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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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29-10


「また人が多くなってませんか?」


 ガルドが、城下町に入って周囲を見ながらそう話す。


 彼の声には、驚きと、わずかな警戒心が混じり合っていた。


「なってるね。王都は来るたびに増えてるよ」

「人口が増えれば、治安も悪くなるってのに…」

「あんたが心配してどうすんの。こっちの事はこっちに任せておけばいいんだよ」

「まあ、そうですけど…」


 彼は見た目以上に真面目だからね。


 その真面目さが、あたしには頼もしく、そして少しだけ微笑ましく思えた。

 


「二人とも王都は、初めてかい?」


 ライアとオリヴィアに話しかける。が、返事がない。


 二人の様子を見る。


 二人とも、口を開け周囲をキョロキョロと見回していた。


「ヴァネッサ…すごいな、王都は」


 ライアは言葉にならないって感じだね。


「そうかい?」

「帝都より人が多いです…」


 二人とも、王都に降り立った事はないと話す。


「絶対、騒ぎになるから、避けていた」

「上から見るのとは大違いですね」

「全くだ。降りなくてよかった…」


 見方が違うね。  


 二人の言葉から、翼人族として生きることの難しさを、改めて感じる



「城と宮殿は変わらないですね」


 ガルドが城を見ながら話す。

 

「外から見る分にはね。中はちょっと変わってるよ」

「そうですか」

「修繕やら改築とかでね」



 城を左手に見ながら南側へ。


 ガルドはずっと城を見ていた。


 懐かしいだろうね。


 かつては、一番隊として竜騎士をやってたから。


「寄ってく?」

「まさか」


 あたしの言葉に、彼はそう言って苦笑いを浮かべる。


「ロキがいるよ」


 かつての同僚。

 

 ガルドの表情が少しだけ和らいだ。


「ロキ…」


 そう呟いて笑う。  


「今は班長でしたっけ?」

「ああ。本人はもう一つ上がりたいみたいだけど」

「無理でしょう」


 ガルドの厳しい言葉に、あたしは少しだけ笑っちゃった。


 あたしもそう思うから。

 

 

 外交事務所に到着する。


 正門前で衛士に止められた。


 竜は、敷地内に入れるな、だとさ。


「はいはい」


 竜を降りる。


「大人しくしてるんだよ」

「クア」


 いい子だ。


 竜を置いて中へ。


「竜から離れて大丈夫ですか?」

「大丈夫」

「そうですか…」

「竜は人の言葉がわかるんだ。そこにいろと言ったら、竜騎士本人の指示があるまで、絶対に動かない」

「へえ。いい子ですね」

 

 衛士がびびってたけど、そんな事は知らない。



 受付で、外交官を呼ぶ。


 少しして、外交官が降りてきた。


 彼の表情は、先日のあたし達とのやり取りを、まだ根に持っているように見えた。


「どうも」

「来たか」

「来たよ。監視役ってどいつなの?」

「今、呼びに行ってる。じきに来るだろう。翼人族はどなかかな?」

「オリヴィア」


 彼女を手招きする。


「彼女だよ」

「ほお」


 オリヴィアは外套を脱ぐ。


 真っ白な翼が現れた。


 その瞬間、事務所の空気が一変した。


 職員達がざわつく。その声は、驚きと、好奇心で満ちていた。



 外交官が恭しく挨拶してる。


「ご迷惑をおかけします」

「何をおっしゃいます。翼人族を守るにはイースタニアの大事な国政。いや、世の中の常識でありますから」

「それは、ありがとうございます…」


 大げさすぎやしないか。オリヴィアが閉口してるよ。


 事務所の職員が遠巻きにオリヴィアを見ていた。



「監視役っていつ来るの?」

「わからん」

「わからんって、あんたの部下でしょ?」

「直接の部下ではない」


 違うのか…。


「わかんないなら、ちょっと出てくる」

「すぐに来るかもしれんぞ」

「わかんないでしょ?。なら、こっちの用事を済ませてくるよ」

「おい!勝手に…」


 外交官が止めようとしたけど、あたしは無視した。


「ガルド」

「はい」

「あんたとオリヴィアはここに残って。あたしはちょっと…買い物してくる」

「今回の任務用ですか?なら、俺が…」


 ガルドがそう言ってくれたけど、あたしは首を振った。

 

「いや、あたしとライアで行ってくる」

「…わかりました」


 ガルドは少し納得いってないようだけど、買うのはライアの剣だからね。


「オリヴィア」

「はい」

「あたし、ライアとちょっと出てくるから。ガルドの目の届くとこにいて」

「はい…」


 彼女は、少し不安そうだ。


 あたしは事務所内を見回す。


「あの、ちょっと!」


 女性職員に話しかける。


「はい。なんでしょう」

「オリヴィアの話し相手になってくれる?」

「私がですか?」

「女同士、仲良くしてくれるとありがたい」

「はあ…」


 女性職員はオリヴィアを見る。


 オリヴィアは小さく微笑む。というより苦笑いか。


「翼人族と話せるって中々ないんじゃない?」

「まあ…はい…」

「ドヤ顔で自慢できる」


 あたしは、親指を立てた。


 ライアは呆れ顔だ。


「わかりました」

「じゃあ、よろしく」


 オリヴィアと女性職員が話し始めたのを確認してから、ライアを連れ出す。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。ここが一番安全なんだから」

「いいから。行くよ」

「…ああ」


 少し心配そうなライアを竜に乗せて、事務所を出る。


 南側から城下町を出て、東側にある鍛冶職人がいる区画へ。



「ライア」

「なんだ?」


 後ろに乗ってる彼女に話しかけた。


「オリヴィアにあんたの剣、あげたんだね」

「ああ。気づいていたか」

「そりゃわかる」


 オリヴィアはシュナイツに来た時、剣を持っていなかった。やむを得ず捨ててしまったんだけど。


 で、今日、腰に見覚えがある剣を下げていた。

 

「良かったのかい?」

「部屋の角に、飾っておくよりはずっといい。剣も本望だろう」


 本望ね…。


 置いてあって、見るたびに悪い思い出を思い出すよりはいいのかな?。


「あんたの剣だから、もう言わないよ」

「ああ。で、何を買いに行くんだ?…」


 ライアは周囲を見てる。


「あんたの剣を買いに行く」

「ぼくの?」

「そうだよ。あんたさ、背中に担いでる模擬剣で戦うつもり?」

「そのつもりだが」


 やっぱりね。あたしの予想通りだった。


「それじゃ心もとないでしょ?」

「それなりに使える。かなり丈夫な木材なんだ」

「そんなんじゃ、賊は殺せないよ」

「確かに殺傷能力は低いだろうな。しかし、戦意を喪失できれば問題ない」


 そうだけど…。


 間違ってはいない。けど、とどめを刺さなかったがために痛手をおう可能性は大いにある。


「買うにしても、お金が必要だろう?」

「もちろん。ウィルが二千だけならって」

「なに?ウィル様が資金を?おいおい…」


 ライアが竜から飛び降りた。


 あたしは竜を止める。


「ライア?」

「やめてくれ。ぼくの剣のために二千も出す必要がどこにある?」


 彼女は、眉間に皺をよせ、語気を強める。


 あたしも竜を降りた。


「今言ったでしょ。身を守るためだよ」

「真剣でなければ、身を守れないほどの実力ではないぞ。今のぼくは」

「わかってるって…」


 ライアの実力が上がっている。いや、今も上がり続けてるのは、あたしも認めてる。


 実力どうこうの話じゃない。


「オリヴィアを守る事にも繋がる」

「それも模擬剣で十分対処可能だ」


 あたしは、ため息を吐く。


 周囲は何事かと、遠巻きに見ていた。


 ちょっとした騒ぎになっちゃてるし。



「二千程度で買える剣なんて、いい剣じゃないんだから。遠慮する必要はないんだよ」

「…」


 桁が足りないっての…。


 

 ライアの睨みを、あたしは受け止める。


 参ったね…。



「ちょっといいか?…」


 横から誰かが話しかけてきた。


「あーごめんね。邪魔だった?」

「いや、そうじゃない」


 あたしは、話しかけてきた男を見る。


「よお…」

「えっと…」

「久しぶりだな」


 ウィルの友人で…確か…。


「キース」

「覚えててくれたみたいだな」

 

 半分くらい忘れてたけど。


「なにしてんの?ここで?」


 あたしの問いに、彼は笑って答えた。


「俺は鍛冶屋だから、このあたりが仕事場だぜ」

「確かに」


 そりゃそうだ。


 王都の東側は鍛冶屋が集まる区画だしね。


 ここにいなかったら、どこに行くんだった話。

 


「ライア、覚えてる?」

「もちろんだ。剣の歪みを直していた」

「そうそう。で…なに?」

「ん?あー…その、盗み聞きしてたつもりはないんだが、剣を買う買わないで…」

「そうなんだよ。こいつが素直じゃなくてさ」


 あたしは、思わず悪態をついてしまった。


「ぼくが悪いみたいな言い方をしないでくれ」


 ライアの言葉に、キースは笑う。


「まあ落ち着いてくれ。安く剣を売っている所を知ってる。それなりだけどな」

「ああそう。それは助かるよ。ね?」


 ライアに同意を求めたが、そっぽを向かれる。


「案内してもらえる?」

「ああ。こっちだ」


 キースが歩き出す。


 あたしは、ライアの腕を引いて、彼について行った。




Copyright©2020-橘 シン 

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