第一章-ありえない出会い-(4)
「……ったく、不可抗力だっつーの!」
歩いて自転車を押しながら光大は、花楓に不満を垂らしながら、葦貴と共に瀬戸内海沿いの街道を歩く。
花楓はあの後、一人で真っ先に走って帰っていった。
幼馴染みにあんな恥ずかしい所を見られたら、居ても立ってもこの場からすぐに逃げたくなるのは当然だ。
「ははは。コウはとことん運が悪いなあ」
と花楓のアレを見たのに、なぜか打たれずに済んだ運のいい小太りの親友は、軽いノリで、光大が彼女から受けた、強烈な張り手の痕を人差し指でつつき、光大の前へと出る。
「いてっ! 触るなよ、まだヒリヒリするんだからよ~」
張り手の痕をさする光大。鉄のように重く、ジーンとする。
「しかし、あれは一体何だったんだ……?」
顎に手を当てながら光大は、前を歩く葦貴の背中を見ながら、あの現象について考える。
誰かが操作しているように見えた、竜巻のような強い風……何とも奇怪で、不気味な出来事であった。
いくらワープや時空移動の実験が成功したとはいえ、今の技術であんなことができるのはまず不可能だ。これこそゲーム、アニメ、漫画であるような、言わば現実に起こりえない『超常現象』じゃないか、と光大は思い、そんな風に分析することがあまりも馬鹿らしく思えた。やめだ、やめだ。UFOだって信じていない俺がそんなことを考えてどうするんだ。
きっと、偶然できたものなんだ、と自分に言い聞かせた。
「ここも変わったなぁ~」
葦貴が呟いた一言により、自分はもうここまで来たんだと、光大は気づく。
――アスファルトで敷かれた瀬戸内海沿いの道を抜けた先にある、世界遺産――厳島神社をバックに広がる、廃れた商店街。
二人が小さい頃は、宮島の歴史・文化に興味を注がれる観光客たちによって賑わっていたが、もはやその影はなく、島の者たちが見に来ているだけだ。それでも、ごくわずかだが。
未来技術の進歩によって、島の街並みは大きく変わった。
技術革新をもっと加速させるために政府は、『未来技術推進計画』というものを打ち出し、日本に広がる小さな島々を『未来科学開発研究基地』にすると宣言したのだ。その計画対象に、宮島も例外ではなかった。もちろん市民は大反対したが、政府の強硬な圧力で抑え込まれ、未来技術研究の中心拠点へ、強引に認定されてしまった。
おかげで、島の人口も激減し、世界遺産と評される神社もその価値を失い、宮島の最高峰である弥山の周りも、次々と研究塔の建設が進んでいった。
自分たちの故郷がこんなにも変わっていくことに、光大は淋しさを感じる。
彼は、政府のやり方には疑問を感じていた。『夢』のある技術なのは確かだが、そこまでして推し進める必要があるのか、と。
「まあ、この計画を打ち立てたのも、政治家たちが技術に対する、未来の日本――『夢』の実現の可能性とやらを、信じたってことなのかもな。おれもゲームで、そんな技術者になれるように頑張らないとなぁ~」
『夢』の実現の可能性という、葦貴の何気ない一言に、光大は思わずカチンとなる。
『夢』? これが……!?
こんなゲームのような世界を実現することが『夢』だって言うのか? もっと、現実的に考えないといけないことはいっぱいあるだろう! 校長が言った『夢』だって、結局は大人たちの理想の実現のために、俺たち子供を、良いように扱う口実に過ぎないんじゃないのか!? 『夢』ってのは、大切にしている場所を破壊するほど必要なものなのか!? ばかばかしい!! 夢、夢、夢!! イライラする!!
自分のグチャグチャな気持ちを、どこに向ければいいのか分からなくなった光大は、
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「こ、光大!?」
葦貴の存在を無視し、自転車に乗って、己の狂気に身を任せるように、猛スピードで廃墟街を駆け抜け、そのまま家の方へと向かった。
ごくわずかな島の者たちからの、「バッキャロー! 危ないじゃないか!」という罵声すらも耳に聞こえないほどに。




