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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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114/129

28-17


 リクは突っ立ったまま動かない。


 あたし達や竜に視線を走らせている。


「あんた、何突っ立ってんの?」

「え?いや…」


 彼は、あたしから視線を外す。その視線は、どこか居心地が悪そうだ。


「指示待ちですよ、隊長」

「指示?…あー…」


 ライノの指摘で気づく。


 あたしは取っ手付きの桶をリクに投げ渡す。


「水を汲んできな」

「水?なんで?」


 リクは不思議そうな顔をする。


「昨日、教えてあげたでしょ?竜は水だけで生きてるって」

「うん…」

「竜に水をやるのは、日課なの」


 あたしは、それ以上は言わずに井戸を指指す。


 彼は全力で駆けて行った。


 井戸にはメイド達がいて、リクが彼女達と話をしている。



「はあ…」


 あたしは大きく息を吐く。


「どうしたんです?」

「え?別に…」


 ライノの質問には答えなかった。


「ヴァネッサ隊長は、あいつが嫌いなんだよ」

「え?そうなんですか?」

「別に嫌いってわけじゃない。リクみたいに全方位に噛みついてるのが、昔のあたしを思い出すだけ」

「噛みつくって…もうそんな事ないと思いますけど」


 一昨日に比べたらね。


「竜騎士になる前…いや、正規兵になる前だね。相当荒れてた。自分でいうのもおかしいけどさ」

「へえ…ど、どんなだったんです?」

「聞きたい?」


 あたしは笑顔で問い返す。


 ライノは、レスターを見る。


 レスターは首を横に振った。その顔には、「やめておけ」と書かれているかのようだ。


「やめておきます…」


 話してもいいけど、ここで話す話題じゃない。


 そんな昔の話を、わざわざ朝っぱらからする気にもなれなかった。



 リクが桶いっぱいの水をやっとのことで運んでくる。


「はあ…はあ…は、運んできたぜ…」

「ごくろうさん」

 

 竜の前には取っ手なしの桶をすでに置いてある。そこに水を入れる。


 竜がガブガブと水を飲み始めた。


 その大きな喉が、ゴクゴクと音を立てる。リクが興味深げに見つめてる。彼の瞳は、竜の動きに釘付けだった。


「さっさと行きな」

「は?」

「は?じゃないよ。ここに竜が何頭いると思ってんの?」


 リクが厩舎内を見回す。


「全部に?」

「当たり前でしょ」

「…」


 あたしはまた黙ったまま井戸を指指す。


 彼の顔には、諦めと、そして不満が混じり合っていた。


「なんだよ…ちっ…」


 リクは渋々といった感じで井戸へ向かおうした。


「待ちな!」


 あたしは、彼を呼び止める。その声に、彼の体がピクリと硬直した。


「目上にそういう言葉使いをするんじゃない」

「うん…は、はい」


 そう言ってから井戸へ向かう。



「キツすぎません?」

「普通でしょ」


 ライノが苦笑いを浮かべる。



「おはようございます!」


 スチュアート、サム、ミレイが起きてきた。


「はい。おはようさん」


 三人は竜の手入れを始める。


 出撃予定はないから、鞍は付けない。



「あれ?桶が足りない…」


 ミレイがあたりを見回りながら呟く。


「リクが使ってる」

「リク?」

「ほら、いただろ?末っ子だよ」

「あー…でも、なんでです?」


 ライノの言葉にミレイが首を傾げる。


 と、話してる間に、リクが帰ってくきた。


「はあ…ふう…」


 彼は、桶の水をあけてすぐ井戸に向かう。


 その様子をその場にいた竜騎士全員が見ていた。



「いじめすっか?」


 サムが苦笑いを浮かべて言う。

 

「人聞きの悪い事を言ってんじゃないの」

「でも…」

「これから竜に乗せるのに、何もさせないのはしゃくだから」

「子どもにさせる事じゃないと思いますよ?」


 ミレイがそう言って桶を持ち、井戸に向かった。


 優しいね、ミレイは。


「ヴァネッサ隊長は子どもにも厳しいですね」

「だから普通だって。後、お願い」

「はい」


 あたしは一旦、厩舎を離れる。



 あたしがリクに厳しくあたるのは、最初の印象が抜けきれてないのもある。


 リクだけじゃないかも…心中しようするし…。


 もうやめよう。


 よくよく考えれば、いい気分じゃない。


 彼らのせいで、ガルドが戦力外になったんだから。



 早めの朝食の後、南の警備隊に向けて出発した。


 特に何もなかったよ。


 賊も出なかったし。


 リクの様子?。


 あービビって口数は少なかった…かな?。



 警備隊には、あたしから説明して、四兄妹を通してもらう。


「なんか道を間違えたみたいでさ…」

「そうですか」


 警備隊からは、特に何も聞かれなかった。


「あ-、それから…うちの領主がいつもご迷惑かけてすまないって」

「ご迷惑?」

「ユウジとタイガがここを通るでしょ?」

「あの二人ですか。別に迷惑なんて思ってませんよ」

「そうかい?」


 警備隊が話すには、ユウジとタイガが通る事で賊の出現率が減ったとか。いなくなったわけじゃない。


「ワーニエ周辺も賊が減りましたし、むしろ感謝しています」

「ああそう」


 あの二人程度で賊が減るんだ。


 意外だね。なんて言ったら怒るかな?。



 あたしはリクだけを、呼んだ。


「リク!」


 少し離れた所にいた彼は、ビクッと体を震わせて、あたしを見る。


 あたしは、彼に手招きすした。


 リクが緊張した面持ちで、あたしのそばにくる。


「あの…なん、ですか?」

「あんた、竜騎士になりたいって気持ち、まだある?」

「え?…」


 彼は予想外の言葉だったのか、驚く。その瞳は、大きく見開かれていた。


「どうなの?」


 あたしは腕を組んでリクを見る。

 

 睨んでないからね。


「ある…あ、あります」

「そう」


 リクの言葉にあたしは頷く。


「アレクシスに勝てるようになったら、あたしのとこに来な。どっかの竜騎士隊に推薦してあげる」

「ええ!?あー、ても、兄貴か…」


 彼はリクは肩を落とす。


「兄貴は強いから…」


 らしいね。


 アレクシスと一戦交えたジルが、体の使い方がうまいと言ってた。


「あんたの歳じゃ、まだ勝てないよ。しっかり剣なり体術なり訓練しないと」

「はい…」

「それに、アレクシスは普通だと思う」


 手合わせしてないから、なんとも言えないけど。


 体術でジルに勝てないだから、ジル以下ってことだし。


 あたしも含めてね。


「普通…」

「その普通に勝てるようになるのが最低条件」


 リクがめげずに、どこまで頑張れるか。そこを、見たいんだよ、あたしは。


 彼の心に、諦めではなく、闘志が芽生えることを願う。


「やって…みます」

「ああ。待ってるよ」


 あたしは、姿勢を正しリクに敬礼する。


 彼も敬礼を返す。


 そして、走ってレイラの元へ行く。


 レイラがあたしに向かって何度も頭を下げている。


 あたしは、頷きだけを返した。



「いいんですか?。あんな約束して」


 ライノがあたしにそう訊いてくる。その声には、少しの心配と、そして驚きが混じってるように聞こえた。


「紹介するだけだし。どこかが拾ってくれるでしょ」

「隊長が育てるわけじゃないんですね」


 今度は、レスターが訊いてきた。


「あいつが来る頃には体力的に無理」

「またまた。そんな事ないですよ」


 ライノが、笑顔で話す。


 あたしを立ててるんだろうけど、実際いつまで竜騎士をやれるかは、わからない。


 リクが来る前に死んでる可能性も大いにある。



「ミャン!用が済んだらさっさと帰ってくるんだよ!」

「ハーイ!」

 

 彼女は笑顔で手を振ってる。


 分かってんのか?。

 

 彼女の呑気な声が、空に響く。



「さあ、帰るよ」

「見送らずに?」

「そうだよ」


 役割は果たした。


 ライノは、笑顔でイーナに手を振ってる。


 向こうも笑顔だけど、印象はよくない。


 彼女は、竜への恐怖心が抜けずにずっと叫んでたし。あたしには関係ないから、別にいいけど。



 あたし達はシュナイツへと帰った。



 あたしは報告のため執務へ。

 

「ご苦労さま」


 ウィルがそう声をかけてくれる。


 椅子に座り、アルが淹れてくれた紅茶を飲む。


「ほんと、ご苦労だったよ。この件はさ…死にかけたし」

「ごめん…」

「ウィルが謝る事じゃないわ」


 リアンがウィルを庇う。


「いや…彼らを助けなければ、ガルドが火傷をおう事はなかったはずだし」

「でも、見捨てるのが、正しいとは思えない」


 どっちが正しいのかなんて、あたしにはわからない。


 レイラ達に明るい未来が訪れて幸せになれば、それでいいんじゃない?。


「一難去った感じかな」

「だといいけど、嫌な予感が消えないんだよねぇ…」

「え…」


 


「レイラ達四兄妹は、森の村に受け入れられと報告を受けたよ」

「レイラは、たまシュナイツに来て、エレナを手伝ってるね」

「それでよかったのかって?」

「レイラの表情を見る限りはよかったと思うよ」


「今のところ、ノーストリリムから追っ手は来てないからね」


「うん」

「ヴァネッサは終始、不機嫌だったよね」


「当たり前でしょ。あたしじゃなくても不機嫌になるって。こうやって話をできなかったかもしれないんだよ。あ、それからガルドが一ヶ月くらい使い物ならかった」


「戦力的には、かなり痛かったね」

「後遺症がなくてよかったよ」


「火傷の跡が痛々しいよ…見れたもんじゃない」


「見たんだ」

「僕は怖くて見れないよ…」


「一応確認したさ。隊長として」


「そう」


「あー、そろそろ、ぼくの番だと聞いたんだが…」


「ライア?そうか…そうだよね」


「じゃあよろしく」


「承知した。ん?ヴァネッサは行かないのか?」


「次の話はあたしも関わってるから」


「確かに」


「この後の話…四つくらいだと思うけど、あたしは関わってんだよね…」


「君は居てくれ。一人じゃ疲れる…」


「わかってるって」


「では、始めようか」


エピソード28  終わり

Copyrightc2020-橘 シン

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