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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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27-6


「恩赦、ですか…」


 恩赦により、国外追放の刑が免除されたという。


 しかし、事件を起こした事実、罪が消えるわけではない。


 

「エレナ。あなたが、希望すれば研究所に戻ることも可能です」

「研究所に復職まで…」


 今更、研究所に戻って、何をしろと?…。


 だけど、シンシア先生のそばにいることはできる。


 私はヴァネッサを見る。


「なんで、あたしを見るの?」

「なんでって…それは…」

「レーヴ様は、あんたに訊いてるんだよ?あんたのことなんだから、あんた自身で決めるものでしょ?」

「わかっているけど…あなたはどう思うかと…」


 彼女は大きくため息を吐く。


「どう思うかって…だいたいわかるでしょ…」


 ヴァネッサは、私の視線から逃げるように背を向ける。


「あんたとは、それなりの年月をシュナイツで過ごしてきて、ツーカーとは言わないまでも、お互いの気持ちや考えが、なんとなくわかるくらいの仲だと思ってたんだけどね…」


 彼女は、静かにそう話す。


「ごめんなさい…」

「謝ってどうすんの!…」


 ヴァネッサは振り向いて、私の胸ぐらを掴む。


「あんたが決めたことから、あたしは何も言わないよ。どうしたいの、あんたは?」

「どうって…」

「研究所に戻りたいのか。シュナイツに居たいのか。どっち?」


 私はヴァネッサとシンシア先生を交互に見る。


 シンシア先生は真顔で何も言わない。


 ヴァネッサは、真剣な眼差しで私を見つめる。


「私は…」


 拳を強く握った。 


「私は、シュナイツに居たい…」


 シュナイツには恩義があるし、ナミ達もいる。


 彼らはまだまだ発展途上だ。


 私がいなければ、魔法士として成長しない。

 


「そうですか…わかりました」


 シンシア先生が小さく息を吐く。


「シンシア先生。申し訳ありません…」

「いいのですよ」


 先生は優しく微笑む。


「ヴァネッサ。エレナのこと、よろしくお願いします」

「子守りは、得意じゃないんですけどね…」

「私は子どもではない」

「だったら、サクッと答えてほしいね」

「普通は迷って…」

「もういいじゃないですか!」


 ナミがヴァネッサと私の間に割って入る。


「レーヴ様とディナトス様の前なんですよ」


 ディナトス様は笑い堪えているように見えた。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」

「かまわんよ」


 ディナトス様は、さらに話し続ける。


「お前は、良い友を持った。その繋がりを切ってはいかん」

「はい…」

「お前の才を活かせるのは、研究所ではなくシュナイツのほうが向いているようだ。英雄の言葉を実行しているのも大きい。精進せよ」

「はい」

 

 私は頭を下げた。


「ディナトス様の言う通り、あなたは研究所にいるよりも、外で経験を積むほうがいいでしょう。実際、あなたは変わりました。わたしの知ってるあの頃の、エレナとは違う」

「私は、あの頃とさほど変わってはいません」


 魔法のことしか頭になかったあの頃と変わっていない。


 自分には魔法しかないからなんだけど…。 


「そんなことはありません。あなたは、確実に成長している。それは嬉しくもあり、寂しくもあります…」

「寂しいですか?」

「ええ…」


 先生は顔を伏せる。


「先生?…」

「ごめんなさい…」


 顔を上げた先生は、涙を浮かべていた。そして、その涙が一粒、こぼれ落ちる。


「あなたを小さい頃から見てきたから…ちょっと…」

「親心というやつだな」


 ディナトス様が、シンシア先生の肩に手を置く。


「やめてください…先生。そういう言い方」

「間違っていないであろう?」

「間違っていないからです…」


 シンシア先生は涙を拭う。


「シンシア先生…」


 シンシア先生がそう思ってくれていたことは、非常に嬉しい。


「シンシア先生。先生のもとで魔法を学ばせていただいたこと、心から感謝しています。そればかりか、私を自分の子のように思ってくださることにも…。先生を恩師として、そして親として、その名に恥じないように生きていきたいと思っています」


 シンシア先生は微笑みながら頷くだけ。


「いけませんね。年を取ると、涙もろくなってしまって…」


 先生はそう言って、深呼吸する。



「シンシア、そろそろ帰ろうか」

「はい…」


 シンシア先生が帰ってしまう…。


 次会えるのは、いつか…。


 恩赦の与えられたのだから、いつでも会えるが、先生に甘えてはいけない。


「先生」

「エレナ…」


 この別れに際し、何をいうべきか。


 感謝か?謝罪か?。


 言葉が思い浮かばない。


「また、会いましょう」

「はい」


 先生は優しく抱きしめてくれた。


 この温かい感触。


 兄との別れに泣きはらしていた私を抱きしめてくれた。それを思い出して、また涙が溢れ出る。


 私はすぐに涙を拭いた。


 泣き顔で別れたくはない。


「では…」


 先生とディナトス様が離れていく。 


「ありがとうございました」


 私は、微笑んで深々と頭を下げた。


 ナミも頭を下げている。


 ヴァネッサは敬礼。


 十分に離れたお二人は、閃光とともに消えてしまう。



「行ってしまった…」

「行ってしまいましたね…」


 消えたあたりを見つめる。



「いつまでこうしてるわけ?…。あたしはお腹が空いたよ…」

「私もです…」

「エレナ」

「わかっている」


 私は魔法の杖を出す。


「さっきは、ひやひやしたよ」

「どうして?」

「あんたが、シュナイツを出ていくんじゃないかってね」

「すみません。私も…」

「正直、その気持ちはあった」


 二人が少し驚く。

 

「やっぱり、レーヴ様?」

「ええ」


 シンシア先生の存在は大きい。


 これまでも、これからも。


 たぶん、私はシンシア先生の後を行くだろう。


 追い抜こうなどと思っていない。

 

 そもそも、追い抜くとか超えようという考えが間違っている。


 シンシア先生は、私の師であり目標。それは死ぬまで変わらないだろう。



「私は、シュナイツを出ない。約束する」

「そんな約束しなくていいって…」


 ヴァネッサは苦笑いを浮かべる。


「去るものは追わずってね。本人の自由なんだよ。それに、人ってやつは、いつかはいなくなる」

「そうだけど…私は…」

「あんたの気持ちわかったから、とりあえずシュナイツに帰ろ」

「ええ」


 少し納得いかなかったが、彼女にうながされ、シュナイツへと戻った。


 

 その後の話を少し。


 治癒魔法の共同研究が、五年後に開始された。


 五年もかかってしまった理由は、研究者を探すことに時間がかかってしまったからだ。


 治癒魔法を研究するには、治癒魔法が使えなければいけない。


 ナミひとりだけでは、研究らしい研究は皆無と言っていい。


 カレン・カシマ氏の研究書を読み解くのが精一杯だろう。


 しかし、ナミの多大な努力により、研究書にかかrている治癒魔法は、扱えるようになる。


 彼女は、治癒魔法を新たに作り出す研究をしている。

 

 

 私は転移魔法を完成させた。


 なぜ、気がつかなかったのか。


 よくよく考えればわかる事だった。


 先生は、地図の中に住んでいるのではないと言っていた。


 先生が言ったことをずっと考えながら、生活をしていたある日。



 午前中は、魔法の講義と実践をすることになっている。


 外で隊員達を見守っていた時だった。


 隣は弓兵隊であり、当然ながら弓矢の訓練をしている。



「やっぱ、すげえな」

「さすがはジルさん」

「激ヤバいっす」

「コツ聞いたけど、中々うまくいかないんだよな」


 隊員達がジルの称賛するなか、彼女は特に表情は変えない。


「繰り返し訓練するしかありません。弦の張り具合、目標と距離、風向風速、矢の状態。それから弾道計算」

「弾道ってもな…」

「ここくらいの距離なら計算などいりませんが、遠距離ならば、矢はやまなり飛んでいきますからそれも頭に入れなければいけません。あーそれから目標の高低差も重要です」



「高低差…」


 頭の中に閃光が走った。


 それだ!。


 私はすぐに転移魔法の魔法陣を手の平に展開する。


「どうしたんですか?エレナ様」


 隊員達が魔法陣を覗き見てる。


「転移魔法が安定しない理由がわかった」

「え?本当ですか?」


 なぜ今まで気がつかなかったのか。


 馬鹿馬鹿しいくらい基本的なことではないか。


 地面からの高さを考慮していなかった。


 魔方陣を修正する。


「これでいいはず…」


 魔方陣を再度確認。


「…大丈夫。問題ない」


 広場の中央に立って、周囲を確認。


 そして、魔方陣を足元に展開して、リカシィに転移した。


 いつものの港を見渡せる小高い丘。 


「成功した」


 成功して当たり前なのだが、違和感がない。


 今度はシュナイツへ帰る。


 広場に転移。


「大丈夫」


 足は埋まってないし、浮かんでもいない。


「完成した…ふふっ…」


 思わず笑いが漏れてしまった。


「エレナ様!どうですか?」

 

 隊員達が駆け寄ってくる。


「ど、どうなんですか?」

「完成した。転移魔法を完成させた」


 隊員達が歓声を上げて喜ぶ。さも自分達が完成させたかのように。


「おめでとうございます!」

「ヤッター!」

  

 ベッキーが喜んでいる。

 

「お前が喜んでどうすんだよ…」

「エデル。あんたは、エレナ様の気持ちがわからないわけ?」

「わかってるよ。お前はエレナ隊長以上に喜んでるじゃねえか」

「エレナ様の代わりに喜んでるの!」

「なんなんだよ…それは」

「まあいいじゃないか」

「ほんとによかったぁ…一時は上の空で、どうなるか思っていましたからぁ…」

「申し訳ない」

「いえいえ。いいんですよ」


 隊員達の前では普通していたつもりだが、そうではなかったらしい。



 肩の荷が下りるとは、こういうことを言うのだろう。


 魔法が完成して、ここまで嬉しく思っては久しぶりだ。


 魔法を習い初めた頃を思い出す。


 シンシア先生が頭を撫でて褒めてくれた、あのとき…。


「エレナ様…泣いてる?…」


 目から溢れる涙をすぐに拭う。


「別に…」


 ナミとベッキーも涙を浮かべていた。


「だから、お前らが泣いてんだよ…」


 エデルが呆れている。


「あとは任せる…無理をしないように…」

「はい」


 私は泣き顔を見せたくなくて、自分の部屋へ戻った。


 大きく深呼吸をする。


「はあ…」


 

 懸案事項がやっと解決した。

 

 シンシア先生、ありがとうございます…。


 やはり、私は魔法士としては半人前だ。


 この程度の魔法で足踏みするとは…。


 もっと高みを目指さないといけない。


 私は、決意をあらたにした。




「大した話ではなくて、申し訳ない」

「え?興味深かった?」

「あなたは少しおかしい」


「エレナ…ちょっと失礼だよ…」


「ですが、ウィル様。私の話は、盛り上がりに欠けるかと…」

 

「盛り上がりとかは考えなくていいんだ」

「僕達のありのままを聞きたいそうだから」


「そうですか…」


「僕は、この時間が楽しみなんだ」


「楽しみ?…」


「思い出して辛いこともあるけど、懐かしい気分になれるし、再確認や手紙を書かなきゃなんて思ったりね」


「なるほど、確かにウィル様の言う通りです」


「次の話も、君が関係してるね」


「はい。そちらの方が、盛り上がると思います」


「いや、だから…盛り上がりは考えなくていいんだよ…」




エピソード27  終わり

Copyrightc2020-橘 シン

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