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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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102/128

28-5


 ウィルに状況を説明した。


 彼はなるほどと言って頷きを一つ。



「ノーストリリムから来たっていうか、逃げて来たと言ったほうがいいね」

「だね」

「これって亡命じゃないの?」

「たぶんね」

「たぶんって…亡命なら、保護して王都に連絡すべき案件じゃ…」

「そうだけど、本人たちは亡命とは言ってないし、お金渡してどこかに行くなら、面倒なとにならなくて済む」

「少し冷たすぎない?」


 リアンが眉間にしわを寄せて言う。


「彼らは命を狙われている可能性もあるんだし、ここは一旦、シュナイツで保護したほうがいいと僕は思う」

「保護した結果、シュナイツが狙われるかもしれないんだよ?」

「だから、王都に連絡して…」


 ウィルの言葉を遮るように、執務室のドアがノックされた。


「失礼します」


 ドアが開き、兵士が敬礼する。


「どうしたの?」

「例の四人が領主にご挨拶申し上げたい、と言っていますが…」

「ご挨拶…」


 あたしは思わず呟いた。挨拶?この状況で?。


「別に構わないよ」


 ウィルが立ち上がった。


 彼の決断の早さに、あたしは戸惑う。


「する必要ないって…」

「ヴァネッサ。彼らは礼儀を尽くそうしているのに、必要ないはないだろう?」


 ウィルの視線があたしを射抜く。

 

 彼の言葉は正論だ。しかし、あたしの胸には拭い去れない不安が渦巻いている。


「あんたの気持ちはわかるけど、あの四人は雰囲気がよくないんだって」


 あたしは必死に言葉を探す。

 

 彼らの纏う異様な空気が、あたしを強く警戒させていた。


「雰囲気?」

「何を考えてるか、わかんないんだよ。賊に追われてきた農民とか商人とは違って…どう言えばわかんないけど…」


 嫌な予感があるとは、言わなかった。


「だとしても…いや、だからこそ会うべきだよ」


 ウィルは迷いなく、そう言い放つ。彼の決断は揺るぎない。


 彼は、四人を連れてくるように指示する。


「了解であります」

「待ちな!」


 あたしは思わず声を張り上げた。兵士は驚いたように振り返る。


「はい?」

「あたしも行く。ウィル、一人だけ連れてくる。それでいいでしょ?」

「…わかった。君に任せる」


 彼は、納得したようには見えなかった。それはあたしも同じ。


 お互い妥協した結果だ。


「謁見室で待っているから。各隊の隊長も同席させる」

「あいよ」

 

 報告にきた兵士には各隊の隊長を呼びに行かせて、あたしは四兄妹の元へ。


 

「領主に会いたいって?」

「はい。感謝とご迷惑をおかけした謝罪を…」

「そこまでする必要はないんだけどね…」


 あたしは呟く。


 仕方がない。


「四人は行かせない。一人だけだよ」


 あたしはきっぱりと言い放った。


「わかりました。私が行きます」

「じゃあ、ついてきな」


 レイラとともに館へ向かおうとした。その時だった。


「レイラねえちゃん。おれも…」


 末っ子のリクがレイラに話しかける。


 彼の声は不安げに震えていた。


「リク、あなたはここで待っていなさい。兄さん、イーナも。大人しくしていて。すぐに戻ります」

「うん…」


 リクはあたしを見る。いや…睨んでるというべきか。


 あたしが、レイラを誘拐でもしようとしてるとでも思ってるのか。


「何もしないって」

「わかるもんか…」

「リク!失礼ですよ」


 レイラがリクを窘める。


「申し訳ありません…。リク、謝りなさい」

「いいって」


 あたしは歩き始めた。


 館へ入る。

 


「本当に申し訳ありません。弟が失礼な物言いを」

「あんたを心配してるんでしょ」

「そうなんですが…あの子は、血の気が多くて、困ってしまう時があります」

「あんなもんだと思うよ。男の子は」

「はい…」


 レイラはため息を吐く。


 そのため息は、彼女が背負う重荷を物語っているようだった。



 二階に上がり、謁見室のドアの前へ。


「うちの領主はうやうやしくされるのが、好きじゃなくてね」

「そうなのですか」


 レイラは少し驚いたような顔をする。


「膝をつく必要はないから」

「わかりました」


 あたしはドアを少し開けて中を確認。


 全員揃ってるね。


「どうぞ」


 ドアを開けて、レイラを謁見室に入れた。


 彼女は、謁見室の中程まで進む。



「はじめまして。レイラ・ヒルトゥーラと申します」

 

 そう言って頭を下げる。


「ウィル・イシュタルです」


 続いて各隊の隊長の紹介。


 リアン、ライア、ミャン、エレナ、そしてジル。

 


「エレナさんは、隊長さんだったのですね」


 レイラの視線がエレナに向かう。


「私自身は隊長に相応しくないと思っている。だけど、ここには限界突破を一度もしていない魔法士がいる。彼らの指導を仰せつかっているから…」


 エレナは淡々と答える。彼女の言葉には、謙遜と同時に、強い責任感が感じられた。


「なるほど…あなたはちゃんとやるべきことを見いだしているのですね」


 素晴らしいです。と、レイラは話す。



「この度は、突然お伺いしたにも関わらず、お助けいただきありがとうございます」

「たいしたことはしていませんよ」

「いえ、そんなことはありません」


 レイラは恐縮しっぱなしで、顔を伏せたままだ。



「よろしければ、何があったのかを教えていただけませんか?政変に巻き込まれた、とヴァネッサからは聞きましたが」


 彼女は言いづらそうにしていたが、やがて顔を上げる。


「こうなってしまったのはすべて、私の無関心と不注意が招いたものです…」


 

 レイラは、魔法士として二度の限界突破をしたことから、ノーストリリムでの地位を確立していた。


「私は地位や権力などに興味はありませんでした」


 兄弟たちと生きて行ければそれでよかったとレイラは、話す。


「今思えば、二度目の限界突破をした時から、何かが狂い始めていたのです」



 レイラは二度の限界突破したことで、魔法士を統括する役職に就くことになる。



「最初、お断りしたのです」

「どうして?」


 ウィルが尋ねた。


「若輩者の私が魔法士を束ねるなど、到底無理な話。経験豊富な先輩方がなるべきだと…」


 

 しかし、周囲からの推薦もあり、不本意ながら魔法士統括官となった。


 統括官となってからは、魔法士としてではなく、政治的な仕事が主なものとなっていく。



「政治は私向きの仕事ではありませんでした…」

「魔法士の仕事ではない」


 エレナが少し語気を強めて話す。


「シファーレンでは、魔法研究所は独立した機関で、宮殿に研究所はあるものの、国から一定の距離を保っている。私は、そう習った」

「王国もそうだよ」

「どうして独立?しているの?」


 リアンが手を上げる。


「魔法は国を簡単に滅ぼせる力があるためです」

 

 エレナの言葉は重く響いた。


「滅ぼすって…そんなことする?自分たちが困るじゃない」


 リアンの疑問はもっともだね。


「力で、支配したい奴らがいるのさ…」


 あたしは呟く。


 人は、バカな生き物なんだよ。いつまで経っても。



「私はそうした懸念から、できる限り中立の立場を保っていたのですが…」

「中立って難しくない?」

「はい…。傍観しているだけか、と罵倒された事もあります」

 

 レイラの表情は、苦しそうに歪んだ。

 

「面と向かってか?」


 ライアの問いにレイラは力なく頷いた。


「そんなつもりはなかったのですが…時期が悪かったこともあるかと思います」

「時期?」

「私が統括官になってまもなく、陛下がお倒れになったのです…」



Copyright©2020-橘 シン

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