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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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120/128

29-6


 許可はもらえたのかって?。


 ああ、もちろん。一悶着あったけどね。



 エレナの転移魔法で王都へ。


 イースタニアの外交事務所は、城下町にある。


 南側に結構でかい屋敷を構えていた。なかなかの威圧感。



「突然過ぎるだろ」

「それは悪いと思ってる。だからって許可できないは、ないでしょ?」


 あたしの目の前には、外交官の一番偉いおっさんが座ってる。


 慇懃無礼な態度に、苛立ちが募る。


「戦争を再開させたいのか?君は?」

「そんなつもりはないって、言ってるでしょ。大体、ど田舎の竜騎士数名が、イースタニアに出向いて、何が起こるの?」

「ど田舎かどうかは見た目ではわからん」

「器が小さいねぇ、イースタニア帝国は」


 あたしの挑発的な言葉に、彼の顔が怒りで赤くなった。


「なんだと!」


 外交官は机を叩く。


「お二人とも落ち着いてください」


 王国側の外交担当である事務官(男性)が割って入る。


 彼の額には、冷や汗がにじんでいた。


「両国とも、戦争する意思はない。そうですよね」

「ああ、無論だ」

「王国側だって微塵もないよ」


 事務官は、額の汗を拭いつつ話す。


 彼の声は、あたし達の怒気を静めようと、必死に努めているようだった。


「今回は、保護した翼人族を送り届ける。これが目的です。そうですよね?」

「ああ、そうだよ」


 事務官の確認に、あたしは頷く。


「という事ですので、一時的な入国許可をいただくわけにはいきませんか?」

「翼人族をこちらに預けてもらえれば、事は済む。許可も必要ない」

「ここに、預けたらいつ帰れるかわかんないでしょ。護衛用の兵士はどうすんの?帝国から呼び寄せんの?王国に帝国の兵士を入れちゃうわけ?」

「翼人族を守るという理由がある」

「それは、こっちも同じだって、さっきから言ってるでしょうが!」


 あたしは、外交官の机を思いっきり蹴る。その衝撃で、机が大きく揺れた。


 やっば…穴、空いちゃった…。


 外交官は、蹴られた机を見て、呆然としていた。事務官もそれに気づいて、あたしを呆然と見る。


 あたしは咳払いで誤魔化す。



「わかった。もういい。勝手に行く」


 あたしは、その場から立ち去ろうと、くるりと踵を返した。


「ちょ!。やめてください!シェフィールド隊長!」


 部屋を出て行こうとするあたしの前に、事務官が立ちはだかる。


 彼の顔は、恐怖で引きつっていた。


「勝手に入国したら、それこそ外交問題になりますよ。最悪、戦争に…」

「あのさ…あんたは、どっちの味方なの?」


 あたしの言葉には、苛立ちと、少しの失望が含まれていた。

 

 事務官の胸ぐらを掴み睨む。


「どっちって…もちろん隊長の…」

「だったら、許可を…」


「落ち着けよ。ヴァネッサ」


 部屋の入口から、あたしを呼ぶ声。そっちに視線を移す。

 

「殿下?」

 

 ダリル・グランシェール皇太子殿下が、立っていた。


 殿下は、笑顔で部屋に入ってくる。親衛隊を従えて。



「久しぶりだな」

「え?はい…」


 なんで殿下がここに?。


 事務官も外交官も、殿下の突然の登場に、直立不動で出迎えた。



 握手を交わす。


「あの、殿下も外交官に用ですか?」

「ん?あー、まあな」


 彼はあいまいに答える。


 殿下が外交の仕事?。全然、興味ないと思ってた。



「これは殿下。ご機嫌麗しく」

「ああ」

 

 殿下は、外交官に近づいていく。そして、外交官の肩に腕を回し、こっちに背を向ける。

 

 外交官は緊張してるのか、表情は引きつっていた。 


「あんた、来るの知ってたの?」

「いいえ…」


 事務官も驚いた顔であたしを見る。

  

 

「しかし、殿下…」

「いいじゃないか…そっちから監視役を出せば済む話だろ?…」


 なんの話?。


「この前、紹介した子はどうだった?」

「はあ…どうと言われましても…」

「お前の好みにドンピシャだったろ?」

「はい…」

「なら、わかってるよな?」


 殿下はそう言って、外交官の肩を叩いてから離れる。



「ヴァネッサ。来い」


 あたしを呼んで、部屋を出て行こうとする殿下。


「あたし、まだ話が…」

「終わったよ」


 あたしは、わけがわからず棒立ち。


 どうゆう事?。


 一体、何がどうなってんの?


 殿下は事務官を手招きする。


「外交官と話をしてこい」

「話…ですか?」

「そうだ」


 事務官も状況を把握できていない様子。

 

 彼の顔には、大きな困惑が浮かんでいた。殿下に言われた通り、外交官と話をしに行った。


「下で待ってるからな」

「はい!」

「ヴァネッサ、行くぞ」

「はい…」


 殿下に行くぞ、と言われては逆らない。


 彼の後ろをついて行く。


「どうなってんの?」


 そばにいた親衛隊の一人に話しかけた。


 彼の顔にも、あたしと同じような困惑が浮かんでいる。


「我々に聞くな。殿下のお考えだ」


 そりゃそうだけど…。



 外交事務所の一階に下りる。


 一階に下りると、殿下は手を払い、親衛隊を離れさせた。


「クローディアの負担を増やすな」


 殿下は眉間にシワを寄せて話す。


「申し訳ありません…」



 外交事務所を紹介してもらうため、クローディア様に取り次いでもらった。


 事前連絡なしの訪問にも関わらず、会ってはくれた。



「お前とクローディアが話してるところを偶然、聞いてしまった」

「全部、ですか?」

「ほぼ全部だな。お前、クローディアから怒られてただろ?」

「はい…」


 突然の訪問だったし、話の内容が外交問題になりかねないもの。


 怒られて当然。


 事前に連絡すべき案件だったと、あたしも反省している。


 外交官に取り次ぐのみで、許可は自分で取ってこいと、事務官一人だけをつけられただけ。


 クローディア様に怒られたのって、いつ以来だろう?。


「殿下はなんで、あたしなんかのために…無視できたでしょ?…」

「お前は、俺の数少ない友人だからな」


 そう言う殿下の顔は穏やかだった。


「友人…」

「俺に媚びないし、竜騎士の訓練でも、俺に対して手を抜いたりしない」

「まあ、しませんでしたね…」


 手加減なんかしたら怒るし…。


「借りを返したとでも思ってくれ」


 あたしは、彼に貸しなんて作ったつもりはない。



「で…ちょっと聞きたい事があるんだが…」

「あたしに?」

「ああ…」


 殿下は視線が定まらず、腕を組んだり顎を触ったり忙しない。


 さっきまでの殿下とは、態度や雰囲気が違う。


「なんです?」

「クローディアの好みはわかるか?」


 少し声を落として訊いてくる。


「クローディア様の好みって言われても…何の好みか…」

「まあ、そうだよな。ははは…」


 殿下は苦笑いを浮かべる。


「そもそも、なんでクローディア様の…」


 ん?殿下の顔が少し赤い…。


「まさか…」


 クローディア様には、誰かと恋仲じゃないかって、噂があったっけ。


 でも、今、クローディア様の好みを聞くって事は、殿下じゃないのか…。


「殿下も隅に置けないですねぇ」

「な、何の事だ?」

「ふっ…」


 あたしは、思わず笑ってしまった。


「お前、笑ったな」

「いいえ」


 だけど、少し意外だ。


 殿下が、クローディア様の事を好いていたとは。


 クローディア様は、いい意味でクソ真面目な方だ。


 殿下が、一番嫌いなタイプだと思うんだけど。


「あたしは、クローディア様とは言うほど仲が良いわけじゃないですけど…」

「そんな事ないだろ。一緒に食事したことあるだろ?」

「二人きりの食事はほぼないです。シュナイダー様が必ずいました」

「そうか…」


 殿下は少し肩を落とす。


「ロマリーに、訊いたらどうです?」

「ロマリー?」

「はい。同期の親友です」

「そいつに訊けばわかるのか?」

「保証はありません。けど、あたしなんかよりよっぽど、クローディア様に近い」

「なるほど」


 ロマリーも、クローディア様の好みなんて私的な事を知ってるとは思えないけどね。


 クローディア様のプライベートって謎なんだよ。


 この人、休んでんのかなって思うほどの仕事人間だし。



 事務官が外交官と一緒に降りてきた。


「竜による入国許可をいただきました」

「そう」


 やっとか。


「しかし、条件がある」


 外交官が、あからさまに嫌な顔で話す。


「なんなの?」

「監視役として一人、同行する」

「あんたかい?」

「私ではない。当日に、紹介する」

「当日ね…」


 もったいぶって…。


「一週間以内に来るから、ちゃんと用意しておいてよ」

「ああ。さっさと来い」


 いちいち鼻につくねぇ…。



「殿下。またの機会に…」

「ああ。入国許可、感謝する」

「いえいえ。殿下の頼みあれば、最大限の配慮をいたします」


 外交官は恭しく頭を下げる。その姿は、まるで別人だった。


「じゃあね」


 あたし達は外交事務所を出た。


「お前はすぐに帰るのか?」

「いえ。クローディア様に報告してから、帰ります」

「そうか」


 あたしと事務官は、クローディア様に報告するため宮殿へと向かった。

 


Copyright©2020-橘 シン

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