璧だった。
……はずだった。
受付が小声で呼ぶ。
「参謀さん」
小声でもやめろ。
「急ぎではないのですが」
その前置きが一番怖い。
依頼書。
【会議に座っているだけの仕事】
……は?
「商人組合の内部会議で、緊張感が欲しいそうで」
「俺は緊張感の象徴か何かか?」
「発言は不要です」
「それは助かる」
「腕を組んで難しい顔を」
帰りたい。
会議室。
長机。
商人十名。
俺、端に座る。
その横にミレア。
なぜ来た。
「観察」
本を開くな。
商人たちが議論を始める。
値段がどうだ。
輸送がどうだ。
俺は黙る。
ミレアも黙る。
ただページをめくる音だけが響く。
沈黙。
商人の一人が言う。
「……参謀殿が腕を組んだ」
組んでただけだ。
ミレアがぼそっと言う。
「非効率」
言うな。
商人たちがざわつく。
「やはりこの案は危険か」
違う。
ミレアはただ輸送距離の計算をしていただけだ。
議論が修正される。
まとまる。
合意。
拍手。
俺、無言。
ミレア、満足げにメモ。
報酬、銀貨一枚。
ミレアが真顔で言う。
「発言ゼロで利益発生。効率が良い」
やめろ。
翌日。
依頼追加。
【夫婦喧嘩立会い(静観)】
俺は座る。
ミレアは隣で本を開く。
夫婦が言い合う。
五分後。
妻が言う。
「……あの子、本読んでるわよ」
夫が言う。
「参謀の前だぞ」
なぜか急に理性的になる。
和解。
ミレアがつぶやく。
「人は観測されると行動が変わる」
実験するな。
さらに。
【勉強監督】
子どもが机に向かう。
俺は座る。
ミレアは横で数式を書き始める。
子どもが震える。
「参謀より隣の人の方が怖い」
正解。
夕方。
宿。
俺は天井を見る。
ミレアが言う。
「あなた、存在が抑止力になっている」
「抑止力って何だ」
「爆発しない爆弾」
褒めてない。
翌朝。
掲示板に新しい紙。
【静観士(参謀)/分析補佐:ミレア】
やめろ。
役職が増えた。
ミレアが淡々と言う。
「これは新しい職業モデル」
「冒険は?」
「非効率」
切るな。
俺の異世界生活。
戦わない。
動かない。
喋らない。
なのにミレアが理論化する。
一番怖いのは
“偶然”を“体系化”されることだった。




