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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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121/128

29-7


 クローディア様の部屋の控え室でしばし待つ。


 やはり陛下付の補佐官は忙しい。

 

「どうぞ」


 メイドが紅茶を出してくれた。


「ありがとう」


 一口、飲む。温かい紅茶が、あたしの喉を通り過ぎていく。



「あんた、別の仕事をしてたんじゃないの?」


 座っている事務官に話しかける。


「ええ」

「なら、あとはあたしが報告しておくから、戻っていいよ」


 彼は真面目に拒んだ。


「そういうわけにはいきませんよ。ファレル様からのご依頼ですから、報告までするのが義務です」

「ああ、そう」



 部屋側のドアが開き、誰かが出てきた。その姿を見て、あたしは目を見開いた。


「失礼いたします」

「ロマリー?」

「え?…ヴァネッサ?」


 あたしもロマリーもお互いに少し驚く。



「何やって…あー何だっけ?なんとか訓練?」


 ロマリーは、あたしの姿を見て、必死に記憶を辿っている。


「それはまだ先。イースタニアに用があってね」

「イースタニア?」

「うん」

「隊長。行きますよ」


 事務官が、あたしを促す。


「はいはい。あのさ、ロマリー。廊下で待ってて。すぐ終わるから」

「ええ…いいけど」

「待っててよ!」


 あたしは、ロマリーに念を押す。

 

「待ってるから、早く行きなさい」


 あたしは急いで、部屋に入る。



「失礼します」


 クローディア様が、手招きする。


 その表情は、いつものように冷静沈着。


 あたし達は、奥へと進む。


「どうでしたか?」

「入国許可はいただけました。監視付きですが…」


 あたしの言葉に、クローディア様は静かに頷いた。


 詳細を事務官が説明する。


「わかりました」

「あの…実はですね…殿下が参りまして…」

「殿下?ダリル殿下ですか?」

「はい」

「なぜ、ダリル殿下が?」

「それは、あたしの方から。クローディア様との立ち話を聞いていたようで…」

「そうですか…それで、助けてくれたと」

「はい」


 クローディアは、納得できないのか少し考えこむ。


「あたしに、借りを返すとか…」

「借り…」

「あたしは、貸した事なんてないんですけどね…。数少ない友人だからとかも」


 それと、クローディア様の好みを知りたいからもあるか。

 

「そうですか。わかりました…」


 彼女は納得いってないようだけど、話を終わらせた。



「ヴァネッサ」

「はい」

「今回は、翼人族が関わっているので、許可をいただけましたが、二度目はありませんよ」

「はい…すみません」


 クローディア様の厳しい目。


 あたしはそれをまっすぐに受け止める。



 クローディア様は、大きく息を吐く。


「委細承知しました。あなたは、通常業務に戻ってください。ご苦労さま」

「はい。それでは失礼いたします」


 事務官が退出していくので、あたしも出ようとしたんだけど…。


「ヴァネッサ、あなたは残ってください」

「はい…」


 あたしだけ、個別にお叱りかな…。


 仕方がないね。


「あなた達も下がってください」


 秘書役の事務官とメイドも退出させられた。


 部屋の中は、あたしとクローディア様だけ。



「外交事務所に殿下が来た時の事を、詳しく聞かせてください」

「詳しくと言われても…」


 彼女の質問に答えながら、覚えてる限りを話した。


「個人的な、付き合いがあるみたいですね」

「そのようね…」


 クローディア様は頭を抱える。


「何かマズい事でも…」

「いいえ…まあ、大丈夫でしょう。彼らしいと言えば、らしいです」


 女をあてがった代わりに入国許可しろって…陛下はどう思うか…。やめよう考えるのは。



「わかりました。引き止めてごめんない」

「構いません」


 殿下が、クローディア様の好みを聞いてきた事は言わなかった。


 殿下とクローディア様、二人の事だし。


 あたしが口を挟むべきことではないと思った。


「では、失礼します」


 あたしは敬礼する。


「くれぐれも穏便に、目立つ事はしないでください」

「はい」


 部屋を退出しようとしたが、一旦立ち止まる。


「どうしました?」


 クローディア様は、少しだけ不思議そうな顔で、あたしを見る。


「あの…殿下と何かありました?」

「…わたくしとですか?別に、何もありませんよ」


 そう言った時、クローディア様の目が、一瞬泳いだ気がした。


「そうですか…申し訳ありません。変な事を聞いてしまって…」

「いいえ」

「失礼します」


 あたしは、もう一度敬礼して退出した。



「はあ~」


 あたしは大きな溜息を吐く。


 疲れた…。


「ヴァネッサ」

「あー、ロマリー…」

「あー、じゃないわよ。用があるんでしょ?」

「そうそう」


 彼女の手を引き、人の少ない所に行く。


「あんたが、ダリル殿下に呼びだされるかもしれない」

「は?なんで?なんでよ?」


 あたしの言葉に、ロマリーは戸惑って、あたしの腕を掴む。


「いや、あんたが悪い事をしたとか、そういう事じゃないから」

「当たり前でしょ!わたしは、何もしてないんだから」

「わかってる。ダリル殿下がね…」


 周囲を確認する。

 

 誰もいないことを確認してから、彼女に耳打ちした。


「クローディア様の事が、気になってるらしいんだよ」

「気になってる?」

「意識してる」

「意識って…まさか、好きって事?」

「多分だよ」


 まあ確証はない。だけど、あの時の殿下の態度を見れば、そうとしか考えられない。


「話は省くけど、今日、殿下に会って、クローディア様の好みを聞いてきたんだって」

「好みって、漠然としすぎ。それでクローディア様が好きって?」

「わざわざ、あたしに聞いてきたんだよ?」

「うーん…」


 ロマリーは信じてない様子。


「もしそれが本当なら、大事件よ」

「あたしは、二人がどうなろうと知らないけどさ」


 あたしの言葉に、ロマリーは呆れる。


「冷めてるわね…」

「あたしらがどうこう言える立場じゃないし」

「まあね」

「で、あんたが呼ばれる可能性がある」


 彼女は頭を抱える。


「もう…なんでわたしなのよ…」

「あんたなら、知ってるかもって、殿下に言った」

「ちょっと!」

「悪い…」

「知らないわよ。クローディア様の好みなんて…」


 だよね…。


「クローディア様のプライベートって謎なんだから」

「やっぱ、そうなんだ」

「どうすればいいの…」

「適当に」

「適当に言って、仲がこじれたらどうするのよ!」


 それはマズいね。


「知らないって、正直に言うしかない」

「そうでしょうよ…。仕事増やさないで…」

「ほんと、ごめんね。何か機会があれば、返すから」

「機会って…」


 今の所はないけど…。


「じゃあね」


 あたしは、ロマリーを置き去りして立ち去った。


「ヴァネッサのバカ!」


 ロマリーの罵倒を聞きながら。




 ヴァネッサが王都に行っている間、ぼくはオリヴィアと今後の予定を話し合っていた。


 ぼくの部屋で。


「そろそろ、帰る準備をしなければいけない」

「はい…」


 僕の言葉に、彼女の表情がやや暗くなる。


「ライア様と別れるのは、寂しいです」

「それはぼくも同じだ」


 しかし、いつまでもシュナイツにいる事はできない。


 オリヴィアの居場所は、ここではないのだから。



「君を安全に送り届けるために、考えている事があるんだ」

「考えている事です?」

「ああ」

「考えもなにも、飛んで行くだけですけど?」

「いや、飛んで行くのはやめたほうがいい。また襲撃されるおそれがある」

「まあ…確かに」


 翼人族の争いを解決できないのであれば、せめてオリヴィアを怪我一つない状態で送り届けたい。


 それは絶対条件だ。

 

「ぼくが送り届けたいと思う」

「え!?ライア様が?」


 オリヴィアは驚き、身を乗り出す。


「ぼくでは、不安かな?」

「不安なんてありません!嬉しいです!」

「そ、そうか…」


 暗かった表情が、パッと明るくなる。


「ぼく一人だけでは、心もとないから竜騎士に同行してもらおうと思っている」

「竜騎士もですか?」

「ああ。ヴァネッサともう一人誰かが行く予定だ」

「そうですか」

「そのほうが安全だから」


 要人護衛に関しては、竜騎士のほうが適任だ。ぼくなんかよりもずっと。


 その方が、彼女も安心できるだろう。


「わかりました」

 

 彼女はそう言って頷く。


 どのルートで行くとかはヴァネッサが帰ってきてからだな…。



「あの…あそこにある剣は、ライア様のですか?」


 オリヴィアが、部屋の片隅に立てかけてある剣を指す。


「ん?ああ、ぼくのだ。今はもう使っていない」

「なぜです?」

「少し重いんだ。今のスタイルに合わないから」


 今は、二刀流。


 剣一振りでは、無理な話。


 彼女は、興味深そうに剣を見つめている。


「見せてもらっても…」

「ああ。構わないよ」


 ぼくは、剣をオリヴィアに手渡す。


 彼女は、鞘から剣をゆっくり引き抜く。


「キレイな剣ですね」


 剣を間近に見る。

 

「そうかな?」

「はい。刃こぼれがほとんどない」

「うん。そのへんは、意識して気を付けていたよ。母から受け継いだ剣でもあるから」

「ライア様のお母様ものですか…」

 

 オリヴィアは嬉しそうに剣を見つめる。


 そして、上下左右に剣を振る。


 彼女が剣を振る姿が堂に入っている。やはり、翼人賊だな。


 その姿にぼくは、翼があった頃の自分を重ねた。


「重くないか?」

「いいえ。前に持っていたものより、ちょっと重いですけど、これくらいなら問題ありません」

「そうか」


 オリヴィアが持っていた剣は、シュナイツに来る途中、やむを得ず捨ててしまった。荷物とともに。


 彼女は剣すら負担に感じるくらい疲労していたから。



「その剣、君にあげるよ」

「え?」



Copyright©2020-橘 シン         

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