28-13
「あんたは長男でしょ?あんたが、しっかりして三人を、引っ張っていくのが役目じゃないの?」
あたしの言葉は、まるで氷の刃のようにアレクシスの心に突き刺さっただろう。
アレクシスは何も言わず…いや、何も言えず俯く。
いい体格してるけど、今は小さく見えた。
「あんたまで諦めて…」
あたしは言葉を切った。
「確かに、あんたの言う通りだ。でも、レイラの事を考えると…辛くて…楽になるならと…」
アレクシスの声は、途切れ途切れで、その顔には苦痛が色濃く浮かんでいた。彼の目には、今にも涙が溢れそうなほど潤んでいた。
「だったら、ここに、シュナイツに来るまえにやりゃいいでしょ?違う?」
その時、ウィルがあたしの肩を掴む。彼の視線は、あたしへの制止を促していた。
「ヴァネッサ。それくらいで…」
「ああ…」
「アレクシス。死を選ぶのは短絡的過ぎると思う」
ウィルの声は、穏やかだが、確かな力を持っていた。
「はい」
彼はウィルの問いに小さく頷く。
「君達がわざわざ山脈を越えてまでセレスティア王国に来たのは、生き延びるためじゃないのか?」
「そうです」
アレクシスはウィルの問いに小さく頷く。
「なら、生きるべきだ」
ウィルの言葉にリアンが頷き返した。
「偉そうな事を言える立場じゃないし、人生経験もないんだけど」
ウィルの謙虚な言葉に、私は思わず口を挟んだ。
「あたしもないけど、そう思うよ」
「生きてさえいれば、生きていて良かったと思える時が来るわ。きっと…」
リアンがウィルを見ながら、そう話す。
彼女の言葉は、ウィルへの感謝と、そして自らの過去を乗り越えてきた強さを物語っていた。
ウィルは、笑顔でリアンに頷き返す。
その二人の間に流れる穏やかな空気に、私の心は少しだけ温かくなった。
彼女がいうと説得力ある。
リアンのこれまで人生は、良いとは言えなかったからね。
アレクシスが目頭を抑えていた。
「泣くんじゃないよ、男でしょ…」
私の言葉は、どこか突き放すような響きがあったかもしれない。
でも、男だよ?軟弱すぎるでしょ?。
「ヴァネッサ…いいじゃないか。ガルドも泣いていたよ」
「あれと一緒にしないで」
これからどうしようかなんて話してたら、ユウジとタイガが帰ってくる。
「やあ。おかえり」
「ただいま戻りました」
「お疲れ様」
ウィルとリアンが声をかけた。
「あの…大丈夫でした?」
「何が?」
「何がって…シュナイツの方が、めっちゃ眩しく光って、その後ドーン!って爆音が…」
タイガが身振り手振りしながら話す。
「あー、一応大丈夫」
「何か起きたんですか?」
ユウジがアルから水をもらいつつ訊いてくる。
「ちょっとね」
タイガとユウが不思議そうな顔で、あたし達を見回す。
そして、アレクシスに気づく。
警戒心と好奇心が入り混じった目で、アレクシスをじっと見つめる。
「誰っすか?」
「お客様?」
「兄妹で旅をしてるんだ。色々と複雑な事情があって…」
「へえ」
二人は雰囲気を察して、それ以上は訊いて来ない。
「二人はどうっだったの?」
リアンが二人に聞く。
「マジで!ムカつく事があったですよ。薬草の仕入れ頼まれて、採取して持って行ったら、やっぱいらねえって、ふざけんなって!」
タイガは拳を握り締め、その顔には怒りが露わになっていた。
「それはムカつくわね…」
「前金は?」
「もらわなかったんです。何度か取引した事のある人だったんで、大丈夫かなと…」
「うーん…必ず前金は払ってもらったほうがいいよ。少しでもね」
「はい、気をつけます」
「あのクソ親父…今度会ったら…」
タイガは、右拳を握る。
「若いから舐められたのかもね」
あたしの言葉に、タイガは反発する。
「姉御、俺らは子どもじゃないんすよ。なあ?」
「うん。王都に行けば、注文が入るし、取引相手がどんどん増えてます」
ユウジは自信ありげに頷く。
「そういうのは、驕りっていうんだよ」
あたしの言葉は、彼らの心に突き刺さったかも。
二人は心当たりがあるのか、言い返すことができない。彼らの顔は、一瞬にして真剣なものに変わった。
「これも勉強だよ。今度から気をつけるように」
「はい」
ウィルの言葉に二人は姿勢を正す。
「これ、少しですが…」
ユウジが小さい布袋を渡す。
「ありがとう」
タイガとユウジは、薬草の取引で得た儲けから少しだけシュナイツのために、お金を入れてくれている。
最初、ウィルは断っていたんだけど、二人に押し切る形でもらう事になった。
「あんた達、またすぐ行っちゃうの?」
「いえ、すぐには行きません」
「注文が入ってないから?」
「入ってるけど、期限はもう少し後なんだ」
「そう」
「森の村に行こうかなって」
ミャンがいた村を森の村と、言うようになっている。
あそこは賊の拠点となっていたが、撃退し、イースタニアで賊に脅されシュナイツを襲ったマンダール達が住み着いている。
タイガとユウジは、また賊が襲って来ないように、定期的に村を見に行ってる。
「森の村か…」
ウィルが腕を組み、何かを考え始めた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと…」
彼はいいよどむ。
「ウィル様、昼食のお時間ですが…」
「あーもうそんな時間か」
さっそくミャンが多目的室に入ってくる。
「あー、お腹すいタ…ン?…」
当然、アレクシスに気づく。
「あれ、なんか話し合ってタ?」
「いや別に…アレクシス、医務室に戻るよ」
「はい」
あたしは、アレクシスとともに医務室へ向かう。
「俺達の処遇はどうなりますか?」
アレクシスが、不安げな声で訊いてきた。
「処遇ねぇ…それは領主が決める」
「イシュタル様が…」
「そう。あたしに聞かないで」
助けろ、と言ったのウィル。
何も考えていないはずはない。
「ウィルは、あんた達はここに来なかったってことにするみたい」
「はい。そうお話しになってました」
「あいつの事だから、はいさようなら、なんて事にはならないと思うよ」
医務室前でアレクシスと話す。
すぐ近くでは、厨房から出来上がった昼食が外に運ばている。
「できるだけ、あんた達の希望に沿うように考えてくれるはず」
「俺達の希望…」
「普通の暮らしをしたいんでしょ?」
「できる事なら…」
アレクシスは小さく頷く。
普通に生きるって難しいね。
シュナイツは賊に狙われるし。
あたしも、女で竜騎士なんかやってるし。
そもそも、普通って何なんだろうね。
「あんた達を売るとか、殺すとかは、絶対にしないから、それだけは信じて」
「はい」
あたしは医務室のドアを開け、彼を中に入れた。
「いてえ…」
医務室の中から、ガルドの痛々しい声が聞こえてきた。
あたしも医務室の入って、うつ伏せで寝てるガルドの顔を覗き込む。
「あ、隊長…」
「大丈夫…じゃないよね」
「大丈夫です…」
そう言いながら顔を歪ませる。
「感謝してるよ。あんたにかばってもらったから、あたしは軽傷ですんだ。エレナもね」
「ならよかったです…」
それだけ言って目を閉じた。
もしかしたら、あたしがこうなってた可能性もある。
「先生。ガルドはどうなの?」
「死ぬ事はない。が、火傷の跡が残るだろうな」
「そう…」
「体が動くなら、それで十分」
彼は目を閉じたまま、そう呟く。
「勲章とでも思っての?」
「証しですね」
「証し?」
「隊長を守った証しです」
「バカだね…」
「…」
あたしの言葉に、ガルドは何も言わない。しかし、彼の表情は、誇らしげに見えた。
あたしは、立ち上がった。
「あれ?そう言えばライノは?」
「兵舎に戻られました」
ミラルド先生がそう話す。
「あいつ、大丈夫です?」
「大丈夫でしょう。経過観察はしますが、医務室で観察するほど事ではないと、判断しました」
「そうですか」
ミラルド先生がそういうなら大丈夫。
多目的室に戻ろうして、立ち止まる。
「フリッツ先生」
「なんだ?」
「この四人、ここに…医務室で預かってほしんだけど」
「ああ、構わんよ」
「ごめん」
「謝ってどうする」
先生は笑顔で、そう話す。
「そうだね…じゃあよろしく」
戸口へ向かうと、エレナも来る。
「あんたは、大丈夫なの?」
「問題ない」
少し顔色が悪いけど、いつものエレナらしい口調。
「そう」
医務室を出る前に、四兄妹を見る。
アレクシスと目があった。
彼は小さく頷く。あたしも頷き返した。
そして、医務室を出る。
「レイラの様子はどう?」
階段を登りながら、エレナに訊く。
「問題ないと思われる。魔法力が著しく消費しただけだから」
「そう。明日までには回復する?」
「おそらく…しかし…」
あたし、階段を登り切った所で足を止めた。
「しかし?」
「彼女は非常に疲れている」
「疲れて…魔法力を消費したせいでしょ?」
「違う」
エレナは首を横にふる。
「体力的、精神的な事。先生達がそう言っていた」
「あー…」
「あー?」
「いや、アレクシスから事情を聞いてね…」
四兄妹の事をざっくりと、エレナに話した。
「なるほど」
「なんというか…あたし達は、それなり幸せなのかなって…」
全員そう思ってるわけじゃないと思うけど。
「不幸と幸せは、誰しも同じだけあるとシンシア先生が言っていた」
「そうなら、四兄妹は不幸を受けきったと、思いたいね」
「ええ」
あたし達は多目的室に戻り、昼食をいただく。
Copyright©2020-橘 シン




