29-6
許可はもらえたのかって?。
ああ、もちろん。一悶着あったけどね。
エレナの転移魔法で王都へ。
イースタニアの外交事務所は、城下町にある。
南側に結構でかい屋敷を構えていた。なかなかの威圧感。
「突然過ぎるだろ」
「それは悪いと思ってる。だからって許可できないは、ないでしょ?」
あたしの目の前には、外交官の一番偉いおっさんが座ってる。
慇懃無礼な態度に、苛立ちが募る。
「戦争を再開させたいのか?君は?」
「そんなつもりはないって、言ってるでしょ。大体、ど田舎の竜騎士数名が、イースタニアに出向いて、何が起こるの?」
「ど田舎かどうかは見た目ではわからん」
「器が小さいねぇ、イースタニア帝国は」
あたしの挑発的な言葉に、彼の顔が怒りで赤くなった。
「なんだと!」
外交官は机を叩く。
「お二人とも落ち着いてください」
王国側の外交担当である事務官(男性)が割って入る。
彼の額には、冷や汗がにじんでいた。
「両国とも、戦争する意思はない。そうですよね」
「ああ、無論だ」
「王国側だって微塵もないよ」
事務官は、額の汗を拭いつつ話す。
彼の声は、あたし達の怒気を静めようと、必死に努めているようだった。
「今回は、保護した翼人族を送り届ける。これが目的です。そうですよね?」
「ああ、そうだよ」
事務官の確認に、あたしは頷く。
「という事ですので、一時的な入国許可をいただくわけにはいきませんか?」
「翼人族をこちらに預けてもらえれば、事は済む。許可も必要ない」
「ここに、預けたらいつ帰れるかわかんないでしょ。護衛用の兵士はどうすんの?帝国から呼び寄せんの?王国に帝国の兵士を入れちゃうわけ?」
「翼人族を守るという理由がある」
「それは、こっちも同じだって、さっきから言ってるでしょうが!」
あたしは、外交官の机を思いっきり蹴る。その衝撃で、机が大きく揺れた。
やっば…穴、空いちゃった…。
外交官は、蹴られた机を見て、呆然としていた。事務官もそれに気づいて、あたしを呆然と見る。
あたしは咳払いで誤魔化す。
「わかった。もういい。勝手に行く」
あたしは、その場から立ち去ろうと、くるりと踵を返した。
「ちょ!。やめてください!シェフィールド隊長!」
部屋を出て行こうとするあたしの前に、事務官が立ちはだかる。
彼の顔は、恐怖で引きつっていた。
「勝手に入国したら、それこそ外交問題になりますよ。最悪、戦争に…」
「あのさ…あんたは、どっちの味方なの?」
あたしの言葉には、苛立ちと、少しの失望が含まれていた。
事務官の胸ぐらを掴み睨む。
「どっちって…もちろん隊長の…」
「だったら、許可を…」
「落ち着けよ。ヴァネッサ」
部屋の入口から、あたしを呼ぶ声。そっちに視線を移す。
「殿下?」
ダリル・グランシェール皇太子殿下が、立っていた。
殿下は、笑顔で部屋に入ってくる。親衛隊を従えて。
「久しぶりだな」
「え?はい…」
なんで殿下がここに?。
事務官も外交官も、殿下の突然の登場に、直立不動で出迎えた。
握手を交わす。
「あの、殿下も外交官に用ですか?」
「ん?あー、まあな」
彼はあいまいに答える。
殿下が外交の仕事?。全然、興味ないと思ってた。
「これは殿下。ご機嫌麗しく」
「ああ」
殿下は、外交官に近づいていく。そして、外交官の肩に腕を回し、こっちに背を向ける。
外交官は緊張してるのか、表情は引きつっていた。
「あんた、来るの知ってたの?」
「いいえ…」
事務官も驚いた顔であたしを見る。
「しかし、殿下…」
「いいじゃないか…そっちから監視役を出せば済む話だろ?…」
なんの話?。
「この前、紹介した子はどうだった?」
「はあ…どうと言われましても…」
「お前の好みにドンピシャだったろ?」
「はい…」
「なら、わかってるよな?」
殿下はそう言って、外交官の肩を叩いてから離れる。
「ヴァネッサ。来い」
あたしを呼んで、部屋を出て行こうとする殿下。
「あたし、まだ話が…」
「終わったよ」
あたしは、わけがわからず棒立ち。
どうゆう事?。
一体、何がどうなってんの?
殿下は事務官を手招きする。
「外交官と話をしてこい」
「話…ですか?」
「そうだ」
事務官も状況を把握できていない様子。
彼の顔には、大きな困惑が浮かんでいた。殿下に言われた通り、外交官と話をしに行った。
「下で待ってるからな」
「はい!」
「ヴァネッサ、行くぞ」
「はい…」
殿下に行くぞ、と言われては逆らない。
彼の後ろをついて行く。
「どうなってんの?」
そばにいた親衛隊の一人に話しかけた。
彼の顔にも、あたしと同じような困惑が浮かんでいる。
「我々に聞くな。殿下のお考えだ」
そりゃそうだけど…。
外交事務所の一階に下りる。
一階に下りると、殿下は手を払い、親衛隊を離れさせた。
「クローディアの負担を増やすな」
殿下は眉間にシワを寄せて話す。
「申し訳ありません…」
外交事務所を紹介してもらうため、クローディア様に取り次いでもらった。
事前連絡なしの訪問にも関わらず、会ってはくれた。
「お前とクローディアが話してるところを偶然、聞いてしまった」
「全部、ですか?」
「ほぼ全部だな。お前、クローディアから怒られてただろ?」
「はい…」
突然の訪問だったし、話の内容が外交問題になりかねないもの。
怒られて当然。
事前に連絡すべき案件だったと、あたしも反省している。
外交官に取り次ぐのみで、許可は自分で取ってこいと、事務官一人だけをつけられただけ。
クローディア様に怒られたのって、いつ以来だろう?。
「殿下はなんで、あたしなんかのために…無視できたでしょ?…」
「お前は、俺の数少ない友人だからな」
そう言う殿下の顔は穏やかだった。
「友人…」
「俺に媚びないし、竜騎士の訓練でも、俺に対して手を抜いたりしない」
「まあ、しませんでしたね…」
手加減なんかしたら怒るし…。
「借りを返したとでも思ってくれ」
あたしは、彼に貸しなんて作ったつもりはない。
「で…ちょっと聞きたい事があるんだが…」
「あたしに?」
「ああ…」
殿下は視線が定まらず、腕を組んだり顎を触ったり忙しない。
さっきまでの殿下とは、態度や雰囲気が違う。
「なんです?」
「クローディアの好みはわかるか?」
少し声を落として訊いてくる。
「クローディア様の好みって言われても…何の好みか…」
「まあ、そうだよな。ははは…」
殿下は苦笑いを浮かべる。
「そもそも、なんでクローディア様の…」
ん?殿下の顔が少し赤い…。
「まさか…」
クローディア様には、誰かと恋仲じゃないかって、噂があったっけ。
でも、今、クローディア様の好みを聞くって事は、殿下じゃないのか…。
「殿下も隅に置けないですねぇ」
「な、何の事だ?」
「ふっ…」
あたしは、思わず笑ってしまった。
「お前、笑ったな」
「いいえ」
だけど、少し意外だ。
殿下が、クローディア様の事を好いていたとは。
クローディア様は、いい意味でクソ真面目な方だ。
殿下が、一番嫌いなタイプだと思うんだけど。
「あたしは、クローディア様とは言うほど仲が良いわけじゃないですけど…」
「そんな事ないだろ。一緒に食事したことあるだろ?」
「二人きりの食事はほぼないです。シュナイダー様が必ずいました」
「そうか…」
殿下は少し肩を落とす。
「ロマリーに、訊いたらどうです?」
「ロマリー?」
「はい。同期の親友です」
「そいつに訊けばわかるのか?」
「保証はありません。けど、あたしなんかよりよっぽど、クローディア様に近い」
「なるほど」
ロマリーも、クローディア様の好みなんて私的な事を知ってるとは思えないけどね。
クローディア様のプライベートって謎なんだよ。
この人、休んでんのかなって思うほどの仕事人間だし。
事務官が外交官と一緒に降りてきた。
「竜による入国許可をいただきました」
「そう」
やっとか。
「しかし、条件がある」
外交官が、あからさまに嫌な顔で話す。
「なんなの?」
「監視役として一人、同行する」
「あんたかい?」
「私ではない。当日に、紹介する」
「当日ね…」
もったいぶって…。
「一週間以内に来るから、ちゃんと用意しておいてよ」
「ああ。さっさと来い」
いちいち鼻につくねぇ…。
「殿下。またの機会に…」
「ああ。入国許可、感謝する」
「いえいえ。殿下の頼みあれば、最大限の配慮をいたします」
外交官は恭しく頭を下げる。その姿は、まるで別人だった。
「じゃあね」
あたし達は外交事務所を出た。
「お前はすぐに帰るのか?」
「いえ。クローディア様に報告してから、帰ります」
「そうか」
あたしと事務官は、クローディア様に報告するため宮殿へと向かった。
Copyright©2020-橘 シン




