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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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28-8


 私は、ヴァネッサの後ろに乗り、敷地を出る。


 竜というは、乗り心地のいいものではない。


 臀部が痛い。


「もう少し静かに走れない?」

「できないね。嫌なら歩きな」


 ヴァネッサの返事は、相変わらず容赦ない。

 

 仕方がない。


 長時間乗るわけじゃないから、我慢する。



「レスター!スチュアート!先行して」

「了解!」


 ヴァネッサの指示でレスターとスチュアートが速度を上げて先行する。


 その先では、ジルとミャンが四兄妹の相手していた。


 ジルは華麗な体捌きで相手を翻弄している。


 ミャンも短槍で彼らをあしらっていた。


「二人にあの四人じゃ無理だね」

 

 人数的には四人だが、子どもと若い女性二人が含まれていて、戦力として数えるには無理がありそう。


 体力や戦闘経験を考えると、ジルとミャンが圧倒的に有利だろう



「誰も手を出すんじゃないよ!」


 ヴァネッサは防壁から覗いている兵士に叫んだ。


 兵士は手を上げて答える。



「エレナ」

「何?」

「あんた、魔法士相手にどう戦うの?」

「わからない」

「嘘でしょ…。何も考えてないわけ?」


 正直、何も考えてない。


 魔法士と戦うなど、これまでの経験にはないことだ。


 どうすればいいのか、まったく見当がつかなかった。


「ゴーレムだっけ?あれ出されたら…」

「それはないと思う」

「どうして?」

「ゴーレムを発動サせるためには、大量の魔法力がいる」

「ああ」

「用意周到な準備が必要で、短時間で発動させる事はできない」

「なるほど」


 レイラが水晶を持っていて、それに魔法力を溜め込んでいる可能性は否定できない。


 けど、水晶を持っていれば、すでに使っていてもおかしくはない。



 四兄妹にどんどん近づいていく。


 ヴァネッサが竜を止めた。


「じゃあ、任せるよ。エレナ」

「任された」


 彼女は竜から降りると、一目散に駆け出す。


 私も彼女の後を追った。


 緊張感が全身を包み込む。



「はいはい。みんな落ち着いて!」


 ヴァネッサは戦いを止めに入る。


「あたし達は、あんた達を取って食おうなんて思ってないの。わかる?」

「ならば、なぜ矢を放った?」


 アレクシスの問いは、警戒心を剥き出しにしていた。


「それはライノを人質にしたからでしょ」


 ライノはアレクシスに担がれたまま動かない。


 大丈夫だといいけど…。


「俺達を売る気だったんだろ!」


 リクが前に出てそう叫ぶ。


 彼の声は、怒りと同時に、深い不信感を滲ませていた。


「そんな事しないって…だいたいどこに売るっての」

「ノーストリリムに決まってるだろ!」

「あのね、この国とあんた達がいた国は国交ないの。連絡方法すら…」

「セレスティア王国とは、書簡を送りあっています」

 

 レイラがそう話す。


「え…」

「年に数度ですが…」


 これは初耳だ。


「だけどね。あたし達は上の事情なんて知らないし、あんた達を売ったって得にならないんだよ」


 ヴァネッサはなんとか話し合いで解決しようと努力していた。


 その中、ミャンが四兄妹の後ろに回り込もうしている。


「ほら、見て。この剣は木製だよ。これじゃあんた達傷つける事はできない」


 ヴァネッサが模擬剣を掲げる。


「頼むから、ライノを返して。返してくれたら、何もしないから…あんた達の事は忘れる」


 彼女は模擬剣すらも捨てて地面に投げ捨て、両手を広げたまま、ゆっくりと四兄妹に近づいた。


「隊長…」

「あんた達は動かないで」

「はい」


 ヴァネッサの言葉に、レスターとスチュアートは静かに頷いた。


 四兄妹は落ち着いてきたように見える。


 お互いに視線を交わし合う。


 彼らの瞳には、迷いや葛藤が見て取れた。


 アレクシスがライノがそっと地面に下ろした時だった。


 ミャンがアレクシスに体当たりし、ライノを抱えて、ヴァネッサのそばにくる。


「ハイ!これで解決!」

「バカ!」

 

 ヴァネッサがミャンの頭を思いっきり引っ叩いた。

 

「エ…」

「余計な事をしてんじゃないよ!」

「なんデ?」

「隊長!」


 アレクシスが突進してくるのが見えた。


 ジルが前に出て、アレクシスを止める。


「あなたの相手はわたくしです」

「女一人にオレが止められるか!」

「過信はいけませんよ」


 アレクシスとジルが戦い始めてしまった。

 

 ジルは冷静沈着な表情で、アレクシスの猛攻を受け止めている。


「ジルに任せておけばいい。ミャン、あんたはライノを後ろに運びな!。そばを離れるんじゃないよ!わかってんの?」

「ハイ…」


ミャンは、ヴァネッサの言葉に素直に従った。彼女は、ライノを抱えたまま、後方へと下がっていく。



「レスターとスチュアートは若い方の女をお願い。あたしは、あのリクとかいう子どもの相手するから」

「逆じゃありませんか?」


 ヴァネッサの指示に、スチュアートが異を唱える。


「見てわかんないの?あいつ、ずっとあたしを睨んでる。その度胸を受けてあげるのか大人ってもんでしょ」

「いや、わかりませんけど…こっちは女性相手に男二人ってどうなのかと…」

「あたしにそれ言う?」


 ヴァネッサは訓練でも実戦でも、基本相手は男だったし、複数なんて数え切れほどあるだろう。

 

 彼女を女性と見るのは、少々間違っている


「いや…ヴァネッサ隊長は…その、特別ですから…」

「スチュアート、もういいって」

「レスターさん…」

「あたし以上の手練れかもしれないからね。油断するじゃないよ」

「それはないと思いますよ…」


 スチュアートは女性相手に戦うのは、嫌なようだ。


 女性一人に男性二人というは卑怯かもしれない。



 三か所でそれぞれ戦闘が開始された。


 周囲の空気は一気に緊迫したものになった。


 私はそれを避けながら、レイラに近づく。

 

 私に気付いたレイラがこちらに杖を向けた。


 私はとっさに障壁を展開する。


「レイラ。やめて」

「エレナさん…私達に構わないでください」


 レイラの声は、警戒心に満ちていた。


 彼女は、私が一歩近づくと、一歩離れる。


「私達は、あなた方を助けたい。ただそれだけ。そこに損得勘定はない」

「わかっています…」

「だったら…」

「わかっていますから…私達には、関わらないでください」


 彼女は杖の先を、私に向けたまま話す。



「ちくしょう!こいつ!」


 末っ子のリクが、ヴァネッサを殴ったり蹴ったりしていた。

 

 しかし、ヴァネッサは動じず。それを受け入れている。



「リク…」


 レイラはリクを心配そうに見つめる。


「あなた方が受けた仕打ちには同情する」

「同情ですって!…」


 彼女は目を剥いて、私に杖を向けた。その瞬間、私は後ろにとばされて、地面を転がった。


「エレナ!」

 

 ヴァネッサの声が、遠く聞こえた。


 私は立ち上がり、ヴァネッサに手を上げて答える。


 障壁は展開できなかったが、怪我はしてないはず。痛みはあるけど。


 単に飛ばされただけのようだ。


  

「何も知らないくせに、同情などという言葉を気安く使わないでください!」


 レイラは厳しい顔でそう話す。


 私はゆっくりとレイラに再び近づく。


「申し訳ない…確かにあなた方の詳しい事情は知らない」


 私達が知ってるのは、政変に巻き込まれた。これしか知らない。



「離せ!離せよ!」


 リクがヴァネッサに腕を取られて地面に抑えつけられていた。


「リクを離して!」


 レイラはヴァネッサに杖を向ける。


 しかし、そばに弟がいる以上、彼女には何もできない。


 レイラの杖が小刻みに震えている。


「レイラ姉ちゃん!もういいから、終わらせてくれ!」

「あんた、何言っての?…」


 彼女は、汗をにじませ、浅い呼吸を繰り返していた。


 その顔は、極度の緊張と苦痛に歪んでいた。

 

「姉ちゃんが苦しむとこなんて、もう見たくないんだ!」

「リク…」

「おれは恨んだりしないよ」


 リクが涙を流しながら、レイラに訴える。


「姉さん、わたしも構わないわ!」

「イーナ…」


 レスターとスチュアートに抑えられていたイーナが、そう叫ぶ。


「レイラ、不甲斐ない兄で申し訳ない…」

「兄さん…」

「お前の手で終わるなら本望だ」


 四兄妹の会話は理解できなかった。この時点では。


 しかし、彼らの言葉から、私は、彼らが絶望的な状況に置かれていることを察した。


 

「わかりました…」


 レイラをそう言いながら、右手の中に魔法力を溜めだした。



Copyright©2020-橘 シン

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