29-11
キースの知り合いの店へ。その店は、活気のある鍛冶屋街の中に、ひっそりと佇んでいた。
「ここかい?」
「ああ、ここだ」
彼は店内へと入って行く。
「よお」
「お疲れ~」
店主はキースと同じくらいの年齢か。
親しげに話してるってことは、友人かな。
「客を連れてきたぜ」
「客?…客ね…」
店主はあたしとライアを見る。
「客、なのか?」
「客だろ?」
客と思われてないみたいだね。
剣やらナイフが雑然と置かれていた。
剣はまとめて空の木樽の中に入ってる。
「樽って…」
樽の中から一つ取って、鞘から引き抜く。
「…」
研ぎはまあまあ。
歪みはないけど、刃こぼれがある。
「これってどこで作ったやつなの?」
「さあ」
店主は肩を竦めた。その態度にちょっとイラっとくる。
「さあって、あんたが仕入れたんでしょ?」
「おれが仕入れたけど?」
「だったら、知ってるでしょ」
「いちいち、出所なんて聞かねえよ」
なんか話が噛み合ってない?。
「どういう事?」
「ここにあるのは買い取ったものしかないぜ」
キースがそう話す。
「買い取った…あー、中古品ね…」
「そゆこと。だから、出所なんかしらん」
なるほど。そりゃ刃こぼれがあって当然だ。
でも、中古品は思いつかなかった。
最低限使えるものばかりだけど、戦利品よりはいいかもしれない。
「払下げ品はないのか?」
キースが店主に尋ねた。
「国から払下げか?」
「ちょっと、払下げって正規軍から?」
「ここにはないよ。品がいいからな。払下げと言っても結構な値段になる」
「ああそう」
払下げか…。
シュナイツも装備品がだいぶ傷んできたから、買い替えたい。
払下げの装備を譲ってくれないかな…。
クローディア様に相談してみようか…いい顔はしないだろうなぁ…はあ…。
「キースには、修理を依頼してるんだ」
「へえ」
それなら研ぎと歪みに関して安心していいね。
「ライア、どう?」
彼女は、剣を見ていたけど、乗り気な表情ではない。
その瞳には、やっぱり迷いが浮かんでいた。
「んー…」
「あんたが理想とする剣はないと思うけどさ。探してみてよ」
「ああ…」
こんな中古品しか買ってあげれないのが、心苦しい。
「どんな剣を探してるんだ?おれのとこは、種類だけはあるから」
「だってさ」
「ああ…。できれば、細身がいいんだが」
「レイピアか?」
「いや、サーベルだ」
「なら、一番奥の樽を見てくれ」
そう言われたライアが店の奥へと行く。
「あんたは?」
「あたし?あたしは、自分のあるから。必要ない」
あたしは左腰の剣を見せる。
「それって…長剣か」
店主が苦笑いを浮かべた。その苦笑いは、明らかにバカにしてる。
「もしかして、竜騎士にあこがれて長剣持ってんの?」
「は?」
あたしはキースを見た。
彼は口を押さえて、笑いをこらえてるみたい。
キースはあたしが竜騎士だって知ってるからね。
「女の細腕じゃ扱えないって。奥にいる彼と同じサーベルにしとけよ」
奥にいる彼?。
店内はあたし達だけだから…ライアがまた男に間違われてる…。
「言ってくれるじゃないの」
あたしは素早く剣を抜き、カウンターの向こうにいる店主の肩に剣先を置いた。
「え?…」
「あたしに、長剣は扱えないって?」
「あの…」
「おかしいね。あたしが扱えないんなら、逃げれたんじゃない?」
「すみません…見えませんでした…」
あたしは、剣先で店主の肩を叩いた後、剣を鞘に収めた。
「あはははは!」
キースが笑い出す。
「やっちまったぁ。竜騎士だぜ、彼女は」
「なにぃ!?」
店主が驚いてる。
「見た目で判断とか。ほんと素人だね」
「マジで竜騎士なのかよ?女だよな?」
「だから、見た目で判断するなってんの!」
まだ信じてないみたいだね。
「ふざけんじゃないよ…全く」
「竜騎士なら竜はどこにあるんだよ?」
「すぐそばにいるよ」
ここからは見えない。
人通りが多いから、脇道に停めてある。
「それから、ライアは女だから」
「ライア…奥の?」
「そう」
「マジで!?」
「ほんと失礼すぎるよ、あんた」
店主は謝罪し、それ以降は口数が少なくなった。
「キースの知り合いじゃなかったら、出ていくところだよ」
「すまないな」
キースは笑いをこらえつつ謝る。
「ほんとに申し訳ありません!」
「半額してもらうよ」
「え?半額?…それはちょっと…」
「だったら違う店に行く」
「わかりました…」
よし!。交渉成立だ。
「ライア。半額で売ってくれるってさ」
「半額?いいのか?」
「交渉は成立したから」
「そうか…」
ライアは嬉しそうじゃない。
半額でも罪悪感はあるか…。
あたしは彼女のそばにいく。
「どう?ない?」
「いや…なくはないが…」
ライアは二本の剣を手に持っている。
「ヴァネッサ。君の言っていることが、正しいのだろうな」
「何が?」
「守るために斬るって話さ」
彼女はあたしを見た。
あたしはライアの肩に手を置く。
「あたしは正しいから言ったんじゃないの。可能性を言っただけ」
「だからさ。それが正しいんだ」
彼女は手に持った剣を見つめる。
「ぼくは、斬ることに少し抵抗がある」
「なんで?なにかあった?」
そんな素振りは、今まで気づかなかった。
ライアが経験した話。
彼女はある村に立ち寄った。
翼人族だった彼女は、当然ながら歓迎される。
その日、賊がやってきた。
村人の協力で、ライアは賊には見つからずにすんだ。
しかし、村の若い娘達が連れ去られる。
ライアは、義憤に駆られて娘達を連れ戻そうとしたが、村人は彼女を止める。
すぐに帰ってくるからと。
「娘達は慰み者にされてるだけだと」
「それって余計に…」
「ああ。ぼくは心の底から怒ったよ」
それを聞いたライアは、村人の静止を聞かずに、単身で賊の拠点へ。
彼女は、娘達を助けようと奮起したが、失敗に終わる。
一旦、拠点を離れ、次の機会を伺う。
その内に、賊達が大勢集まり、全員が拠点を出ていく。
好機と見たライアは、再び拠点へ。
しかし、娘達は殺されていた。
「遅きに失した」
「あんた一人じゃ…」
「ああ…全くそのとおり」
ライアは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。
村へ戻ったライアは、信じられない光景を目にする。
村が賊に襲撃され、村人の全員が死んでいた。
家々には火を放たれ、燃えている。
ライアは残っていた賊を、怒りの感情で斬り伏せた。
「何をやっているんだ…ぼくは…」
虚しさだけが残る。言いようのない感情。
ライアはその場を去った。
「ぼくが何もせずに立ち去れば、あんな事にはならんなかったはずだ…」
「かもね。でも、あんたはそれができなかった」
「ああ」
気持ちがわかるから、彼女の肩を軽く握る。
「賊のほうが一枚上手だったね。あんた、監視されてたんだよ」
「そうだろうな」
ライアは眉間に皺を寄せている。
「しばらく、剣を抜くの怖かったよ」
「今は大丈夫でしょ?」
「今はな。だが、偶に思う。自分の剣は何のためにあるのかと…」
「何のためにか…」
難しいね。
剣は活かすも殺すも持ち手しだいだから。
「悩んでいるなら、まだ落ちぶれちゃいないよ。あんたは」
「そうか?」
「そうだよ。あんたはわかってるでしょ?剣を抜くには勇気がいる」
「ああ」
ライアは大きく頷く。
「あたしはね。積極的に斬れって言ってんじゃないの。守らないといけない時にそれができなかったら、後悔するでしょ。だから、それができる剣を持ってほしい」
「そうだな…」
彼女は、大きく息を吐いた。
「やっぱり、君が正しかった」
「そう?で、その剣でいいかい?」
「これか…いや、ちょっと待ってくれ」
彼女は樽から、取っ替え引っ替え剣を出し、上下左右に剣を振ったり突いたりする。
「さっきも言ったけど、半額してくれるってさ」
「半額にさせた、だろう?」
「あ、聞いてた?」
「恐喝だぞ」
「向こうが失礼なんだよ」
「ぼくは気にしてないからな」
「はいはい」
ライアが剣二振りを決めた。
「これにする」
「あいよ」
それを持ってカウンターへ。
「ありがとうございます…」
「テンション低っく」
剣二振りで千五百だった。
「ここには、剣を下げるベルトはないのか?」
「ありますよ」
店主はカウンターの下から木箱を出す。
「この中からお好きなものをどうぞ」
「いくらだ?」
「無料ですよ」
「ただ?ヴァネッサ、これも値切ったのか?」
「いやいや。元から無料ですから」
キースが笑ってる。
「恐喝してる前提で話してない?」
「あはははは!」
笑い声じゃないっての…。
ライアの剣を購入し店を出る。
彼女は早速、剣を身に着けた。
「いいんじゃない?」
「ああ」
少し嬉しそうに見えるのは、あたしの勘違いかな。
不揃いだけど。
「キース。ありがとね」
「ぼくからも礼を言わせてくれ。ありがとう」
「礼を言われるほど事はしてないぜ」
キースが話しかけてくれなかったら、もっと時間がかかっていた。
「じゃあな。ウィルによろしく」
「ああ」
握手をして彼と別れる。
「事務所に戻るよ」
あたし達は少し急いで、外交事務所に戻った。
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