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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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28-7


「全く!なにやってんの!」


 兵士の報告を聞いた瞬間、あたしは衝動的に謁見室を飛び出した。

 

 謁見室を出て、階段へ。


 後ろからウィル達がぞろぞろと、後をついて来ていた。当然、レイラもいる。


「ウィル、あんたは来なくいいって」


 ウィルを巻き込むわけにはいかない。しかし、彼の返事は、あたしの予想通りだった。


「そんなわけにはいかないよ!」


 一階に降りて北側のドアから出る。


 門の辺りでは、まるで戦場のように怒号が飛び交っていた。


「ふざけんな!」

「ライノの離せ!」

「近づくな!」

「落ち着けって!」

「やめろ!」


 ライノはアレクシスに後ろから、拘束されてナイフを首に当てられていた。


「ライノ!」


 私の叫びに、ライノはハッと顔を上げた。その顔には、恐怖と、そして申し訳なさそうな色が浮かんでいた。


「隊長!…すみません」

「何したの?」


 あたしは冷静を装って尋ねた。


「何も…水を飲みたいからって…あげて…大丈夫かって声かけただけです…」

「黙れ!喋るな!」


 話しかけるなって言ったのに…。


「すみません…」


 レスターがそばに来て謝る。


「あんたがいて…」


 今は叱る時じゃない。



「兄さん!やめて!」


 レイラがあたしのそばで叫ぶ。


「レイラ!来い!」


 アレクシスに呼ばれたレイラが、彼のそばに行こうと足を踏み出した。


 あたしは、咄嗟にレイラの腕を掴んだ。


「待ちな」

「え?」


 戸惑う彼女を、私は自分のそばに引き寄せた。この状況で、彼女を彼らの元へ行かせるわけにはいかない。


「レイラ姉ちゃんを返せ!」


 リクが怒りの形相で叫んだ。


「こっちのセリフだよ!ライノを離しな!」


 あたしの言葉に呼応するように、周囲の兵士からも「離せ!」「やめろ!」と怒号が飛ぶ。しかし、その声は、かえって彼らを刺激するだけだ。


「うるさいんだよ!静かにしな!」


 近くにいた兵士の頭をひっぱ叩いた。


「痛ってぇ…」


 やっと静かになる。



「あんた達、落ち着きなって。あたしらは危害を加えるつもりないんだよ」

 

 あたしは冷静を装い、彼らに語りかけた。


「だったら、姉さんを返して!」

「返すよ。返すけど、ライノが先。そいつは何もしてないでしょ?」


 水を飲ませてもらってこの仕打ちはない。


 三人は小声で話し合いを始めた。



「お願いします…穏便に…」

「ヴァネッサ、僕からも頼む。傷つけるのは避けてくれ」


 ウィルの声が、あたしの耳に届いた。彼の顔には、心配と不安が入り混じっていた。


「向こう次第だよ」


 こっちも大事な部下を人質にされてるんだ。もし何にかあったら…。


「さっさとライノを離すんだよ!」


 周囲が異様に静まり返る。


 兵士達が門前にどんどん集まってきた。


 これじゃ身動きが取りにくい。


「レスター」

「はい」

「兵士が密集しすぎてる。下がらせて」

「了解」


 レスターはそっと離れていき、兵士達を下がらせていく。



 三人はまだコソコソと話し合いをしてる。


「早くしなよ…」


 この状況で迷うところじゃないでしょ…。

  

 自分達の状況が分かってないのか。



 周囲の兵士が殺気立ってるのが、手に取るようにわかる。


「誰も仕掛けるじゃないよ」


 周囲の兵士に言う。


彼らが無闇に動けば、事態はさらに悪化する。


「でも、ライノが…」

「わかってる。わかってるから、何もするじゃない」

「了解…」


 兵士たちの声は、不満をにじませながらも、あたしの指示に従った。

 

 私は、レイラの腕を引き、前に出た。彼女の腕からは、微かな震えが伝わってくる。


「ウィルはそこから動くんじゃないよ」

「ああ…」


 彼は不安気に頷く。


 ミャンが前に出てきて、ウィルの前に立つ。 そして、あたしにニッコリと微笑む。


「頼むよ」

「任せてヨン」


 ウィルはミャンに任せておけばいいね。



 兵士の間をレイラともに進む。


「静かにしてるんだよ」

「はい…」


 レイラは明らかに動揺してる。


 

 こんな事になるなら、受け入れるんじゃなかった。


 突っぱねて、困ることはないんだから。


 親切心が裏目に出た。


 ウィルが間違ってるとは思わないけど、もう少し考えてほしいね。


 あたしが強引でも突っぱねるべきだった。



「ゲイル、やめろ…」


 ん?なんだ。

 

 後ろから声が聞こえた。


 後ろを振り返る。


 ライアが見上げていた。


 その視線を追う。


 警備通路か?。


「あのバカ…」

 

 ゲイルが弓を構え、引き絞っているのが見えた。


 気づいているのはあたしとライアだけか?。


 ライアがゲイルのそばに向かったようだけど…。


 その時、あたしの視界に細い木製と思われる棒が現れる。


 棒の表面には、幾何学模様が掘られていた。


 これは、魔法の杖だ!。


 あたしは杖を掴む。


「やらせない!」


 と、レイラの声した途端、杖の先がカッと光った。

 

 杖の先から何かが飛んでいく。ゲイルに向かって。


「ゲイル!」


 彼に向かって叫ぶと同時に矢が放たれた。


 やばい!。


 ゲイルが放った矢は、ライノの足元に突き刺さる。


「ひっ!…」


 ライノが、目を剥き自分の足元を見る。


 いったい何が起きたのわからない、全員が動きを止めた。

 


「貴様らぁ!」


 アレクシスが怒りの形相で叫ぶ。


 その声は、周囲の静寂を打ち破るように響き渡った。


 彼は、ライノの腹を殴ってから肩に担ぐ。


「やめな!逃げられやしないんだよ!」


 この状況でどこに行こうっての…。



「すみません!」

「レイラ?」


 レイラが、掴んでいたあたしの手を振りほどく。


 傍から見れば、そう見えたと思う。でも、実際はそうじゃない。


 あたしは、しっかり掴んでいたんだけど、何かに弾かれたような感じで、レイラの腕を離してしまった。


 多分、魔法だよ。

 


「悪気はないんです。本当に…」


 彼女は少しづつ離れていく。


「ないなら、落ち着いてあたしの言う事を聞きなって…」


 レイラはあたしに向かって手をかざす。


「ごめんなさい…」


 彼女がそう言った瞬間、突風であたしとその周りの兵士を吹き飛ばす。


 兵士達が、折り重なるように倒れていった。



「なんなの…」

「隊長…重い…」

「ああ、悪いね」


 あたしは起き上がり兵士を立たせる。そして周囲を確認。


 あいつらは?…。


 四兄妹は、問前から西に走っていく。


 そっちには出入口はない。


 そのまま真っすぐ行けば、竜と馬がいる厩舎だ。


「そいつらを止めろ!」


 ガルドが焦り、叫ぶ。


 何もしなくても、追い詰める事はできる。


 落ち着けと自分にいい聞かせた。


 でも、次に起きた光景に呆然してしまった…。 

 


 四兄妹が浮き上がり空中を走り始める。


「なっ!?」

「隊長!なんすかぁ!?あれは?」


 サムが素っ頓狂な声をあげた。


「知らないよ」


 周囲の兵士も呆然と見ている。


「おそらく障壁を応用したものと思われる」


 エレナが落ち着いた様子で話す。


「障壁…なるほど。障壁を足場にしてるのか」

「私も、あういう発想力が欲しい…」

「感心してる場合じゃないでしょ」

  

 あんたも落下防止に障壁を使ってるけどね。



「追え!」


 ガルドが叫びつつ、四兄妹を追うが、魔法の足場はすでに消えていて、見上げるしかない。


 そして、四兄妹に向かって矢が飛んでいく。


 ゲイルだ。


 彼以外も矢を放ってる兵士がいる。


 しかし、矢は魔法によって弾かれていた。



「やめろ!」


 その声にあたしは振り向く。

 

 ウィルが、彼にしては珍しいものすごい形相で前に出てくる。


「彼らを傷つけるな!」

「傷つけるなって、ライノが囚われているんだよ?」

「ヴァネッサ、ライノもあの兄妹達も両方助けてくれ」

「わけわかんない事言ってじゃないよ!」


 あたしはウィルの胸ぐらを掴む。


「これ以上あいつらを擁護してどうすんの!」

「彼らにだって、言い分があるはすだ」

「それを聞いた結果がこれでしょ?お金まであげて…恩を仇で返されたんじゃ…」

「お金はまだあげてないよ…」  

「え?」


 ウィルの手にはお金の入った布袋が握らていた。


「彼らは怯えるんだ、きっと…。人は窮地に追いやられたら、逃げるか立ち向かういしかない」

「そうだけど…」

「だから、ここは安全なんだって、分かってもらわないと」

「…」


 ウィルの言ってる事はわかる…けど…。


「ヴァネッサ隊長。わたくしは彼らの気持ちが少し分かります」

「ジル…あんたまで」

「わたくしはアリス様としばらくの間、追手から逃げていました」

「それは知ってるよ」

「はい。その間、他者からの好意を受けつつも、完全に信じる事はできませんでした。信じられるのは自分達だけ」


 でも、アリスとジルは他者を巻き込んだりはしていない。


 まあ、ゲオルグの件は置いておこう。


「彼らも同じ状況、気持ちではないかと、思うのです」

「お人好し過ぎるよ。あんた達は…」

「こういう所ではないのですか、シュナイツは」

「勝手に決めないないでくれる?…」

「申し訳ありません」


 謝るジルの顔は穏やかだった。  



「ヴァネッサ!」

 

 ウィルががあたしを睨む。


「ああもう!わかったよ!」


 あたしは頭を掻きむしる。


「あいつらどこ行った!」


 四兄妹は西側の防壁を越えてしまっていた。


「南の草原に向かってます!」


 南?。


「リカシィに行くつもりなんじゃ…」

「全然方向違う…」

「彼らに土地勘はない」

「ああ…そうだね」


 地の利のはこっちあるか。いや地の利っていうほどの事じゃないか。


「先行して足止めします」


 ジルが一気に駆け出す。


「アタシも、行くヨ!ジル、壁越えるの手伝っテ!」

「ミャン!あんた、分かってるの?」

「わかってるっテ!」


 ミャンは訓練用の短槍(木製)を振る。


 ジルとミャンが防壁の向こう側に消えた。



「竜を準備しろ!」

「できてますよ」


 レスターが竜に乗り、あたしの竜を連れてくる。


「ありがと」

「誰を出します?」

「スチュアートを出す」


 頭に血が登りやすのは除外。冷静に判断できるやつがいい。


 竜に乗り込む。


「待って。ヴァネッサ」

「何?エレナ」

「私も行く」

「あんたが出る幕じゃない」


 魔法士を前に出す状況じゃないんだよ。


「魔法士の相手は魔法士がするべき」

「うん…まあ…」

「隊長、やってもらいましょう。おれ達には無理ですよ。相手はエレナ隊長と同格なんでしょ?」

「…わかった。乗りな」


 あたし達、四人は敷地を出る。


 訓練用の木剣を持って…。

 

 


Copyright©2020-橘 シン

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