第一章-ありえない出会い-(3)
廊下に立たされた羞恥と大人(校長)への恨みを、剣道の部活動で発散した光大は、清々しい気持ちで靴を履きかえ、学校の校舎を出た。
青空が広がる中で帰るのは久しぶりだ。普段は夜遅くまで活動があるので、真っ暗闇の中を一人で帰る光大にとっては新鮮だった。
多分、夏休み前日なので、部活も早く終ったのかもしれない。夏の厳しい練習の余興として。
そんな気持ちが空のように晴れ渡る中、
「おーい、コーウ!」
「こうちゃーん!」
背後から二人の幼馴染み――葦貴と花楓の声が背後から聞こえてくる。
光大は右手を挙げて、二人に応えた。
幼馴染み三人が揃って帰るのは珍しいな、と光大は思う。葦貴は情報研究部、花楓は茶道部と、それぞれ違うので、一緒に帰ることは稀だからだ。
左から花楓、光大、葦貴の順番に横並びになり、校門の方へと歩いて行く。
「今日は夏休み前だというのに、散々な目にあったぜ……」
「ははは、全くだ」
光大と葦貴は今日の朝に起こった珍事を振り返った。
「まさか、担任の雷を二度も受けるとは思わなかったよ……」
光大はため息まじりに、「反省しておらんのか!」と担任にガミガミ言われたあの状況を語った。二度とあの雷男の警鐘は鳴らすまいと、心に誓った。
「大変だったな。まあ、オレは先生からゆる~く注意されただけで済んだけど」
はっはっは、と葦貴は勝ち誇ったように高笑いをする。
「……おまえんとこの担任が、神に見えるよ」
なんでこうも違うのかと、光大はつくづく思った。
そんな二人のやり取りに、
「私から見たら、二人のやり取りに呆れるわよ……幼馴染みとして情けないわ……」
花楓が悲しそうに、割って入ってくる。
「おっ、カエちゃんもオレたちみたいに、立ちたかったの~?」
軽い口調で葦貴が喰いついてくる。
「そんなわけないでしょ!」
花楓はばっさりと否定する。
「これから進路を決める大事な時期だというのに……楽観的なんだから」
と、彼らの軽度に胸を痛める。その姿は二人の保護者みたいだ。
担任のようにガミガミ言われる前に、すぐさま光大が打ち切る。
「はいはい、堅苦しい話はまた今度な。それにしても……何か変じゃないか?」
「変?」
不思議そうに、光大に訊ねる花楓。
「ああ。風の吹き方が」
「そういえば……強くなったり、弱くなったり、音みたいにリズムを鳴らしているみたいに……」
光大の指摘に葦貴も同感する。ヒュッ、ヒュッ、ヒューン! ヒュッ、ヒューン、ヒュッ! と風が小刻みに弱くなったり、強くなる。まるで、指揮者が操っているかのようにリズム良く。
「嵐でもくるのかな?」
奇妙な風に疑問を感じる花楓。
しかし、空を見上げても雲一つない快晴だ。
こういう日もあるのかもな、と光大が思ったその時。
「きゃああああ!」
二人の女子生徒の声に、三人は後ろを振り返る。
「なっ!」
その現象に一同は驚いた。
彼女たちの周りにだけ、竜巻のような強い風が吹いているのだ!
女子生徒たちは、必死にスカートを掴んでいる。その狂風は女子生徒のスカートの中を見ようとしている、下劣な通り魔のようだ。
「お、おお……」
女子生徒の必死の抵抗に目を見張る、変態男子二名。
淡い期待を寄せるが、
「もう、何見てんのよ! 帰るわよ!!」
鬼のように顔を真っ赤にした花楓に一喝され、光大と葦貴は彼女に手を掴まれ、引っ張られる。
女子生徒の方が気になり、ちらっと一瞥する光大と葦貴。すると、彼女たちの吹いている風がこちらへとやってくる!
「え、えぇぇえ!」
シンクロするように驚く二人。
それに気になっているとは知らずに引っ張っている花楓はむかむかして、二人の手を急に離し、
「もう! 二人とも、いい加減にしないと……」
花楓が二人の方へ顔を向けた瞬間、時すでに遅し。
「!」
暴風が花楓の下へ!
「う、うわ、うわわわぁぁぁ!」
「カエ!」
無防備な彼女を中心に、異常に強い風が巻き上がる!
「!」
光大と葦貴は見てはならないものを見てしまう。それは、彼女の青い水玉模様の……。
花楓を中心に巻き上がる風は、水玉のアレが見えた瞬間、すぐに消え去った……。
「……」
余りにも衝撃的な物を見てしまい、光大と葦貴は、黙ったまま俯いている花楓に唖然とする。
「あ、あのー、か、かえで、さん……?」
恐る恐る、光大は声をかける。
すると彼女の背中から、炎のようなものがゴゴゴゴゴ……、と湧き上がってくるのが見える。
幻覚ではない! 本物だ! ふんわりとした髪の毛が針のように逆立つ!
「こう、ちゃあん……」
マジギレモードの花楓に、光大はギョッとする。葦貴『にも』ではなく、自分『にだけ』鬼のような目で……。
「か、花楓、こっ、これはだな……」
不可抗力だ! と弁解しようとした瞬間!
「こうちゃんの……」
怒り狂った花楓が、勢いよく右手を振りかぶる!
「うわあぁぁぁ~。ま、まったぁ!!」
「バカ――――――っ!!」
ドゴ――――――ン!!
その瞬間、光大の頭の上に星が回っているのは、言うまでもない……。




