第一章-ありえない出会い-(2)
(えらい目にあった……)
夏休み前の全校集会で光大は、ハア~と意気消沈していた。昨日の疲れが今になって、両肩に鉛を乗せられているかのように襲ってくる。
担任の雷を受けた光大は、すぐさま廊下に立たされ、羞恥の的となってしまった。
顔を赤くしながら黙ったまま立っていると、隣の教室からもガラッ、と扉が開く音が聞こえてくる。
「俺と同じような奴がいるのかな?」とちらっと光大は見やった。
するとそこにいたのは、昨日、彼をゲームの世界へ誘った、メガネをかけ、ちょっと小太りな、幼馴染みで親友のオタクボーイ――よっしー(花楓はよっくん)こと、清水葦貴であった。
偶然にも同じく立っている幼馴染みに、光大は小声で呼んで、彼に事情を訊ねた。
彼の返答はこうだった。「遅刻」という漢字二文字。
誘った本人が、遅刻してしまうという、些か滑稽な話に光大は思わず、ぷっ、と吹いて笑ってしまった。
その笑い声が再び担任の反感を買い、二度目の雷を受けてしまったのであった。
それが原因で、座って話を聞くことすら難しい状態へと陥っているのである。目に見える視界がぼやけてくる。
しかし。
夢について語りだす、校長のイヤミな話によって、一気に目が覚めた。
光大が通っているこの高校――宮島総合文化高校は、元々『宮島文化高校』として、宮島の歴史・文化の素晴らしさを中心に、日本の古良き時代を学ぶ学校であった。
だが、小型の投影機を使って、どんな場所でもパソコンのように扱えるものを開発し、さらには時空移動やワープといった、漫画、アニメの世界以外では実現不可能と言われたものの開発、実験に成功した。そんな未来的技術の急速な進歩に、日本国民は夢中になり、古良き時代の記憶は次第に薄れていった。
そんな時代の流れに逆らうことが出来ず、入学する学生は年々減少していき、学校そのものが存続の危機に陥る事態となった。
そこで対応策として、学生の個性を反映した、『夢』を実現していく学科――総合学科としてリニューアルしたのである。おかげで、生徒も増え、名前は変わったが、宮島の地に学校は残った。
技術が人々の『夢』を果たすように、学生たちの『夢』の実現のために、一歩前へ踏み出す支援を職員一同、奮闘している。しかし、中にはそれを見つけるために入る者もいる。
――光大のように。
彼は、家が学校に近いという便宜上の理由で進学した。『夢』は行ったら見つかるだろうと呑気に思い、興味がある科目をなんとなく受け、三年目の夏休みを迎えるわけだが、『夢』に結びつく形には至っていない。どこに進学しようか決めかねている。一方で花楓は、入学以前からパティシエになるという『夢』(もちろん光大がきっかけ)があり、葦貴もゲームクリエイターという『夢』を持ち、道を切り開こうとしている。
幼馴染みの中で光大だけが、己の道を見出せずにいるのだ。
故に、二人のことを羨ましく思うと同時に焦りを感じた。
(なんだよ、『夢』って)
『夢』について語る校長――「生きていくためには『夢』は必要です」だとか、「『夢』がないと社会に置き去りにされる時代になっています」だとか、「やりたいことを見つけないと暗い人生を送ってしまいますよ」とか、そんな話を前にして、光大は苛立ちを隠すことができない。
――将来の自分を想像しろとか言うけど、俺みたいに見いだせない奴は、一体どうしろって言うんだ!?
自分の想いを今ここで校長に吐き出したい、そんな気持ちを押し殺しながら、苦々しい顔つきで、大人が学生たちに突きつけた『夢』の必要性を最後まで聞くのだった。




