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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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109/128

28-12


「痛ってええええ!」

 

 ガルドの悲鳴が医務室に響き渡る。その声は、普段の彼の沈着冷静な態度からは想像もつかないほど切羽詰まっていた


「はいはい、我慢してください」


 シエラの声は、いつものように淡々としていて、どこか楽しんでいるようにも聞こえる。その温度差に、あたしは思わず苦笑いを浮かべた。


 ガルドが診察台にうつ伏せで、火傷した背中に薬を塗られている。


 彼は、我慢強く痛いからと言って口に出す事なんて滅多にない。


 それがどうだ。


「ああああ!!」

 

 シエラに薬を塗られ、叫び声をあげている。


「んんん!!…ああっ!…」


 絞り出すようなうめき声が漏れる。


「まだ半分ですからね」


 薬を塗っているシエラは顔色一つ変えない。


 たぶん、痛いの分かってんだろうね。



「ガルドが痛がるって、相当だよ…」

「へえ…」


 アレクシスが抑揚のない声で答える。

  


 レイラも診察台に寝かさせて、イーナとリクが見守っていた。そばにはエレナもいる。


 こっちは怪我というより、疲労と言ったほうがいいか。 

 

 ライノは奥でミラルド先生に診察されてる。



「隊長…」


 医務室の戸口にレスターが顔を出す。

 

「ウィル様が…」

「ああ」


 あたしは手招きする。


 ウィルが入ってきた。


「彼がうちの領主だよ」


 ウィルは、少しばかり緊張した面持ち


「はじめまして。僕はウィル・イシュタル」


 アレクシス達にウィルを紹介する。


 アレクシスがすばやく立ち上がり、挨拶した。


「アレクシスです。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

「レスターから子細は聞いた。死者は出ていないから…」

「痛って!うああっ!」


 ガルドの叫びにウィルが言葉に詰まる。

  

「あー被害は、最小限?だから…」


 彼はあたしを見る。あたしは頷き返した。


「君も怪我をしたようだし、とにかく養生してくれ」

「はい、ありがとうございます」


 イーナとリクも頭を下げる。



「ガルド、大丈夫か?」

「ウィル様ですか?こ、この程度の怪我…大した事ありま…痛って!…」

「痛がってるうちは心配いらんよ」

「そう…ですか」


 笑いながら話すフリッツ先生の言葉に、ウィルは苦笑いを浮かべた。

 

 

「アレクシス、ちょっといいかい」


 あたしはアレクシスに話しかける。


「はい。何か?」


 ウィルも会話に加わった。



「あんた達は、さっき死のうしてたでしょ?」

「…はい」

「そこまでさせた理由を聞きたい」

「理由ですか…」

「死を覚悟するって、普通はできない」


 クーデターに巻き込まれたと聞いたけど、それで死を選ぶとは思えない。


 何か、もっと深い事情があるに違いないと直感した。


 アレクシスはレイラを見る。


「言いたくないのなら、言わなくてもいい。君達はここには来なかった。僕はそうするつもりだ」

「イシュタル様…」

「あたしは聞かないと納得できないね」

「ヴァネッサ…」

「下手すりゃ、シュナイツがなくなっていたかもしれないんだから」


 アレクシスが考えた末に頷く。


「わかりました。お話します…ですが、場所を変えていだたきたい」

「じゃあ、多目的室行こうか」


 あたしはそう提案した。医


 務室では、他の患者もいるため、落ち着いて話すことはできないだろう。

 

 あたし達、三人は医務室を出ようした。


「どこ行くんだ?」

「ちょっと二階に…」

「薬を塗っていけ」

「それ塗らないとだめ?」

「当たり前だ」


 この薬がしみて痛いのなんの…。


 アレクシスも顔をしかめて耐えていた。



「兄さん、どこに行くの?」

「ちょっと、話をしてくる」


 イーナが心配そうにあたし達を見る。


「レイラのそばにいてくれ」

「うん…」


 リクは黙ってレイラを見つめていた。


「大丈夫だ。すぐに戻る」

「はい」


 あたし達は多目的室へと移動する。



「この薬、間違ってんじゃないの…」


 痛すぎて、つい愚痴をこぼしてしまった。


「先生達が間違えるわけないだろう」

「だといいけど。あんたは大丈夫?」


 あたしはアレクシスに話しかける。


「平気だ…」

「そうは見えないけど?」

「自分は文句を言う立場じゃない」

「痛い時は、痛いと言ってもいいと思うよ」


 ウィルが彼を気遣う。



 多目的室には、リアンがいた。


 彼女はあたしたちが来たことに気づき、顔を上げた。


「ヴァネッサ…大丈夫だった?」

「見ての通り」

「ものすごい音がしたけど…」

「色々とね…あの子、うちの補佐官」

「どうも…」


 お互いに挨拶する。



「さてと…話を聞こうじゃないの」

「何を聞くの?」

「四兄妹の事情だよ」


 ウィルがリアンに答えた。


「それ聞く必要ある?個人的な事情でしょ」

「あたしは聞きたいの。助ける以上、事情はちゃんと聞きたい」

「自分はかまいません」


 アレクシスはライアがいつも座っている席に座ってもらう。


「ちょっと待った」


 ウィルが廊下に出る。


「どうしたの?」


 彼は誰かと話してる。


「冷めたものでいいですよ」

「そうですか?」

「はい」


 ウィルがアルともに戻ってきた。


「お茶をね」

「あー」

「喉、乾いてるだろう」


 アルが紅茶が入ったカップを配っていく。


 当然、アレクシスにも。


「どうぞ」

「あ、どうもありがとうございます…」


 彼はカップに入った紅茶を一気に飲み干す。


 アルがすかさずポットから紅茶を注ごうする。


「もう結構…」

「よろしいですか?」

「はい。水を…水でいいです」

「承知いたしました」


 アルが多目的室を出ていった。


 あたしはウィルを見る。


 彼は肩をすくめるだけだった。 



 アルが出て行った後、アレクシスが話し始める。


「ヒルトゥーラ家は、元々王家に連なる家系でした…」

「へえ」

「でしたという事は、今は…」

「今は、単なる民草にすぎません」


 彼はそう言って眉間にしわをよせた。


「なんでそうなったの?」

「やっちゃいけない事を先祖がしてしまった」


 何世代も前のヒルトゥーラが謀反を起こし、自らが王位につく。


「…」


 ウィルもリアンも言葉につまる。


「そういうのって、どの国にもあるんじゃない?少なからずさ」

「民衆から愛され、慕われた王を毒殺したとしても、どこにでもあると言えますか?」

「それは…」


 あたしは言葉に詰まてしまう。


 アレクシスが、拳を強く握ったのがわかった。


「それ以降、ヒルトゥーラ家は人でなしと罵られてきた。両親も、その両親も…ずっと」


 彼らの家族が代々受けてきた苦しみと蔑み。


 アレクシスの両親はまともな仕事ににつくことすらできず、アレクシス達を育てるために無理をし、早くに亡くなってしまう。


 アレクシスもなんとか軍に入れてもらったが、雑用ばかりでたいした給料はもらえなかった。


 レイラが魔法士なった事で、やっと普通の生活できるようなる。


 イーナとリクは、学校に通う事できたが、先祖の事でいじめられてしまう。


 二人とも孤立し、友人はいない。


 リクのあの性格、なにかあると思ったら、そんな事があったのか。



「ご先祖と君達は関係ないと思うけど…」

「そうよ。なぜそこまでされないといけないの?」


 ウィルとリアンが当然の疑問をアレクシスになげかけた。


「自分もそう思います。なぜなのかと言われても、そういう国民性としか…」


 嫌な国だねぇ…。



「レイラが魔法士なれたから、よかったんじゃないの?」


 アレクシスは首を横にふる。


「あいつは…相当、無理をしていた…」


 レイラは兄妹のために、研究所に入り支えた。


「レイラ自身は、魔法に興味がなかったんです。でも、研究所に入る事ができればそこそこの給料をもらえるからと…」


 研究所に入ったものの、嫌がらせをされて魔法の研究がなかなか進まない。


「研究所も…。あんたの国はどうなってんの?」


 あたしは語気を強めて話す。


「人の足引っ張って、何が楽しいわけ?」

「ヴァネッサ、落ち着いて…」

「え?ああ…うん…」


 ウィルの言葉に、気持ちを抑える。


 あたしは紅茶を一口飲んだ。

  


 アレクシスは再び話し始める。


「それでも、あいつは頑張って研究を続けた。一言も弱音を吐かずに…」


 そんな中、レイラは二度目の限界を突破する。


 それから、レイラの状況が一変する。


 魔法士統括官という地位につき、魔法士としての仕事がほぼなくなった。


「そして、政変、クーデター…巻き込まれたんじゃない。あいつは嵌められたんだ…」

「はめられた?」


 レイラは中立の立場を崩さなかったために、第二王子が画策したのはないかと、アレクシスは話す。


「画策たって…」

「わざとレイラを忙しくさせて、判断力を奪った」

「まあ…あり得なくもないけど…証拠はあるの?」

「ありません」


 今更、証拠を掴んだところで遅い。


「第一王子もわかってて見逃したに違いない。自分になびかないからって、死刑宣告まで…」


 アレクシスはくやしさに顔を歪ませる。


「俺達は、普通の…そう、ごく普通の暮らしがしたかっただけなのに…」


 四兄妹に理不尽が重なってしまった。


 自分達ではどうにもできない。


 ウィルとリアンは表情を暗くする。


 

 アルが戻って来ていたらしく、ウィルが手招きして彼を呼ぶ。


 アルはアレクシスのカップに水を注ぐ。


「ありがとうございます…」


 水を一気に飲み干し、大きく息を吐く。



「事情はわかった。あんた達の境遇、辛さは半分もわからないけど、人様を巻き込んで、死のうってのはお門違いだよ」


 あたしはアレクシスに厳しく言い放った




Copyright©2020-橘 シン

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