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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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105/107

喋らない回

その日から、俺は決めた。

喋らない。

余計なことは、絶対に言わない。

理由は簡単だ。

昨日、独り言が制度になった。

あれ以上ひどいことになる前に、口を封じるしかない。

人は学ぶ。遅いが、学ぶ。

朝。

ギルド。

入口を開けると、全員が一瞬で俺を見る。

そして、息を呑む。

(ほらな)

俺は何も言わず、掲示板に向かう。

紙が多い。

嫌な種類の多さだ。

【参謀殿、本日沈黙】

【沈黙=高度な思考中】

【発言がないこと自体が警告】

誰だ最初に言い出したのは。

受付嬢が、そっと声を落として話しかけてくる。

「……今日は、何かありますか?」

俺は首を横に振る。

それだけ。

受付嬢は凍りついた。

「……“ない”と断言された……」

断言してない。

首を振っただけだ。

奥から、ギルドマスターが出てくる。

無言で俺を見る。

無言で、深く頷く。

(会話、成立してないよな?)

そのまま、誰も俺に話しかけてこなくなった。

空気が、重い。

昨日より一段、重い。

町に出る。

人々は、さりげなく距離を取る。

だが、目は離さない。

俺が立ち止まる。

全員が立ち止まる。

俺が歩き出す。

ざわっと音が走る。

(……俺、行進の合図みたいになってない?)

畑に着く。

いつもの場所。

いつもの畦道。

いつもの、何も起きなさ。

俺は立つ。

喋らない。

動かない。

しばらくして、冒険者が一人、様子を見に来た。

「……参謀殿、畑、ですか」

俺は、何も言わない。

冒険者は、勝手に解釈した。

「……畑が、重要……?」

そのまま走って戻っていった。

十分後。

畑の周囲に、冒険者が増えた。

さらに十分後。

勇者パーティが来た。

勇者が、真剣な顔で俺を見る。

「今日は、畑なんだな」

俺は、何も言わない。

「……分かった」

何が。

勇者は剣を抜かず、魔法使いも詠唱を止め、

全員で畑を囲む。

結果、何も起きない。

当然だ。

ただの畑だ。

だが、夕方。

王都に届いた報告は、こうなった。

――参謀殿、沈黙をもって“要所は畑”と示唆。

示唆してない。

――勇者パーティ、畑を重点警戒。敵動きなし。

敵、最初からいない。

――参謀殿の無言判断、敵勢を完全に封殺。

封殺してない。

夜。

王都の会議室。

「参謀殿は……喋らなくても、伝わるのか?」

「むしろ、喋らない方が怖い」

「沈黙が戦術とは……」

誰かが言った。

「発言を引き出すべきでは?」

別の誰かが、すぐ否定した。

「いや、発言されたら事態が動く」

「沈黙の方が安全だ」

安全なのは、俺の精神だけだ。

宿に戻る。

女将が、そっと聞いてくる。

「今日は……何も言わなかったんだって?」

俺は、無言で頷く。

「それで……王都が会議になったらしいよ」

なぜ。

布団に倒れ込む。

(……明日から、瞬きも危険かもしれない)

翌朝。

掲示板に、新しい紙。

【参謀殿の沈黙を乱さぬため、話しかける際は事前申請】

話しかけるだけで申請制になった。

俺は畑へ向かう。

今日も、何も起きない。

だが世界は、勝手に追い詰められていく。

――本人だけが、静かになろうとしているのに。

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