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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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126/128

29-12


 あたし達が事務所に戻ると、監視役が来ていた。


 ガルドがあたしに近づき、耳打ちする。


 彼の声は、少し緊張していた。


「あの監視役、吸血族です」

「吸血族?」

「はい」

「そう」


 吸血族ね…。


 監視役にはうってつけか。


 吸血族は、その鋭い五感と、優れた身体能力で、監視役としては、これ以上ない適任だった。



 監視役は外交官と何やら話をしていたが、あたしに気付き小さく会釈した。


 あたしは頷き返した。



「あいつと話した?」

「挨拶だけ。なんか、嫌な感じですね。吸血族を出すところが…」


 ガルドは、吸血族ってことで警戒してる。


「ちゃんと見てるぞって、意思表示でしょ」

「腹の探り合いはやめないか?」


 ライアがそう話す。


 その声には、あたしの警戒心に対する、少しの呆れが混じっていた。


「探ってるわけじゃないよ。どんな奴かわからないから、計りかねてるんだよ」

「こっちに来たぞ」

「ああ」


  

 監視役がこっちに来る。


「はじめまして。あなたがヴァネッサ・シェフィールド隊長ですね?」

「どうも」

「バッシュです。お見知りおきを」


 そう言って丁寧に頭を下げる。その丁寧さが、少し胡散臭い。


「ライアだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

「最初に言っておく」

「はい?」

「ぼくは女だから」

「え?あーはい…わかりました」


 そう言って苦笑いを浮かべた。



 バッシュは男で、背丈は長身かな。


 ガルドほどじゃない。あたしと同じくらいか。


 吸血族なので当然、瞳が紅い。


 見た感じは、細身でさほどいい体格には見えない。


 吸血族だし、見た目じゃわからないか。



「彼が同行する。くれぐれも…」

「わかってるって」


 外交官の言葉に被せるように返事をする。


「妙な事は考えない事だ」

「わかったって…」


 オリヴィアを送り届けるだけだっつうの!。


 外交官の言葉に、少しだけうんざりする。


「さあ。さっさと行くよ」

「了解」


 事務所を出て、竜に乗り込む。


 バッシュは馬を連れてきた。


「馬…」

「はい。何か不都合が…」

「いや、別に」


 馬に速度を合わせないといけない。ということは時間、日数がかかる。


 行くのはイースタニアだから、配慮して二頭にしたんだけど、もう一頭、連れてくればよかった。


 南側から城下町を出る。


「王都沿いを北に行きます?」

「東に向かって南北の街道に出ようかな」


 王都周辺は、人が多い。


 竜と馬は走れないだろう。


 王都からできるだけ離れたほうが、時間を稼げるはず。



「バッシュ」

「はい」

「あんたが前を行きな」

「自分がですが?」

「そうだよ。馬に速度を合わせる」


 彼は頷き、先に行く。


「ガルドは…」

「隊長の後ろを行きます」

「ああ」


 わかってるね。

 

 わざわざ言う必要もなかったか。 



 あたし達は、街道を北に向かう。


 街道は、賊なんか出ないし平和だったよ。


 町や村が点在してるから不便でもない。


 しいて言えば、人が多いから竜の速さを活かせないくらいか。



「明日は検問所ですね」

「ああ」


 明日、街道を東へ向かう脇道に入る。その道を行けば検問所だ。


 今あたし達は脇道から一番近い町にいる。


 飲食店に入り、夕食をしながら歓談中。


 オリヴィアとライアは、宿で別に食事をとっている。


 一緒に食べる事ができればいいんだけど、翼人族が来たとなれば騒ぎになるし、外套を着たままじゃ窮屈だろうし。


 こっちはこっちで、食事中にも関わらず微妙な雰囲気。


 ガルドとバッシュが向かい合い、その間にあたしがいる。



「ご注文はお決まりですか?」

「あー…ガルド、あんた何にする?」

「コスパのいいやつを…」

「コスパね…バッシュ、あんたは?」

「そうですね…ステーキセットで」

「…あんたさ、値段見てる?」


 これまでもそうだったけど、こいつは値段が高いものばっかり注文する。


 支払いは別だから、何を食べようと知ったこっちゃないんだけど、こっちはどう節約するかって、気を使ってんのがバカらしくなる。



 注文してしばし待つ。



「バッシュ」

「はい?」

「あんた、ゲオルグがどうなったか知ってる?」


 彼にゲオルグの件を聞くのは、今日が初めてだった。


「もちろん、知ってますよ」

「そう。ゲオルグの残党っているの?」

「どうなんでしょうね…」


 彼は腕を組み、考える。


「いたとして、何かできるかったら…」

「できないね」


 ゲオルグ派は、ゲオルグがいたからこそ成り立ってた。


「里に引きこもってるらしいですよ」

「引きこもってる?」

「はい。今言った残党が。詳しくはわかりません」

「そう」


 ジルが、ゲオルグの腹心が里にいるんじゃないかって、話していたっけ。


 一度、里に戻りたいとも話していた。


「あんたの家族は?」


 あたしの問いに、彼は特に表情は変えない。

 

「里には、もういません」

「え?殺られた?」

「いえ。運良く、出稼ぎで里にはいなかったんですよ」

「そうかい」


 残党がいるから、戻るに戻れないらしい。


「今のところ、生活できてるからいいですけどね。友人とは、音信不通です」


 そう話すバッシュは、表情こそ変えなかったが、声のトーンは明らかに落ちた。



 料理が運ばれてくる。


 その料理の香りが、あたし達の会話を、一旦中断させた。


「おっほ!うまそう」


 バッシュが食べ始める。


 ガルドがじっと、バッシュの肉を見ていた。


「…一切れあげましょうか?」

「いらねえよ」

「まあ、そう言わずに」


 バッシュがガルドの皿にステーキを一切れ乗せる。


「…」


 ガルドは、何も言わずにステーキを口に放り込む。


 目を閉じ、うまそうに味わってる。


「隊長もいかがですか?」

「いらないよ、あたしは」


 そう言って、皿を手で隠す。



 あたしはいいとして、ガルドが腹いっぱい食べられないのは、気の毒だね。


 この体格を維持するには、最低でも二人分は食べたい。



「食べておいて、なんだが…敵同士なんだぞ」

「そうですか?」

「そうですかって…」


 ガルドが呆れてる。


「お前、監視役だって事、忘れてねえだろうな?」

「忘れてませんよ。監視する前に、翼人族の護衛があるでしょう?」

「護衛するのは、俺達の仕事だ。お前は関係ない」

「ガルド、やめなって」

「でも隊長…」

「吸血族が護衛するってんなら、むしろ好都合でしょ」


 吸血族ほど、頼りになる者はいない。


「護衛くらい俺達で十分ですよ」

「わかってるよ」


 ガルドの言う通り、護衛できると信じてる。 

 

「敵意剥き出しにしてどうすんの…向こうの思う壺だよ。変な報告されるかもしれない。できるだけ穏便に行こうじゃないの」

「はい…」


 クローディア様から穏便にって、釘を刺されてるんだから。



「バッシュ。あんたって、普段どんな仕事してんの?」

「自分ですか?…」


 そう言ってナイフとフォークを置く。


「王都周辺で情報収集してます」

「それだけ?」

「はい」

「吸血族でしょ?もっと突っ込んだ事してるじゃないの?城に無断で入ったり…」

「なんだと!」


 ガルドが身を乗り出す。


 あたしは片腕を、彼の前に出して制する。


「さすがにそれはできませんよ。警備が厳しいので」


 バッシュは苦笑いを浮かべた。


「入ったら入ったで、問題があるでしょう?」

「あるね。それこそ戦争になりかねない」

「そうです。なので、お互いに自重ということで」


 そう言って、食事を再開する。


「自分は吸血族と言っても、血は濃くないんですよ」

「そうなんだ」

「吸血族の血は四分の一だったはずです」

「それだって、あたしには当然勝てるとして、ガルドにも勝てるでしょ?」

「自信ないですよ…」

「お前、ほんとに吸血族なのかよ…」


 ガルドは、拍子抜けしたんだろうね。


「だから、隊長の言う通り穏便に行きましょうよ」

「だね」

「よろしくお願いします」


 そう言って、バッシュから握手を求められた。


 あたしは、ガッチリと彼の手を握る。


「あ、あの…ちょっと、痛いです…」

「ああ。ごめんよ」

「いえ…」


 彼の手を離さずに話を続けた。


「あんたさ、今回の任務でどれくらいのお金貰ってんの?」

「どれくらい…なんでです?」

「いいから答えなよ」


 バッシュの手を強く握る。


「ちょ!ちょっと…痛い…」

「いくら貰ったの?」

「総額二万って話で…」

「二万だと…」


 ガルドが目を剥く。


「前金で、五千貰ってます…」

「五千が懐にあるわけ?」

「少し減りましたけど」


 なるほど、どうりで羽振りがいいわけだ。


「あたし達さ、お金がなくてカツカツなんだよね」

「はい」

「ガルドは、腹がすくとブチ切れる性格でね。怖いんだよ、あたしもさ」


 ガルドは何か言いかけたから、軽く蹴る。


「お互い、穏便に行きたいじゃない?ガルドの食事分だけでいいから払ってくれないかな?」

「…いやいや!意味がわかりませんよ。自分の分は自分で、決めましたよね?」

「決めたけど、まさかあんたが、そんなにお金持ちだとは知らなかったから」

「だからって、ぼくが支払う理由にはなりませんよ」

「こいつがキレてもいいわけ?」


 あたしは、ガルドを見た。


 ガルドは腕を組んで、貧乏ゆすりを始める。


「そっちでなんとかしてくださいよ…」

「金がない」


 ガルドの貧乏ゆすりが大きくなって、テーブルが小刻みに揺れる。


「穏便に行きたいよね?」


 バッシュの手を強く握り、少しずつ力を加えていく。


「痛てて…わ、わかりましたよ!」

「そう?。助かる」

「ガルドさんの食事代だけですからね?それだけですよ?」

「それで十分。ありがとね!」


 あたしは、バッシュの手を離し、笑顔で肩を叩く。


「すみません!ステーキセットを三人前を彼にお願いします」

「はーい!」

「ええ!?…」




Copyright©2020-橘 シン 

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