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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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113/128

28-16


「エレナさんはここではどんな研究を?」

「大した研究をしていないのが、現状」


 破壊的は魔法は失敗した時の影響が大きいのでしていない。


「していないわけではない…ちょっと待って」

「はい」


 抽斗から、紙の束を取り出す。


「シュナイツで作った魔法は、一応資料として残してある。興味があるなら読んでくれて構わない」

「よろしいのですか?」


 彼女は少し驚く。


「ええ。隠すような魔法ではないから」

「では、拝見させていただきます」


 レイラは、資料を一枚一枚と読んでいく。


「日常生活に使うものばかりですね…」

「ええ。領民から依頼を受けて作ったものが多い」

「はい。小麦を挽く魔法ですか…」

「これは非常に喜ばれた。石臼よりも早く挽けて、時間効率が上がった」


 レイラは、資料から顔を上げ、私に問いかける。彼女の表情には、少しの驚きと、そして納得が入り混じっていた。



「千里眼も領民からの依頼ですか?」

「それは違う。それは、シュナイツの防衛のために作った」

「防衛?」

「ええ。シュナイツは賊から襲撃を受ける事があるから。今はだいぶ少なくなったけど。早期警戒用に作った。山を越えた町の中も見通せる」

「すごいですね」


 彼女は感嘆の声を上げる。


「まだ改良中だけど」

「改良?…どこをですか?これ以上の余地がないように見えます」


 レイラは、信じられないといった表情で私を見つめる。


「今の千里眼は昼間しか使えないし、声や音は聞こえない」

「そうなのですね。私はこれで十分かと思いますが…」

「ええ。確かに必要最低限の機能は果たしている。これ以上は、私個人の欲求に過ぎない」

「欲求…」


 レイラは少し肩を落とす。


「どうかした?」

「いえ、別に…」


 彼女は黙り込んでしまう。部屋には、静寂が訪れた。


 レイラは少し俯きながら話す。その声は、消え入りそうに小さかった。


「エレナさんはすごいです」

「私は全然すごくない」

「あなたは常に高みを目指そうしている。知的好奇心や知識欲求が高いのでしょうね」

「そう?」


 私はそこまで考えた事がなかったから、ピンとこなかった。


「私は、あなたと同じようにニ度の限界突破をしました。それで満足してしまって…もう研究はしなくていいかなと…」

 

 彼女は、話し終えて恐る恐る私を見る。


 その瞳は、私の反応を伺うような眼差し。


 私はレイラの目をじっと見つめた。


「研究するしないは個人の自由。あなたがしたくないのなら、そうすればいい。私は何もいわないし、強いるものでないから。でも…」


 一旦、言葉を切る。


「でも…ニ度の限界突破をして何もしないのは、残念だと思うし、他の魔法士に対して失礼ではないかと思う」

「失礼ですか…」

「ええ。魔法を扱えても、一度も限界突破をできない魔法士もいる。彼らから見れば、あなたの才能は羨望の的。なのに、あなたは現時点で満足している」


 ニ度の限界突破できる才能は、望んで得たものでない。


 私もレイラもそうだ。


 ならば、その才能を遺憾なく発揮すべきではないか?。


「それが使命、だと私は思う」

「…」


 レイラは何も言わない。


「私は恩師をはじめ、たくさん人に助けられてきたから、その人達へ恩返しの意味も込めている。私には、魔法しか取り柄ないから」

「恩返し…」


 彼女は目頭を抑えて、少し肩を震わせる。


「ごめんなさい。言い過ぎたかもしれない。あなたを咎めたつもりはないから…」

「分かっています…浅はかな自分が、情けなくて…」


 レイラは俯いたまま。


 私は、彼女のどのような言葉をかけるべきか悩んだ。


 励ますべきか、同情すべきか…。



「レイラ。今のあなたは、余裕がないのではないか思う」

「余裕ですか…」

「ええ」


 境遇を聞いた限りでは、魔法士として研究する事よりも、それ以外の仕事のほうが圧倒的に多かったようだ。


 それに兄妹達の事も気にかけていたはず。


 彼女の疲労は、肉体的なものだけでなく、精神的なものも大きいのだろう。


「落ち着ける場所が見つかれば、研究に割ける余裕が出てくるかもしれない」

「落ち着ける場所…そう、ですね…」


 彼女は顔を上げ、私を見る。その瞳には、まだ涙の膜が張っていた。

 

「すみません。泣いてしまって…」


 レイラは自嘲気味に苦笑いを浮かべた。


「謝る必要はない」

「はい」


 彼女は、涙を拭きながら立ち上がる。

 

「…このへんで失礼します」


 そう言った後、私の資料を差し出す。


「ありがとうございます。とても参考になりました」

「持って行って構わない」

「え?でも…資料なのでは?」

「たいそうものではない。単なる備忘録。だからあげる」


 彼女は困惑し、資料と私を交互に見る。


「そんなものでよければ、役立てほしい」

「エレナさん…」

「さあ、もう行ったほうがいい。また変に思われるかもしれない」


 半分追い出しように、彼女の背中を押す。


「本当ににありがとうございます…このご恩は、必ずいつか返します」

「返す必要はない。同じ魔法士として、ほんの少しだけ手助けしただけ」


 私の自己満足でしかない。

 

 レイラは深々と頭を下げてから、去っていく。


 彼女の足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。


 私はドアを閉めて、息を吐く。



 以前の私ならこんな事はしていないと思う。


 他人などどうでもよかったのに…。


 レイラへの助けは自己満足なのはわからない。なのに、この充足感はなんだ?。


 私の助けがレイラ達を良い方向に向かわせたわけでないのに…。


「変な感じ…」


 私はベッドに寝て目を閉じた。




 翌朝、夜明け前の薄明かりの中、あたしはいつもより早く起きて、竜に鞍を付けていた。

 

 ひんやりとした空気が肌を撫でる。


「隊長、おはようございます…」

 

 ライノがあくびをしながら、厩舎へやってくる。


 彼の顔には、まだ眠気が残っているようだ。


「ああ。おはようさん」


 彼も自分の竜に鞍をつけ始める。革と金具が擦れる音が、静かな厩舎に響く。

 

「おれはタンデム用ですよね?」

「ああ」

「タンデム用は二つしかないですけど?…どうするんです?」

「どうって?」


 竜騎士隊は四兄妹を南の山にある警備隊まで送る事になっいる。


「四人乗せないといけないのに…」

「うまく乗せるしかないね」


 横乗りなら、なんとかなるでしょ。


「あたしはリクを乗せるから」


 子ども一人なら楽だし。


 リクもあたしの竜に乗りたいっていう気がするんだよね。


「あんたは…」

「イーナって女の子でもいいですか?…」

「は?」


 彼は、あたしの顔を伺いつつ、訊いてくる。その声には、少しの期待と、そして下心が混じっているように聞こえた。


「あたしに聞かないでよ」

「え?じゃあ誰に聞けばいいんです?」

「本人に聞けばいいでしょ」

「あ-、はい…もし断れたら…」


 知らないっての…。


「なんであんたの下心に、あたしが手をかさないといけないの?」

「下心…そういうわけじゃ…」


 ライノは顔を赤くする。


「違うの?」

「どうでしょうね?ははは…」


 彼は曖昧に笑う。


 イーナは、ノーストリリム出身のためか王国にはいない顔立ち。


 かわいいと言えばかわいい。


 ライノの気持ちもわからなくもない。

 


「おはようございます」

「レスタ-かい?おはようさん」


 レスターも鞍をつけ始めた。


「四兄妹の割り振り決まってるんですか?」

「あたしはリク。ライノはイーナがいいってさ」

「え?」


 ライノが驚く。彼の顔は、さらに赤くなった。


「え?って、あんたさっき、自分で言ったでしょ」

「ライノがそうなら…アレクシスでしたっけ?かな…ガルドが動ければ、あいつに任せるんですけどね」


 ガルドは火傷で復帰はまだまだ先だ。


 竜は、人ひとりなら大丈夫だけど、得手不得手はある。

 


「ミャンの竜にも鞍を付けといて。あいつも行くってさ」

「あーそうですか…という事はレイラ?ですか?」

「そうなるね。はい、完了」


 あたしはそう言って、鞍を叩く。


「クア」

「今日は南の山を上がるから、頼むよ」

「クア!」


 竜は甲高い声を上げた後、あたしの体に顔を擦ってくる。


 あたしは竜の顔を撫で回す。


「竜に慣れてくれて良かったです」

「まあね」


 あれほど怖がってたリアンが大丈夫なんだから、心配してなかったけど。

 

 

「お、おはようございます!」


 厩舎の外からの声に、あたし達を向けた。


 そこにはリクがたっていた。


 彼の顔には、少しの緊張が入り混じっているように見えた。




Copyright©2020-橘 シン

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