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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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112/128

28-15


「シュナイツの北に川があっただろう?」

「はい」

「その川を下っていくとポロッサという町…というほどの大きさじゃないんだけど、そこに行ける。そこから…」

「ねえ、ウィル」


 ヴァネッサに説明を止められる。


「なに?」

「南の山を越えたほうが早いって」

「うん。そうだけど…シュナイツ側は急斜面だし、賊がでる」


 僕は眉をひそめる。

 

 あの山道は、険しい道のり、そして何より、いつどこから現れるか分からない賊の影。

 

 旅路の安全を考えれば、迂回する方が賢明だ。


「最近は、あまり見かけませんよ」


 ユウジがそう話す。


「本当?」


 思わず聞き返す。


「おれらがしょっちゅう通ってるからじゃないっすかね?」

「なるほど」


 それなら、南の山もありか?。


「賊がいないとしても、あの急斜面はどうしようもない」

「竜騎士隊を出す」


 ヴァネッサの意外な提案に戸惑う。


「いいのかい?」

「山頂の警備隊まで連れて行く。後は知らないよ」


 突き放す言い方だが、十分過ぎる内容だ。


 彼女の言葉は、彼女なりの優しさだろう。


「君がいいなら、助かるよ。どうかな?」


 レイラ達四兄妹に聞く。


「えっと…私達が竜に乗って行くという事でしょうか?」


 レイラは戸惑う。

 

「そうだよ。いやかい?」


 ヴァネッサにそう聞かれるが、どう答えていいかわからないようだ。


「竜に乗った事がないんですけど…」

「だろうね。別に特別な事はないから。竜騎士の後ろに乗ってればいいだけ。後は竜騎士に任せておけばいい」

「馬と同じように?」

「そうそう。どう?」

「乗る!」


 リクが真っ先に手を挙げる。彼の瞳は、輝きに満ちていた。


「言うと思った。さすが男の子…いや男だね」


 そう言われたリクが胸をはった。そして、誇らしげな表情。


「おれも構わない」


 アレクシスも同意する。



 残ったレイラとイーナが困った顔をしていた。


 彼らの瞳には、まだ竜への恐怖があるようだ。


「やっぱり怖いよね?」

「はい」


 二人とも静かに頷く。


「竜って意外にかわいいのよ」


 リアンがそう話す。


「私も最初は怖わかったわ。一度触れてみると、もう怖くなくなった。竜は優しい目をしてるの」

「そ、そうですか」


 リアンの言葉に、イーナは半信半疑といった表情だ。


「大丈夫だって!姉ちゃん達もすぐに慣れるよ」

「リクはいつの間に慣れたの?」

「え?あー…レイラ姉ちゃんが倒れる時に…ちょっと…」


 リクは少し言いづらそうに話す。



「竜は賢くてね。敵味方を判断できるんだよ。敵意や邪まな気持ちで近づいたら、竜も警戒する」

「では、友達のように接すればいいと?」

「そう。死ぬ勇気があるなら、簡単な事だよ」

「ヴァネッサ!そう言う方しないでよ…」


 僕の指摘にヴァネッサは苦笑いを浮かべる。



「わかりました。竜に乗ります。よろしくお願いします」

「姉さんまで?…」


 イーナが頭を抱えた。


「リクにできるのなら、大丈夫でしょう」

「か、噛んでくるかもしれない」

「竜騎士が命令しない限り、噛んだりしないって…」

「そ、そうですか?」


 イーナは大きくため息は吐く。


 竜を初めて見たそうだから無理もないか…。


 やはり、時間はかかるがポロッサ経由がいいのかもしれない。


 と、考えていたが、リク以外の三人もすぐに竜に慣れてくれた。



「だから言ったでしょ。大丈夫だって」


 ヴァネッサには確信があったから、驚きもしない。



 四兄妹は翌日出発することになった。




 私はレイラ達が竜の厩舎で竜に慣れていくのを、館の廊下から見ていた。


「エレナ様、何を見ているんですか?」


 専属メイドのカリィにそう話しかけられる。


「別に何も」


 私は自分の部屋に戻った。



 レイラ達、兄妹にあのような過去があったとは…。


 死を覚悟させるほどの仕打ち。


 私とは比べものにならない…比べるものではないか…。


 私には、彼らの苦しみを完全に理解することはできないだろう。


 

 先祖の事は知らないが、両親は賊だったと兄から聞いている。


 その事で何かをされた事はない。


 シンシア先生が配慮してくださったのかもしない。

 


「カリィ」

「はい」

「あなたは、今幸せ?」

「え?…どうしたんですか?急に…」


 彼女は戸惑いの表情を見せる。その目は、私を不思議そうに見つめていた。


「別に…なんとなく」


 カリィが少し考えてから、笑顔を見せる。その笑顔は、偽りのない、心からのものに見えた。


「幸せですよ」

「本当に?」

「ええ」

「シュナイツはお世辞にも恵まれている土地ではない」


 娯楽や酒場などは皆無。


 個人的には、なくても支障ないが、リサとベッキーが愚痴をこぼしているの聞いた事がある。


「何もないですけど、生きていけてますから。それで十分です」


 彼女の言葉には、日々の生活への感謝と、そして慎ましい幸せが込められていた。

 

「そう」

「エレナ様は、どうですか?」

「私は…」


 これまで色々な事があった。


 良いことも悪い事も。


「幸せだと、思う」


 魔法しか取り柄ない私には、ここが、シュナイツが一番居心地が良い。



 レイラ達は幸せを感じた事があるのだろうか?。



 夕食を食べ終えて、部屋で過ごしていると、レイラが訪ねてきた。

 

「レイラ?」

「はい。こんな時間に申し訳ありません」

「いいえ」


 彼女を部屋に招き入れる。


 入って早々、私に向かって頭を下げた。


「先日は申し訳ありませんでした…」

「私に謝罪する必要はない」

「ですが…」

「自分に非がある。それが分かっているのならばそれでいい」

「はい…痛み入ります」


 私自身は怪我はしていないから、謝れても困る。



「あの暴走を、どう止めたのか教えていただいてもよろしいですか?」

「そんな事を聞きに?」

「え、ええ…まあ」


 レイラは苦笑いを浮かべる。


 彼女の椅子を勧めて座ってもらう。


 私も座った。



「正確には、暴走を止めたのではなく、上空に向かって解放された…いえ、爆発させたと言ったほうがいい」

「なるほど…」

「これがその時に使った魔法」


 手のひらに魔法陣を見せた。


 その魔法陣は、複雑な幾何学模様で構成されている。


「これが?…」

「ええ」

「これは以前から研究されてたものですか?」

「いいえ。あの時に突貫で作った」

「こ、こんな複雑なものを短時間で…」


 レイラは魔法陣を見ながら、驚き絶句する。


「しかし、やはり不備あった。熱に関しての配慮をわすれていた。そのため、火傷をおう者が出てしまった。あなたのお兄さんが火傷したのが私の責任。申し訳ない」

「いえいえ!エレナさんが謝る事じゃないです!原因は私ですから…」


 私の言葉に彼女は慌てる。その顔は、焦りと、そして恐縮で赤くなっていた。



「エレナさんはずっとシュナイツで研究をしているのですか?」

「いいえ。以前はシファーレンで研究していた」

「シファーレン…あそこは魔法研究の最先端ですが…」

「ええ。国立の研究所に所属していた」


 私の言葉に、レイラは驚きを隠せない


 次にレイラは、当然の疑問を口にする。


「なぜこちらに?シファーレンのほうが研究環境は整っていると思いますが?」

「もちろん、研究するならシファーレンのほうがいいと思う。でも…私は、試作魔法の失敗で研究所に被害を出してしまった…」

「…」


 レイラは何も言えず、驚くだけ。


「その後、国外追放となった。王国に来て、色んな人達の助けを借りてシュナイツに落ち着いた」

「そうだったんですか…」

「運良く、いい人達と出会う事ができた。もしかしたら、あなたとこうして会話を交わす事ができなかったかもしれない」


 やはり、私は幸せなのかもしれない。


 それは一人で得たものではなく、他者の関わり、支えがあるからだ。

 


「運ですか…」

 

 レイラは少し俯く。


「私の運はどこに行ったのでしょうね」


 そう言って苦笑いを浮かべる。


「あなたは…いえ、あなた達はここからが始まりなのではないかと思う」

「ここから…」

「戸惑う気持ちは少しだけどわかる。不安で仕方がない事も」


 レイラは小さく頷く。


「環境が変われば、物の見方も変わってくる。私はシファーレンを追放された事に、もう後悔していない。シュナイツは、今の私にとって最良の環境と思っている」

「そうですか…」

「あなた達にも幸運が、幸せがきっと来る。はず」


 当然ながら確証は、ない。


 私は、彼らにとって口当たりにいい言葉を言っている。


 どう繕っても彼らの不安を取り除く事はできないだろう。少なくとも私にはできない。


 

 話題を変えよう。



「ノーストリリムでは、どんな研究を?」

「どんな…」


 レイラは少し言い淀む。


「恥ずかしながら、ゼロから魔法を作った事がないのです…」

「そう…。あれは?」

「あれ?」

「障壁を階段ように使っていた」

「あ-…あれは、私が考えたものですが、障壁そのものはすでにあるものですし、使い方を変えたものですので…作ったと言えるものではありません」


 そんな事はないと思う。あの発想は私にはない。


「研究所では、既存魔法の改良が主な研究でした。発動までの時間を減らす事や魔法力の消費を抑えるなど、効率化?でしょうか」

「なるほど」

「大した事はしてこなったのが現状です」

「そんな事はない。効率化は大事だと思う」


 彼女は恐縮に苦笑いを浮かべる。



「なぜ、ニ度の限界突破ができたのか…自分でも驚いているのです。魔法力を多く使う魔法の研究はしてきませんでしたから」

「それは、あなたに才能があったから」

「才能なんて…」

「なければ、簡単にはいかない」

「はい…」


 そういう才能を持っているのは幸運だ。


「私がいうのもおかしいけれど、その才能を活かすべき」

「そうですね…使い方を間違ってしまいました…」


 私を含め、シュナイツがなくなってしまうところだった。


 その事は、もういいだろう。


 今更、語る事ではない。

 

 

 レイラと会話はもう少し続く。




Copyright©2020-橘 シン


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