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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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106/107

戦場であばれる回

昼過ぎ。

畑は、世界が「今日は静かにしろ」と言っているかのように、妙に落ち着いていた。

風が草を揺らす音だけが、かすかに耳をくすぐる。

カラスもどきは来ない。

「今日はどうしたんだ、全員サボってるのか?」とでも言いたげに、空の上を旋回している。

俺は、畑の端に立っていた。

立っているだけ。

畑を見つめているだけ。

剣も魔法も武器もない。

実績はほぼ畑。

なのに、どういうわけか“参謀”と呼ばれ、評価だけが世界を勝手に動かす。

「……平和すぎる」

独り言が、どこか遠くの森まで届いた気がする。

いや、届いてはいないだろう。

だが、届いたことにされるのが、この世界のルールである。

遠くの林から、ゴトゴトゴト……と、怪しい音。

鳥じゃない。

風でもない。

でかい。

赤い目。

角がある。

腹には何か袋がぶら下がっている。

たぶん俺のカボチャ。

いや、そんなものは知らん。

「……いや、俺、守るんじゃないんだけど」

誰も守ってほしいなんて頼んでない。

頼んでないのに、世界は勝手に盛り上がる。

空気だけで戦争が始まる。

勇者パーティが駆けてきた。

剣を抜き、魔法を構え、盾を振り上げて全力の戦闘態勢。

「参謀殿、来てください!」

来てない。

来る予定もない。

噂だけが、前線で最大の武器になっている。

この世界では、情報の噂=絶対。

モンスター、止まる。

足を止め、赤い目で俺を見つめる。

「……なんだ、この畑?」

……たぶんそんな顔。

勇者が小声でつぶやく。

「参謀殿、来てないはずだ……でも、大丈夫だよな?」

全員うなずく。

誰も確認していない。

だが、参謀殿が来る“かもしれない”というだけで戦況は止まる。

俺は畑の端で、立ち続ける。

剣なし。

魔法なし。

経験は畑だけ。

ただ立っているだけで、戦場は凍結する。

モンスターは迷う。

勇者パーティは戦闘準備万端で構える。

風が草を揺らすだけ。

何も起きない。

何もしていない。

なのに、世界は戦闘中の空気で満ちている。

十数分後。

モンスター、方向を変え、森の奥へ退散。

「あ、戦うのやめたわ」とでも言うように。

勇者パーティ、互いに顔を見合わせる。

「……参謀殿、さすがです」

さすがも何も、俺来てない。

畑に立ってただけ。

「いや、俺、何もしてないんだけど?」

誰も聞かない。

評価だけが前線で戦った。

王都に届いた報告書。

――参謀殿の存在を示唆するだけで、敵勢撤退。

――参謀殿の沈黙が戦況制御。

――指示なしでも戦果最大。

本人、現場にいない。

指示も出していない。

沈黙していただけ。

宿に戻ると女将がニヤニヤしながら言った。

「今日も、畑で戦ったんだね?」

「戦ってない」

「でも、みんな無事でしょ?」

「たまたま」

布団に転がる。

天井を見上げる。

(……畑に立つだけで戦争が終わる世界とか、もうヤバい)

カラスもどきが、端っこで小さく鳴く。

平和。

敵も来ず、畑も無事。

だが王都は勝手に大騒ぎ。

その夜。

ギルドでは、参謀殿の無言行動について議論が白熱していた。

「沈黙するだけで敵が退くとは……」

「参謀殿の存在感、恐るべし」

「来てないのに効果があるとは……」

本人は畑で、静かに虫の声を聞きながら、思った。

(……無言って、最強かもしれない)

翌朝。

掲示板に、新しい紙。

【参謀殿の沈黙を乱さぬため、話しかける際は事前申請】

話しかけるだけで申請制になった。

世界は無駄に安全策を取り、本人は畑に立っているだけ。

評価だけが、戦場で暴れ回っていた。

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