28-9
レイラの魔法に対抗するため、障壁を展開する。
しかし、彼女は魔法力をためるだけで何もしてこない。
そのうちに、レイラの手の中に集まった魔法力が複雑にうねって渦を巻き始める。
それは膨張と収縮を繰り返し、次第にその輝きを増していった。
「まさか…」
この光景を見るのは三度目。
魔法が暴走している。いや、暴走させていると言った法が正しい
私の脳裏には、過去に遭遇した魔法の暴走が映し出されていく。
「レイラ、やめて」
私は迷いつつも、火球をレイラに放った。
しかし、火球は彼女の届く前に霧散する。
この程度の魔法では無理か…。
レイラを傷つけたくない。けど、それくらいしなければ、彼女は暴走を止めないだろう。
魔法の暴走が、周囲にの影響を与えはじめた。
強風が吹き荒れ、近くの木々が大きく揺れる。地面に落ちていた枯葉や小石が舞い上がる。
「レイラ。あなたは、何をしているのか分かっている?」
「わからずに、こんな事をするわけがないでしょう…」
彼女の呼吸が荒い。
表情が厳しいのは、魔法力が吸われて消費している証拠だ。
「やめて!そんな事をする必要が、どこにある」
「あなた達にはわからないわ!私達がどれだけ苦労してきたなんて!…」
ヴァネッサはそんなレイラの言葉にも動じず、模擬剣を構え、レイラに突撃した。
「ああ、わかんないよ!」
しかし、彼女はレイラまで数歩の距離で止まり、動けない。
レイラが魔法で止めてるようだった。
「ふざけじゃない…くっ…」
ヴァネッサはレイラに近づこうと踏ん張るが、見えない力に押し戻され、徐々に押し戻されていく。
レイラがヴァネッサに集中してる間に、私は彼女に少しずつ近づく。
近づきつつ、杖に魔法力を溜める、
なんとかして、魔法の暴走を止めないと…。
このままでは、シュナイツを含めた周辺一帯が消し炭になってしまう。
私の脳裏には、焦土と化した町の光景が一瞬浮かんだ。
それは、何としても避けなければならない。
私はレイラに杖を向けるが、彼女に気づかれる。
「隊長!」
ヴァネッサが宙に浮いて、私のほうに飛ばされてきた。
「エレナ!避けて!…」
近すぎる!。
私は障壁を展開するが、不完全な状態でヴァネッサを受け止めてしまう。
衝撃が全身を駆け抜け、体勢を支えきれず、二人ともに後ろに転がってしまう。
「痛ったぁ…」
「くっ…」
鈍い痛みが全身を襲う。右肘に鋭い痛みが走る。
「エレナ!大丈夫かい?」
「大丈夫…」
ヴァネッサの心配そうな声が聞こえる。しかし、今は痛みに構っている暇はない。
「右かい?見せてみな…」
「後でいい…先に魔法の暴走を止めないと…」
「…わかったよ。やっぱり暴走かい?」
「ええ…おそらく自決するものとみられる…」
「他でやりなさいよ…」
彼女の言葉には、どこか呆れたような響きがあった。
「あのまま暴走しつづけたら、シュナイツがなくなる…」
「はあ!?」
私の言葉に、ヴァネッサの目が大きく見開かれた。彼女の顔には、驚きと同時に、深い恐怖の色が浮かんでいた
私は右肘を押さえつつ立ち上がった。
「ベッキーが暴走させた時とは違うの?」
「ベッキーの時とはわけが違う」
ベッキーとレイラでは魔法力の総量が、一と百以上の違いがある。
レイラの魔法力がすべて吸い取らて、制御を失うと一気に魔法力が解放される。
そうなると大きな爆発が起こり、シュナイツは消滅する。
「ちっ…もう…」
ヴァネッサは大きくため息を吐く。
「爆発してからでは、私でもどうする事もできない。今の暴走状態なら、なんとか…」
「なんとかって…」
「正直、自信はない」
私の言葉に、ヴァネッサの表情が曇る。しかし、彼女はすぐに顔を上げた。
「あんただけが、頼りなんだよ」
「承知している」
あそこまで暴走したものを制御したことはない。
私の知識と経験では、未知の領域だ。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「で、どうすればいい?あたしにできる事ある?」
「レイラは集中力を切らし始めている」
「気をそらして、そのうちにってかい?」
「ええ…もしくは、意識を失う瞬間に…」
「出たとこ勝負か…」
ヴァネッサは気合いを入れる。そして、レスター達にサインを送った。それと防壁の警備通路にいる兵士にも。
レスター達がレイラの兄妹達を連れて下がり始める。警備通路にいる兵士もいなくなった。
それに気づいたレイラが、レスター達に杖を向けた。
「レイラ!あんたの相手はあたしだよ!」
ヴァネッサは模擬剣を構える。
レイラの顔が青白く、目の虚ろだ。彼女の体は、すでに限界に近いのだろう。
「行くよ、エレナ!」
「ええ!」
ヴァネッサがレイラに向かって走り出す。
私は、彼女の真後ろをついて行く。
レイラがこちらに向けている杖の先端が光りだす。その光は、徐々にその輝きを増していった。
「エレナ!」
走るヴァネッサの前に障壁を展開する。
レイラが魔法を放ったが、障壁で防ぐ事に成功。
ヴァネッサはそのままレイラに突進していく。
レイラも障壁を展開し、障壁同士がぶつかる。
ビリビリと火花が散った。
「レイラ。バカな事はやめな!」
ヴァネッサは模擬剣を捨て、体で障壁を押す。
「死んだら全てが無駄になるんだよ!」
「私は…」
「あんたは、リクの未来も壊そうしてる」
「リク…」
ヴァネッサの言葉に、レイラはリクを見る。
彼女は涙を一筋流した。
「でも…私は…もう疲れた…」
そう言って目を閉じる。
レイラの障壁が消滅した。
彼女はゆっくりと腰を落としていく。
その姿は、まるで糸が切れた操り人形のようだった。
「エレナ!早く!」
私は、素早くレイラが暴走させた魔法の球体を障壁で包み込む。
ヴァネッサはレイラを支えている。
「大丈夫かい?」
「ええ…」
障壁で包み込んだ暴走の塊がバリバリと音を立てていた。
内部の圧力が、尋常ではないほど高い。
障壁が抑え込んでいるのがやっとの感じ。
このままでは、いずれ私の魔法力も吸われていってしまう。
「エレナ…」
「できるだけ、離れて…」
「そばにいるよ」
ヴァネッサが笑顔で頷く。
「バカな事言わないで…」
「あんたが失敗したら、シュナイツがなくなるんでしょ。なら、どこにいたって同じ」
ヴァネッサの言葉に、私は呆れて何も言えなかった。いいえ、言える状況じゃない。
この暴走をどうするか。
私の魔法力で抑え込むのは、かなり難しい…。
それに重い。
暴走し圧縮された魔法力が、こんなに重いなんて…。
「見誤ったか…」
私の心に、一瞬だけ弱気がよぎる。だからと言って、ここで投げ出すわけにはいかない!。
私は頭上に暴走した魔法を持ち上げる。
「どうすんの」
「上空に向けて、解放する…くっ!」
「できるのかい?」
「やらなければ、シュナイツが…」
これが…いえ、これしか方法が思いつかない。
「あたしも手伝うよ」
彼女は、暴走した魔法を下から支える。
「これでいいかい?」
「ええ…ありがとう」
さすがはヴァネッサ。
この重さを顔色を変えずに支えている。
片手で暴走した魔法を制御し、片手で魔法を作り上げていく。
突貫作業である。
「今から作るの?」
「ええ…失敗したら、あの世で臀部を蹴っていい」
「ふっ…」
ヴァネッサは、この状況でも笑いを漏らす。
もう少し時間があれば…
こんな短時間で作る魔法でない。
「これでいいか…」
出来上がった魔法陣を確認する。
「エレナ…早く。重くなってきた…さすがにこれはキツすぎ…」
「もう少し待って…」
最終確認…よし。
いいかどうかは、正直わからない。もうこれは賭けだった。
「ヴァネッサ。始める」
「ああ、やっちゃって!」
Copyright©2020-橘 シン




