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師匠と弟子1


「盗まれたのではなく、わざと盗ませたのではありませんか?」

「あら……なんのことかしらね」


 彼女は私がお土産に渡した猫ノ亭という店の珍しい麦酒を頬ずりしながら不適な笑みを浮かべる。

 カルボルトのジャビスウォーレンから戻った私は取り返した本を渡すため、そして犯人が本を盗み出した経緯を話すため、幽霊図書館のトルティ師匠のもとへと訪れていた。

 この図書館。また改築してるわね。


「私への依頼は建前で、本当はセルディーヌ卿の仕業だとはじめから知っていたのでは?」

「カルボルトにある帝国へは足を運んだアミュ?」

「師匠。はぐらかさないで質問に答えてください」


 師匠はソファに深く腰掛けると、むすっとした愛くるしい顔を私に向けて口を開いた。


「わざと盗ませた、半分は正解。でも私だって過ちくらいおかすのよ。彼の手段と覚悟は見抜けなかった、とても愚かなやり方だったみたいだけど」

「主犯を知っていた、本当に盗めるとは思わなかった、あと私に嘘をついたってところですね……」

「長年嘘つきやってると、本当と嘘の区別がつかなくなるのが困りものだわ。寛容さは忘れてないつもりよ」

「信用と信頼の話です」


 館内のみならず、外の本もある程度は管理している彼女のことだわ、危険視される死者の書の所在も把握していたのだろう。手荒い使い方をしたのは想定外みたいだけど。

 あと結界の解除とともに盗まれた神の眼は追跡できなかったようだ。


「この“物語”は終わり。本当にありがとうアミュ。粗末な脚本の割には楽しめたわね」

「旅は楽しかったですが、本にまつわる顛末てんまつはちょっと……」

「……ところでアミュ」


 先程までの柔らかい表情が一転、師匠は鋭い眼光で私に問いかけた。


「本を持ち帰る時、何か異変はなかった?」

「いえ、特には……」


 すると突然、テーブルの上に置いてあった神の眼から黒い煙のようなものが立ち込める。

 室内の空気が急に冷たくなるのを感じ、尋常ではない圧力に私はとっさに身構えた。


『■■■■■■……』

「――――うッ!」


 本から煙とともに容赦のない不協和音が鳴り、耳を塞いでも音をさえぎる効果はなく目眩めまいを起こして気分が悪くなる。


「し、師匠これは!」

「呪いの禍根かこんは絶つ必要があるのよ」

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