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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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28-6


 国王陛下が倒れたことで、長らく蓋をされてきた後継者問題が、ここにきてついに表面化した



「後継者問題は以前からあったのですが、陛下もお元気でしたので具体的に何か対処はしていなかったのです」

「先延ばしにしてきたんだね」


 私の言葉に、彼女は力なく頷いた。


「はい…」



 後継者候補は二人。


 第一王子と第二王子。


「どちらも民衆からの人気は高く、支持されていました。兄弟仲も良い。表向きは…」


 レイラの言葉に、私は思わず眉をひそめた。

 

 表向きは?


「裏側じゃバチバチやってた?」

「はい。言うのもはばかれるくらいに…」


 陛下がはっきりと後継者を表明していれば、問題はなかったかもしれないとレイラは話す。


「政治力という点では、第一王子が長けていると周囲の者達は言っていました。第二王子が不向きかと言われれば、そんなことはないと、私は思います」


 陛下の病状が悪化し、公務に支障をきたすようになってからは、王子たちの対立は一層激しさを増していったという。


「国政に関しては、元老院やその他の部署に任せられていますが、重要案件は陛下の裁量が必要となります。しかし、陛下は養生で公務はできない。当然、王子二人に裁量をしてもらわなければいけない。そのお二人は対立している…」

「そこで対立してたら、国が回らないんじゃ…」


 ウィルがそう話す。


「ご指摘の通りです。一度決まったものが、後になって覆る。それはもう日常となり、各所で混乱が発生しました」


 国の秩序が、音を立てて崩れ去っていく。

 

 国民の生活にも、きっと大きな影響が出ているに違いない。


「で、混乱したままではマズいでしょう?どうしたんですか?」

「はい。陛下には、ご引退いただいて、新しい国王を決めるべきと、元老院からご注進し、了承をいただきました」


 新国王は投票で選ぶことになった。


 元老院は当然として、他の部署にも投票権が与えられた。


「魔法士統括官として、私にも投票権が与えられまして…」

「政治にも参加してたんだし、そうなるよね」

「わかってはいたのですが…」


 レイラ自身はどちらの王子でもよかったと話す。


「棄権できず、どちらかに必ず投票しなければいけない」


 彼女はため息を吐く。


 それは、彼女が私心なく、ただ国の行く末を案じていたからだろう。しかし、棄権はできず、どちらかに必ず投票しなければならないという状況は、彼女に大きな心の負担を強いたに違いない。


「私は、どちらかに投票するか、魔法士達の意見を聞いたのですが、魔法士達も意見が二分してまして…」


 レイラが判断に迷うなか、第二王子の使者が接触してきた。


「こっちに投票しろってかい?」

「はい」

「それって第二王子だけじゃないでしょ?」

「はい…。どちらからも直接的、間接的に投票を勧められました」

 

 これはレイラだけじゃない。 

 

 それは、もはや選挙とは呼べない、票取り合戦だったんだろう。



「こういう場合、見返りがあるもんだけど」

「立場や金銭でした」


 レイラ自身は、今の地位と報酬に不満はない。むしろ過ぎたものと考えていたので、見返りで投票先を決める事はなかった。


「で、あんたはどっちに投票したの?」

「どちらにも投票してません」

「ん?棄権はできないんでしょ?」


 あたしは疑問を口にする。


「投票は行われなかったのです…」


 レイラの表情が曇るのがわかった。


「投票前に、第二王子が武力行使に出たのです」

「あー…」


 第二王子が軍を率いて、第一王子を襲撃。


「しかし、第一王子はすでに察知していたようで、クーデターは失敗に終わりました」

「あらら…」


 第一王子は、逆に第二王子を返り討ちにし殺害。


 関係者も処罰の対象となる。ほとんどが死刑になると言い渡された。


「あんたは関係ないでしょ?」

「ないわけでなくて…」

 

 彼女は言い淀む。

 

「第二王子に加担したの?」

「いいえ。するつもりもなくて、したつもりもありませんでした…。これは私の不注意というか未確認が原因で…」


 レイラは魔法でとある館を取り壊してほしいと依頼された。


「確認もせずに実行してしまった…元老院から直接の依頼だったので、特に疑問もなくて…」

「どこを壊したの?」

「第一王子の別邸です…」

「あんた、それ…投票どうこうで忙しい時にやることじゃないでしょ?」

「そう思います…」


 レイラの行為は、いわゆる囮。


 そちらの目を向かせて隙を作り、本命を叩く。


 クーデターは失敗したから、これも見抜かれていたかもね。


 第一王子は、かなり頭が切れるやつだね。



「取り壊しを依頼してきたのは、第二王子に近い人物で…よく考えれば、おかしいと…日々の仕事と投票とで、思考力が落ちてしまっていて…。言い訳になってしまいますが…」


 レイラが肩を落とす。


「あんたがやらなくても、部下がやって、あんたに責任を取らせるって方法もあるからね」

「そんな…」


 ウィルが眉間にしわを寄せる。


「じゃあ、第一王子を支持していればよかったのか…」

「結果を見ればね」


 第一王子を支持してたとしても、何かあった可能性は否定できないけど。



「で、あんたは兄妹達と逃げたと」

「はい」

「よく逃げれたね」

「魔法士ですので…多少強引に。犠牲者が出たと思います…いえ、出しました」


 そう話すレイラの顔が暗くなる。


 犠牲者を出したという事実は、彼女の心に、決して癒えることのない傷跡を残したに違いない。


「私自身はどうなろうと、構わない。でも兄妹達だけは…」


 やむを得ずといったところか…。


 これはレイラを責められないね。


 あたしも同じ立場だったら、レイラと同じ行動をしてたと思う。

 


「あの山脈を越えて来たとは、信じられないよ」


 ウィルがそう話す。


 それはみんなが思ってるよ。


「真冬なら無理だった思います。春でしたので…なんとか」


 魔法士だからってのもあるね。



「事情はわかりました。亡命を希望するなら、ここに留まってもらって…」

「結構です」


 レイラはきっぱりと断った。


「よろしいですか?まあ、山脈を越えてまで追ってくるとは思いませんが、もし…」

「これ以上のご迷惑をおかけするわけにはいきません」

「そうですか…。わかりました」


 あたしはレイラの言葉に安心したと同時に少しだけ罪悪感も湧いてくる。


 レイラの言葉を信じるなら、彼女に否はない。


 彼女を巻き込んだ第二王子はもういないし、第一王子がどこまで執拗に狙ってくるかだけど…。


「第一王子が狙ってくる可能性は、ゼロということでいいのか」


 ライアがあたしに聞いてくる。


「わかんないね。今のところ追っては来てないから、大丈夫だと思うけど。第一王子次第でしょ」

「しだいとは?」

「第一王子…いや、今は国王か。が、絶対に捕まえろと命令すれば、追ってくるんじゃない?」

「まあ、そうなるか…」

「どういうやつのなの?」


 あたしはレイラに訊く。


「どうと言われましても…。直接の交流はないので…なんとも」

「だよね」

「私の印象だけでいえば、執拗な性格ではないかと、思います」


 他国にまで乗り込んで、拘束するのはリスクがある。

 

 それが分かってる人物だと思いたいね。



「お金がほしいとのことでしたので少しですが、用意しました」

「申し訳ありません。いつか必ずお返しいたします」

「無理せずに。シンディ、取ってきてくれ」

「はい」


 脇に控えていたシンディに呼びかける。すると、シンディが執務室に入っていった。

 

「ここから南へ行くと、リカシィと港町がある。そこまで行けるくらいのお金を用意した」

「ありがとうございます」

「リカシィまで行けば、何かしらの仕事が見つかるはずだ。頑張って」

「はい…本当にありがとうございます」


 

 シンディが戻ってきた。その時、兵士が駆け込んでくる。


「隊長!大変です!」

「なしたの?」

「ライノが人質に…」

「はあ?!」




Copyright©2020-橘 シン

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