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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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110/129

28-13


「あんたは長男でしょ?あんたが、しっかりして三人を、引っ張っていくのが役目じゃないの?」


 あたしの言葉は、まるで氷の刃のようにアレクシスの心に突き刺さっただろう。


 アレクシスは何も言わず…いや、何も言えず俯く。


 いい体格してるけど、今は小さく見えた。


「あんたまで諦めて…」


 あたしは言葉を切った。


「確かに、あんたの言う通りだ。でも、レイラの事を考えると…辛くて…楽になるならと…」


 アレクシスの声は、途切れ途切れで、その顔には苦痛が色濃く浮かんでいた。彼の目には、今にも涙が溢れそうなほど潤んでいた。


「だったら、ここに、シュナイツに来るまえにやりゃいいでしょ?違う?」


 その時、ウィルがあたしの肩を掴む。彼の視線は、あたしへの制止を促していた。


「ヴァネッサ。それくらいで…」

「ああ…」



「アレクシス。死を選ぶのは短絡的過ぎると思う」


 ウィルの声は、穏やかだが、確かな力を持っていた。


「はい」


 彼はウィルの問いに小さく頷く。


「君達がわざわざ山脈を越えてまでセレスティア王国に来たのは、生き延びるためじゃないのか?」

「そうです」


 アレクシスはウィルの問いに小さく頷く。


「なら、生きるべきだ」


 ウィルの言葉にリアンが頷き返した。

 

「偉そうな事を言える立場じゃないし、人生経験もないんだけど」


 ウィルの謙虚な言葉に、私は思わず口を挟んだ。


「あたしもないけど、そう思うよ」

 

 

「生きてさえいれば、生きていて良かったと思える時が来るわ。きっと…」


 リアンがウィルを見ながら、そう話す。


 彼女の言葉は、ウィルへの感謝と、そして自らの過去を乗り越えてきた強さを物語っていた。


 ウィルは、笑顔でリアンに頷き返す。


 その二人の間に流れる穏やかな空気に、私の心は少しだけ温かくなった。


 彼女がいうと説得力ある。

 

 リアンのこれまで人生は、良いとは言えなかったからね。



 アレクシスが目頭を抑えていた。


「泣くんじゃないよ、男でしょ…」


 私の言葉は、どこか突き放すような響きがあったかもしれない。

 

 でも、男だよ?軟弱すぎるでしょ?。


「ヴァネッサ…いいじゃないか。ガルドも泣いていたよ」

「あれと一緒にしないで」



 これからどうしようかなんて話してたら、ユウジとタイガが帰ってくる。


「やあ。おかえり」

「ただいま戻りました」

「お疲れ様」


 ウィルとリアンが声をかけた。



「あの…大丈夫でした?」

「何が?」

「何がって…シュナイツの方が、めっちゃ眩しく光って、その後ドーン!って爆音が…」


 タイガが身振り手振りしながら話す。


「あー、一応大丈夫」

「何か起きたんですか?」


 ユウジがアルから水をもらいつつ訊いてくる。


「ちょっとね」


 タイガとユウが不思議そうな顔で、あたし達を見回す。


 そして、アレクシスに気づく。


 警戒心と好奇心が入り混じった目で、アレクシスをじっと見つめる。


「誰っすか?」

「お客様?」

「兄妹で旅をしてるんだ。色々と複雑な事情があって…」

「へえ」


 二人は雰囲気を察して、それ以上は訊いて来ない。



「二人はどうっだったの?」


 リアンが二人に聞く。


「マジで!ムカつく事があったですよ。薬草の仕入れ頼まれて、採取して持って行ったら、やっぱいらねえって、ふざけんなって!」


 タイガは拳を握り締め、その顔には怒りが露わになっていた。


「それはムカつくわね…」

「前金は?」

「もらわなかったんです。何度か取引した事のある人だったんで、大丈夫かなと…」

「うーん…必ず前金は払ってもらったほうがいいよ。少しでもね」

「はい、気をつけます」

「あのクソ親父…今度会ったら…」


 タイガは、右拳を握る。

 

「若いから舐められたのかもね」


 あたしの言葉に、タイガは反発する。

 

「姉御、俺らは子どもじゃないんすよ。なあ?」

「うん。王都に行けば、注文が入るし、取引相手がどんどん増えてます」


 ユウジは自信ありげに頷く。


「そういうのは、(おご)りっていうんだよ」


 あたしの言葉は、彼らの心に突き刺さったかも。

 

 二人は心当たりがあるのか、言い返すことができない。彼らの顔は、一瞬にして真剣なものに変わった。


「これも勉強だよ。今度から気をつけるように」

「はい」


 ウィルの言葉に二人は姿勢を正す。



「これ、少しですが…」


 ユウジが小さい布袋を渡す。


「ありがとう」


 タイガとユウジは、薬草の取引で得た儲けから少しだけシュナイツのために、お金を入れてくれている。


 最初、ウィルは断っていたんだけど、二人に押し切る形でもらう事になった。


 

「あんた達、またすぐ行っちゃうの?」

「いえ、すぐには行きません」

「注文が入ってないから?」

「入ってるけど、期限はもう少し後なんだ」

「そう」

「森の村に行こうかなって」


 ミャンがいた村を森の村と、言うようになっている。


 あそこは賊の拠点となっていたが、撃退し、イースタニアで賊に脅されシュナイツを襲ったマンダール達が住み着いている。


 タイガとユウジは、また賊が襲って来ないように、定期的に村を見に行ってる。

   


「森の村か…」


 ウィルが腕を組み、何かを考え始めた。


「どうしたの?」

「うん、ちょっと…」


 彼はいいよどむ。



「ウィル様、昼食のお時間ですが…」

「あーもうそんな時間か」


 さっそくミャンが多目的室に入ってくる。


「あー、お腹すいタ…ン?…」


 当然、アレクシスに気づく。


「あれ、なんか話し合ってタ?」

「いや別に…アレクシス、医務室に戻るよ」

「はい」


 あたしは、アレクシスとともに医務室へ向かう。



「俺達の処遇はどうなりますか?」


 アレクシスが、不安げな声で訊いてきた。


「処遇ねぇ…それは領主が決める」

「イシュタル様が…」

「そう。あたしに聞かないで」


 助けろ、と言ったのウィル。


 何も考えていないはずはない。



「ウィルは、あんた達はここに来なかったってことにするみたい」

「はい。そうお話しになってました」

「あいつの事だから、はいさようなら、なんて事にはならないと思うよ」


 医務室前でアレクシスと話す。


 すぐ近くでは、厨房から出来上がった昼食が外に運ばている。

 

 

「できるだけ、あんた達の希望に沿うように考えてくれるはず」

「俺達の希望…」

「普通の暮らしをしたいんでしょ?」

「できる事なら…」


 アレクシスは小さく頷く。



 普通に生きるって難しいね。


 シュナイツは賊に狙われるし。


 あたしも、女で竜騎士なんかやってるし。


 そもそも、普通って何なんだろうね。



「あんた達を売るとか、殺すとかは、絶対にしないから、それだけは信じて」

「はい」


 あたしは医務室のドアを開け、彼を中に入れた。



「いてえ…」


 医務室の中から、ガルドの痛々しい声が聞こえてきた。

 

 あたしも医務室の入って、うつ伏せで寝てるガルドの顔を覗き込む。


「あ、隊長…」

「大丈夫…じゃないよね」

「大丈夫です…」


 そう言いながら顔を歪ませる。


「感謝してるよ。あんたにかばってもらったから、あたしは軽傷ですんだ。エレナもね」

「ならよかったです…」


 それだけ言って目を閉じた。


 もしかしたら、あたしがこうなってた可能性もある。



「先生。ガルドはどうなの?」

「死ぬ事はない。が、火傷の跡が残るだろうな」

「そう…」

「体が動くなら、それで十分」


 彼は目を閉じたまま、そう呟く。


「勲章とでも思っての?」

「証しですね」

「証し?」

「隊長を守った証しです」

「バカだね…」

「…」


 あたしの言葉に、ガルドは何も言わない。しかし、彼の表情は、誇らしげに見えた。

 

 あたしは、立ち上がった。



「あれ?そう言えばライノは?」

「兵舎に戻られました」


 ミラルド先生がそう話す。


「あいつ、大丈夫です?」

「大丈夫でしょう。経過観察はしますが、医務室で観察するほど事ではないと、判断しました」

「そうですか」


 ミラルド先生がそういうなら大丈夫。

  

 多目的室に戻ろうして、立ち止まる。


「フリッツ先生」

「なんだ?」

「この四人、ここに…医務室で預かってほしんだけど」

「ああ、構わんよ」

「ごめん」

「謝ってどうする」


 先生は笑顔で、そう話す。


「そうだね…じゃあよろしく」


 戸口へ向かうと、エレナも来る。


「あんたは、大丈夫なの?」

「問題ない」


 少し顔色が悪いけど、いつものエレナらしい口調。


「そう」


 

 医務室を出る前に、四兄妹を見る。


 アレクシスと目があった。


 彼は小さく頷く。あたしも頷き返した。


 そして、医務室を出る。



「レイラの様子はどう?」


 階段を登りながら、エレナに訊く。


「問題ないと思われる。魔法力が著しく消費しただけだから」

「そう。明日までには回復する?」

「おそらく…しかし…」


 あたし、階段を登り切った所で足を止めた。

 

「しかし?」

「彼女は非常に疲れている」

「疲れて…魔法力を消費したせいでしょ?」

「違う」


 エレナは首を横にふる。


「体力的、精神的な事。先生達がそう言っていた」

「あー…」

「あー?」

「いや、アレクシスから事情を聞いてね…」


 四兄妹の事をざっくりと、エレナに話した。


「なるほど」

「なんというか…あたし達は、それなり幸せなのかなって…」


 全員そう思ってるわけじゃないと思うけど。



「不幸と幸せは、誰しも同じだけあるとシンシア先生が言っていた」

「そうなら、四兄妹は不幸を受けきったと、思いたいね」

「ええ」


 あたし達は多目的室に戻り、昼食をいただく。


 

 

Copyright©2020-橘 シン


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