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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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123/128

29-9


 あたしは、出発の準備をする。


 オリヴィアを、イースタニアの東にある翼人族の村まで送っていく。


 護衛任務ってわけ。


 ウィルの時以来かな、こんなに長期間シュナイツを離れるのは。


 あの時よりは、気がだいぶ楽だね。だからって気を抜いてるわけじゃないよ。



 今日の訓練は、レスターに全部任せた。


 あたしとガルドは、明日の準備のために訓練は休み。


 心も体も、この長旅に向けて調整していく。

 


「お金の相談しないと…」


 あたしは執務室へ向かう。


 ノックして中へ。


「ウィル、今いい?」

「ヴァネッサか…いいけど、何?」

「明日の、お金の話なんだけど…」

「あー、それね。ざっくりとだけど、計算してあるよ」


 さすがウィル。


 こういうところに彼の経験が生きてくる。


 彼からメモを受け取り、内容を確認。


「ナミとソニアが結構残して帰ってきたから、余裕を持たせてある」

「なるほど…」


 ウィルがそういうなら、これで大丈夫だろう。


 あたしが相談したいのは、別の事なんだよね。だけど、少し言い出しにくい。



「あのさ…お金の余裕って、どのくらいあるの?」

「余裕?余裕なんかないよ」

「今回は、余裕を持たせてあるんでしょ?」

「あるけど、できるだけ残してほしいな」

「それは善処するけどさ…」

 

 余裕がないなら、やめておくかな…。


「どうしたのよ、ヴァネッサ。あなたらしくないわ。お金の事を気にするなんて」


 リアンがそう話しかけてきた。


 あたしだって、シュナイツの状況くらい知ってる。だけど、管轄外だし、ウィルに全面的に任せてる。


 今回は、そういう事じゃない。


「だね。ほんとにどうしたの?」

「うん…」


 ウィルとリアンはじっと、あたしを見つめてる。


 あたしは脇にどけてあった椅子を引き寄せて座った。


 そして、アルがすぐに紅茶をくれる。


「ありがと」


 紅茶を一口飲んで、カップをウィルの机に置く。そして、あたしは切り出した。


「ライアにね、剣を買ってあげたいんだよ」

「ライアに?」


 ウィルは、そうか、と呟いて腕を組む。


 彼の表情は、あたしの気持ちを理解しようと、深く考えているようだった。


「ライアは、自分の剣、持ってるじゃない?さらに買うの?」


 リアンが不思議そうに話す。


「今持ってる剣は、今のスタイルには合わないんだよ」

「スタイル?」

「なるほど…」


 リアンは首を傾げてるけど、ウィルはわかったようだ。


「ライアは今、二刀流だ。剣一振りでは意味がない」

「そう言う事。模擬剣で護衛ってのもさ…格好がつかないでしょ?手練れの賊が出て来たら不利だし」

「それはわかるけど…お金が…」

「だよね…」

「そもそもどれくらいする?剣二振りだろう?」

「ピンキリだけど…一振り一万ルグからかな…」

「い、一万…」


 ウィルとリアンが絶句する。そばにいたシンディは、むせていた。


「いや、一万以下もあるよ。質は落ちるけど…」


 できることなら、買うんじゃなくて、ライアが望む剣を作ってあげたい。


「二振りで…に、二千以下なら…」

「二千…」


 そんな安いの売ってる?…。


「これ以上は…ちょっと…」


 ウィルは苦笑いを浮かべる。


「わかった…二千でいい」


 二千で探すしかないか。

 

「で、ライアには言ってあるの?」

「ううん。言ってないよ」

「どうして?ライアの剣なのに?」

「本人は気を利かせて、断るに決まってる」


 ライアじゃなくても、シュナイツの財政状況はみんな知ってるから、自重するだろうね。


 その優しさを知っているからこそ、あたしは彼女に内緒で剣を買ってあげたかった。


「かもしれない…」


 ウィルは静かに頷く。


「この先、実戦がない保証はない。その時に真剣がない、そう考えただけで、あたしは怖い」

「うん」

「だから…」

「君の気持ちはわかるよ。けど、二千が限界だ。できるだけ値切って、いい剣をライアに買ってあげてくれ」

「ああ、わかったよ」


 執務室を出て、エレナの部屋へ向かう。

 

 

 エレナは、部屋で分厚い本とにらめっこをしている。その横顔は、真剣そのものだった。


 同じ部屋にはナミもいて、彼女も分厚い本と向かい合っていた。


「エレナ。今いい?」

「ええ。構わない」


 彼女は本を閉じた。


 あたしは、エレナのベッドに座る。


「私は出ていたほうがいいですか?」


 ナミがそう訊いてきた。


「いや、大丈夫だよ。あたしのほうが邪魔じゃない?」

「ええ」


 なぜか、エレナが答える。


「あんたに言ったんじゃないよ」

「わかっている」


 ナミがクスクスと笑い出す。


 エレナが冗談を言うなんてね。



 ナミが立ち上がり、書類を脇に抱える。


「大丈夫だよ。ほんとに」

「はい。ちょっとフリッツ先生の所に行ってきます」


 彼女はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。


「彼女、具合い悪いの?」


 そんな風には見えなかったけど。


「彼女は至って健康。フリッツ先生の所に行ったのは、医学の知識を得るため」

「医学?魔法士が?」

「治癒魔法を扱うには、医学も知らなければいけない」

「へえ」

「なので、フリッツ先生に医学を教えていただいている」


 フリッツ先生だけじゃなく、ミラルド先生とシエラからも学んでいるらしい。


 それとオリヴィアの怪我の具合いの確認も。



「それで、用とは?」


 エレナは椅子ごと体をあたしに向ける。


「明日、いや明日もかな…王都まで送ってほしい」

「承知している」

「悪いね」


 転移魔法は申し訳ないほどに、便利過ぎる。


 王都に行くのに、半月(竜ならもっと短縮できる)かかるのに、瞬き一つだから。



「帰りはどうすればいい?」

「帰りねぇ…」


 行きもそうだけど、翼人族の村に何日滞在するのかわからないし、帰りが順調とはかぎらないからね。


 それに行きたい所もある。


「六番隊に挨拶に行きたいんだよね」

「六番隊?」

「竜騎士六番隊の駐屯地。去年の襲撃の時、無理言って助けてくれたからさ」

「そういう事」

「だから、帰りは普通に帰ってくるよ」

「そう」


 たまには走って帰ってくるのもいい。

  

「それじゃ、明日よろしく」

「ええ」


 エレナの部屋を出る。


 

 

 翌日。いよいよ出発となる。


 朝食をすませた後、広場へと向かう。


 ヴァネッサとガルドが竜を引いてやってくる。


 オリヴィアはウィル様達と別れの挨拶を交わしていた。



「さてと。行きますか」


 ヴァネッサは竜を撫でながら話す。


「オリヴィアは、翼が見えないように外套来てよ」

「はい」


 翼人族は、その翼が目立つのが、難点だ。


 翼をいかに見せずに移動するかが、昨日の準備の主題だった。


 外套を着る。これは当然の如く決まったが、ただ着るだけでは明らかに違和感がある。


 オリヴィアは、体を抱くように翼を丸めて、できるだけ違和感をなくしている。


「中々、大変ね。こんな事をしなくてもいい時代が来るといいわね」

「そうですね」


 リアン様が、オリヴィアを気遣う。



「エレナ。お願い」

「了解」


 三人と竜二頭が、エレナのそばに集まる。


「エレナ様。説明は聞きましたけど、ただ立ってるだけいいのですか?」

「ええ。できるだけ、私のそばに」

「はい」

「三人も」

「あいよ」

「ここでいいか?」

「なんだか緊張するな」


 ぼくを含め、ヴァネッサ以外は転移魔法は初めてだった。


「なんて事はないから。閃光があるだけ」


 そうは言ってもな…。


 エレナを信じているが、ぼくの心は、未知の魔法に対する期待と、少しの恐怖で揺れていた。


「では、転移する」


 足下に魔法陣が広がる。


「あ、キレイ…」


 オリヴィアがそう呟いた瞬間、閃光がぼく達を包んだ。


 その光は、ぼくの視界を真っ白に染め上げた。



 目を開けば、そこは王都。

 

 その巨大な城壁に、ぼくは、ただただ驚きに満たされていた。


「すげえ…王都だ…」


 ガルドが感嘆の声をあげる。


 それはぼくもオリヴィアも同様だった。


「何が、起きたのですか?」

「魔法だけは、理解不能だ」


 多分、一生かかっても理解できないだろう。


「いつまで驚いてんの。行くよ」


 ヴァネッサは、もう竜に乗り込んでいた。


 ガルドも少し慌てて竜に乗り込む。


 ぼくは、ガルドの後ろに、オリヴィアはヴァネッサの後ろに乗る。



「エレナ。あんたはどこか行く?」

「ええ。道士様の所と、マリーダさんの所へ。ウィル様から手紙を預かっているから」

「そう。マリーダに会ったら、よろしく伝えておいて」

「ええ」


 エレナが頷く。


 彼女は、小さく手を振り見送ってくれた。


 ぼく達は、王都の西側の出入り口から城下町へ。そして、外交官がいる城下町の南側へと向かった。

 


Copyright©2020-橘 シン 

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