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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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125/128

29-11


 キースの知り合いの店へ。その店は、活気のある鍛冶屋街の中に、ひっそりと佇んでいた。


「ここかい?」

「ああ、ここだ」


 彼は店内へと入って行く。


「よお」

「お疲れ~」


 店主はキースと同じくらいの年齢か。


 親しげに話してるってことは、友人かな。


「客を連れてきたぜ」

「客?…客ね…」


 店主はあたしとライアを見る。


「客、なのか?」

「客だろ?」


 客と思われてないみたいだね。



 剣やらナイフが雑然と置かれていた。


 剣はまとめて空の木樽の中に入ってる。


「樽って…」


 樽の中から一つ取って、鞘から引き抜く。


「…」


 研ぎはまあまあ。


 歪みはないけど、刃こぼれがある。


「これってどこで作ったやつなの?」

「さあ」


 店主は肩を竦めた。その態度にちょっとイラっとくる。


「さあって、あんたが仕入れたんでしょ?」

「おれが仕入れたけど?」

「だったら、知ってるでしょ」

「いちいち、出所なんて聞かねえよ」


 なんか話が噛み合ってない?。


「どういう事?」

「ここにあるのは買い取ったものしかないぜ」


 キースがそう話す。


「買い取った…あー、中古品ね…」

「そゆこと。だから、出所なんかしらん」


 なるほど。そりゃ刃こぼれがあって当然だ。


 でも、中古品は思いつかなかった。


 最低限使えるものばかりだけど、戦利品よりはいいかもしれない。



「払下げ品はないのか?」


 キースが店主に尋ねた。


「国から払下げか?」

「ちょっと、払下げって正規軍から?」

「ここにはないよ。品がいいからな。払下げと言っても結構な値段になる」

「ああそう」


 払下げか…。


 シュナイツも装備品がだいぶ傷んできたから、買い替えたい。


 払下げの装備を譲ってくれないかな…。


 クローディア様に相談してみようか…いい顔はしないだろうなぁ…はあ…。



「キースには、修理を依頼してるんだ」

「へえ」


 それなら研ぎと歪みに関して安心していいね。

 


「ライア、どう?」


 彼女は、剣を見ていたけど、乗り気な表情ではない。


 その瞳には、やっぱり迷いが浮かんでいた。


「んー…」

「あんたが理想とする剣はないと思うけどさ。探してみてよ」

「ああ…」


 こんな中古品しか買ってあげれないのが、心苦しい。


「どんな剣を探してるんだ?おれのとこは、種類だけはあるから」

「だってさ」

「ああ…。できれば、細身がいいんだが」

「レイピアか?」

「いや、サーベルだ」

「なら、一番奥の樽を見てくれ」


 そう言われたライアが店の奥へと行く。


「あんたは?」

「あたし?あたしは、自分のあるから。必要ない」


 あたしは左腰の剣を見せる。


「それって…長剣か」


 店主が苦笑いを浮かべた。その苦笑いは、明らかにバカにしてる。


「もしかして、竜騎士にあこがれて長剣持ってんの?」

「は?」


 あたしはキースを見た。


 彼は口を押さえて、笑いをこらえてるみたい。


 キースはあたしが竜騎士だって知ってるからね。


「女の細腕じゃ扱えないって。奥にいる彼と同じサーベルにしとけよ」


 奥にいる彼?。


 店内はあたし達だけだから…ライアがまた男に間違われてる…。



「言ってくれるじゃないの」


 あたしは素早く剣を抜き、カウンターの向こうにいる店主の肩に剣先を置いた。


「え?…」

「あたしに、長剣は扱えないって?」

「あの…」

「おかしいね。あたしが扱えないんなら、逃げれたんじゃない?」

「すみません…見えませんでした…」


 あたしは、剣先で店主の肩を叩いた後、剣を鞘に収めた。


「あはははは!」


 キースが笑い出す。


「やっちまったぁ。竜騎士だぜ、彼女は」

「なにぃ!?」


 店主が驚いてる。


「見た目で判断とか。ほんと素人だね」

「マジで竜騎士なのかよ?女だよな?」

「だから、見た目で判断するなってんの!」


 まだ信じてないみたいだね。


「ふざけんじゃないよ…全く」

「竜騎士なら竜はどこにあるんだよ?」

「すぐそばにいるよ」


 ここからは見えない。


 人通りが多いから、脇道に停めてある。



「それから、ライアは女だから」

「ライア…奥の?」

「そう」

「マジで!?」

「ほんと失礼すぎるよ、あんた」


 店主は謝罪し、それ以降は口数が少なくなった。


「キースの知り合いじゃなかったら、出ていくところだよ」

「すまないな」


 キースは笑いをこらえつつ謝る。


「ほんとに申し訳ありません!」

「半額してもらうよ」

「え?半額?…それはちょっと…」

「だったら違う店に行く」

「わかりました…」


 よし!。交渉成立だ。


「ライア。半額で売ってくれるってさ」

「半額?いいのか?」

「交渉は成立したから」

「そうか…」


 ライアは嬉しそうじゃない。


 半額でも罪悪感はあるか…。


 

 あたしは彼女のそばにいく。


「どう?ない?」

「いや…なくはないが…」


 ライアは二本の剣を手に持っている。


「ヴァネッサ。君の言っていることが、正しいのだろうな」

「何が?」

「守るために斬るって話さ」


 彼女はあたしを見た。


 あたしはライアの肩に手を置く。


「あたしは正しいから言ったんじゃないの。可能性を言っただけ」

「だからさ。それが正しいんだ」


 彼女は手に持った剣を見つめる。


「ぼくは、斬ることに少し抵抗がある」

「なんで?なにかあった?」


 そんな素振りは、今まで気づかなかった。



 ライアが経験した話。


 彼女はある村に立ち寄った。


 翼人族だった彼女は、当然ながら歓迎される。


 その日、賊がやってきた。


 村人の協力で、ライアは賊には見つからずにすんだ。


 しかし、村の若い娘達が連れ去られる。


 ライアは、義憤に駆られて娘達を連れ戻そうとしたが、村人は彼女を止める。


 すぐに帰ってくるからと。

 


「娘達は慰み者にされてるだけだと」

「それって余計に…」

「ああ。ぼくは心の底から怒ったよ」



 それを聞いたライアは、村人の静止を聞かずに、単身で賊の拠点へ。


 彼女は、娘達を助けようと奮起したが、失敗に終わる。


 一旦、拠点を離れ、次の機会を伺う。


 その内に、賊達が大勢集まり、全員が拠点を出ていく。


 好機と見たライアは、再び拠点へ。


 しかし、娘達は殺されていた。

 


「遅きに失した」

「あんた一人じゃ…」

「ああ…全くそのとおり」


 ライアは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。



 村へ戻ったライアは、信じられない光景を目にする。


 村が賊に襲撃され、村人の全員が死んでいた。


 家々には火を放たれ、燃えている。


 ライアは残っていた賊を、怒りの感情で斬り伏せた。


「何をやっているんだ…ぼくは…」


 虚しさだけが残る。言いようのない感情。


 ライアはその場を去った。



「ぼくが何もせずに立ち去れば、あんな事にはならんなかったはずだ…」

「かもね。でも、あんたはそれができなかった」

「ああ」


 気持ちがわかるから、彼女の肩を軽く握る。


「賊のほうが一枚上手だったね。あんた、監視されてたんだよ」

「そうだろうな」


 ライアは眉間に皺を寄せている。


「しばらく、剣を抜くの怖かったよ」

「今は大丈夫でしょ?」

「今はな。だが、偶に思う。自分の剣は何のためにあるのかと…」

「何のためにか…」


 難しいね。


 剣は活かすも殺すも持ち手しだいだから。


「悩んでいるなら、まだ落ちぶれちゃいないよ。あんたは」

「そうか?」

「そうだよ。あんたはわかってるでしょ?剣を抜くには勇気がいる」

「ああ」


 ライアは大きく頷く。


「あたしはね。積極的に斬れって言ってんじゃないの。守らないといけない時にそれができなかったら、後悔するでしょ。だから、それができる剣を持ってほしい」

「そうだな…」


 彼女は、大きく息を吐いた。


「やっぱり、君が正しかった」

「そう?で、その剣でいいかい?」

「これか…いや、ちょっと待ってくれ」


 彼女は樽から、取っ替え引っ替え剣を出し、上下左右に剣を振ったり突いたりする。


「さっきも言ったけど、半額してくれるってさ」

「半額にさせた、だろう?」

「あ、聞いてた?」

「恐喝だぞ」

「向こうが失礼なんだよ」

「ぼくは気にしてないからな」

「はいはい」


 ライアが剣二振りを決めた。


「これにする」

「あいよ」


 それを持ってカウンターへ。


「ありがとうございます…」

「テンション低っく」


 剣二振りで千五百だった。


「ここには、剣を下げるベルトはないのか?」

「ありますよ」


 店主はカウンターの下から木箱を出す。


「この中からお好きなものをどうぞ」

「いくらだ?」

「無料ですよ」

「ただ?ヴァネッサ、これも値切ったのか?」

「いやいや。元から無料ですから」


 キースが笑ってる。


「恐喝してる前提で話してない?」

「あはははは!」


 笑い声じゃないっての…。



 ライアの剣を購入し店を出る。


 彼女は早速、剣を身に着けた。


「いいんじゃない?」

「ああ」


 少し嬉しそうに見えるのは、あたしの勘違いかな。


 不揃いだけど。


「キース。ありがとね」

「ぼくからも礼を言わせてくれ。ありがとう」

「礼を言われるほど事はしてないぜ」


 キースが話しかけてくれなかったら、もっと時間がかかっていた。


「じゃあな。ウィルによろしく」

「ああ」


 握手をして彼と別れる。



「事務所に戻るよ」


 あたし達は少し急いで、外交事務所に戻った。



Copyright©2020-橘 シン 

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