表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/128

29-5


 オリヴィアの怪我は順調に回復していく。


 一週間ほどで痛みは、なくなった。


 ぼくの心も、彼女の元気な姿を見るたびに、安堵で満たされていった。



 今、館の上空(高い高度ではない)を、彼女は気持ちよさそうに飛んでいる。


 真っ白な翼が陽の光を浴びて、キラキラと輝いていた。


「良かったですね。翼に問題がなくて」

 

 ソニアは、見上げながらそう話す。


「ああ」


 見上げているのは、ソニアとぼくだけではない。


 シュナイツのほぼ全員が、オリヴィアを見上げているだろう。

 

 白い翼を広げ、優雅に旋回している彼女の姿は、まるで絵画のようだ。


「美しいな…」


 ぼくは思わず呟いた。


 自分以外の翼人族が飛ぶ所は何度も見ているが、美しいと思ったのは、今回が初めてだ。


 ぼくの翼はもうない。だが、その失われた記憶の中で、ぼくもこうして空を飛んでいたのだろうかと、ふと感傷的な気持ちになった。


「何を言ってるんです。ライア隊長だって…」


 ハンスは、そう言いかけて、口を手で塞ぐ。


「バカ!」


 ソニアがハンスの腕を殴っている。


「どうした?」

「すみません!」


 ぼくの問いに、ハンスは恐縮したように頭を下げた。


「隊長に翼の話をしてしまって…」

「あー…別に謝るほどの事じゃない」

「はい…」

「無神経過ぎる…」


 ソニアがまだ怒ってる。


「もういいじゃないか、ソニア」

「すみません。本当に…」

「ぼくは怒ってない」



 翼を失ったのは自己責任だ。


 ぼくの大きな過失。

 

 他人を咎めたりなんか絶対にしない。

 

 ぼくの心は、もうその事実を受け入れている。



「ぼくもあんな風に飛んでいたんだなって…」

「ライアはネ~、もっとキレイだったヨ」


 ぼくの独り言に、兵舎の屋根に寝そべっていたミャンが、ひょっこりと顔を出した。

 

「降りて来たら、いきなり君に襲われた」

「ニャハハ!懐かしいネ~」


 確かに懐かしい。



「ライア、ちょっといい?」

「ヴァネッサ?ああ、構わないが」


 ヴァネッサがそばにくる。その声は、いつもより少しだけ真剣だった。


「彼女、どうするの?」


 ヴァネッサも、オリヴィアを見上げながら話す。

 

「どうとは?」

「帰るんでしょ?」

「もちろん。帰るだろう。帰る所があるのだから」


 当たり前の事を聞いてくるヴァネッサを見る。


「一人で帰すの?」

「え…あー…そうだな…」


 ぼくの返事に、ヴァネッサは厳しい表情になった。


「帰りに襲撃されない保証はないよ」


 彼女の言う通りだ。


 オリヴィアは一度、賊に襲われている。再び襲撃される可能性は、決して低くない。


「それは…マズいな」



 オリヴィアの傷はほぼ治ったが、長時間飛べるかといったら、無理だろうな。


 若いし、持久力がなさそうだ。


 賊に襲われれば、ひとたまりもないだろう。


「ついて行ったほうがいいんじゃない?」

「ぼくに翼があればそうしてる」

「馬で行くしかないね」

「彼女を馬で運ぶのか?」


 ぼくの言葉に、彼女は少しだけ考え込む。


「安全に送っていくにはそれしかないでしょ」


 ぼくは春になってから、乗馬を始めた。


 それなりに乗れるようにはなった。

 

 一人で乗る分には問題ない。しかし、オリヴィアを乗せてとなると自信はないな…



「なあ、ヴァネッサ…」

「なに?」


 ぼくは、意を決して彼女に尋ねた。


「竜騎士を、出してくれないか?」


 ヴァネッサの顔を伺うように見る。

 

 彼女の表情は、困惑と、わずかな苦悩に満ちていた。


「出してあげたいんだけど…」


 彼女の歯切れは悪い。

 

「イースタニアでしょ?…竜で乗り込むってのは、さすがにさ…」

「確かに、そうだな…」


 イースタニアとは、あくまで、停戦状態で戦争が終わったわけではない。


 竜に乗って入国すれば、それが新たな戦争の火種になりかねない。


「あたしは、送ってあげたい気持ちで、いっぱいなんだけどね…」


 彼女は、飛んでいるオリヴィアを見上げながらそう話す。


 その声には、オリヴィアへの温かい思いと、無力感が混じり合っていた。


「ああ。ありがとう」


 ヴァネッサが、そう言ってくれるのは、ありがたい事だ。



 なかなか、難しい問題が持ち上がったな…。



 オリヴィアがふわりとぼくの前に降り立つ。


 その着地は、まるで花びらが舞い降りるようだった。


「ライア様!見ててくれました?」


 彼女は笑顔でぼくの腕に掴まる。その弾けるような笑顔に、ぼくの心は癒された。


「ああ。キレイに飛べていたよ」

「ふふ。ありがとうございます!」


 もうすっかり元気になったな。


「痛みは?」

「もうありません」

「そうか。しかし、長時間は飛べないだろう?」


 ぼくの言葉に、彼女は少しだけ顔を曇らせた。

 

「ええ…。元々、長時間飛ぶのは苦手なんです…」

「そうか」


 気流を読み、それにうまく乗れば体力の消耗を減らせるが、経験を積んでコツを掴むには時間が必要だ。


 偉そうな事を言っているが、ぼくも自信はない。


 翼を失い、ぼくが教える事もできなくなってしまった。



 オリヴィアを、できるだけ早く翼人族の村に帰したいが、いい方法が思い浮かばない。



「エレナの転移魔法があるじゃない」


 リアン様が、昼食時にそう話す。


 それは真っ先に浮かんだ案だ。しかし…。


「それは難しいです」

「どうして?」

「転移魔法は一度立ち寄った所にしか、行けないからです」


 行った事のない所には、行けないという。


「転移先の決定には、そこに残された自分の残留魔法力を感じ取り決めるのです」

「へえ」

「あんたの所には、イースタニアから来たのが、いるでしょ?」

「ええ。エデルとウェインがいる。しかし、彼らには転移魔法は扱えない」


 今の彼らには転移魔法はかなり難しいそうだ。


「自分一人だけなら、ギリギリでできるかもしれない。しかし、彼らにとっては相当な魔法力を使うので、相当厳しい」

「そうか…」


 ウィル様が、残念そうに呟く。


「少ない魔法力で使えるように、改良は考えてはいますが、今すぐは無理です」


 便利だとしても、一長一短があるか。



「翼人族を送り届ける、っていう大義名分があるんだ。堂々と入国すればいいんじゃない?」

「それは、こっちの言い分でしょ?向こうが、どう思うか…」


 ウィル様の問いにヴァネッサが答える。

 


 話の中心であるオリヴィアは多目的室にはいない。


 ソニアと魔法士女子組とで食事中である。



「許可はもらえないものか」


 ぼくがそう呟くと、ヴァネッサが真剣な表情になった。

 

「許可?」

「ああ。竜でイースタニアに入国できる許可だ。許可があれば、堂々と竜で行ける」

「許可ね…」


 ヴァネッサは天井を見ながら考えている。


「確か…イースタニアとの連絡、意思疎通に外交官がいたはず」

「そんな者がいるのか」


 ぼくの驚きに、ヴァネッサは頷いた。


 セレスティア王国もイースタニア帝国も、お互いに外交官を送っているという。


「表向きは外交窓口だけど、ある意味、人質みたいなもんさ」

「嫌な言い方だな…」

「それで戦争抑止できてるんだから…あ、これは、あたしの個人的見解ね」


 ヴァネッサが苦笑いを浮かべる。


 間違ってはいないんだろうな。それで停戦できているのだから。


「その、外交官から許可をもらえれば、竜で入国できると」

「たぶんね…わかんないよ」

「では、頼む。ヴァネッサ」

「え?」


 ぼくの言葉に驚く。


「頼むって…許可取って来いって事?」

「ああ」


 ヴァネッサはため息を吐いた。


「君は、オリヴィアを送ってあげたい気持ちでいっぱいだ、と言ったじゃないか」

「あら、そんな事言ったの?」


 リアン様が笑顔で尋ねる。


「言っちゃったね…」


 ヴァネッサは、観念したように肩を落とした。


「これは、入国許可をもらって来ないといけない」

「…わかったよ。でも許可が下りるかどうかは、ほんとにわかんないよ?」

「ああ。ダメなら、ぼくが一人で行ってくるさ」


 元翼人族のぼくが、オリヴィアを無事に送り届ける。


 それが、ぼくの使命だろう。



Copyright©2020-橘 シン 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ