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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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101/128

28-4

 

 敷地内に足を踏み入れた彼らは、あたりをゆっくりと見回した。


 その視線には警戒心と、わずかながら疲労の色が浮かんでいるように見えた。


「武器を預からせてもらう」

「わかりました」


 四人から、武器を預かる。


 その手は、武器を手放すことをためらっているかのようだった。


 彼らの視線は落ち着かず、常に周囲を探っている。


「ここを動かないように」

「はい」

「食事は今、用意させてる。時間がかかるかもしれない」

「構いません」

「悪いね」



 彼らは、ずっと周囲を気にしてる。


 まあ、注目さてれるし、居心地がいいはずがない。


 緊張感が抜けずに、ピリピリとした雰囲気が出てるのが、あたしは気になった。

 

 張り詰めていて、どうにも危なっかしいね…。

 


 あたしは武器をガルドに渡しながら、声を潜めて話す。

 

「あんたとレスターで見張って」

「はい」


 ガルドは短い返事とともに、私から武器を受け取った。


「あまり話しかけないように」

「刺激しないようにですね」

「そうだよ」


 ガルドに頷く。 


「どうにも、嫌な予感がするんだよ…」

「やめてくださいよ…」

「誰にも言うんじゃないよ」

「言いたくないです…」


 それでいいと言って、彼の肩を叩く。



「警戒度を通常に変えるよ!訓練を始めな!」


 あたしは大声で指示する。


 兵士たちが一斉に動き出す。


「ちんたらしてんじゃないよ!」

 

 兵士たりが慌てて走り出した。


「サム、スチュアート、ライノ、ミレイは自主訓練!」

「了解!」


 四人は竜騎士隊の兵舎前へ向かった。



 その時、背後から声をかけられた。


「ヴァネッサ」

 

 振り返ると、エレナが立っていた。


「どうしたの?」

「彼らと話したい」

「話したいって…」


 彼女にしては、珍しい。


「正確には、あの魔法士と」

「あー。気になる?」

「気になるわけじゃないけど…。転移魔法の情報を得られるかもしれない」

「なるほど」


 そういう事か。


 転移魔法は絶賛研究中だもんね。


「あたしが聞いてこようか?」

「自分で訊く。私自身の問題だから」

「確かに…。できれば、あの魔法士の力量ってやつも知りたいね。あたしは」


 エレナの耳元で囁く。


「握手をすれば、だいたい分かる」

「じゃあ、お願い」

「了解した」


 エレナと二人で四人兄妹に近づく。


 彼らは依然として警戒心を解かず、じっと私たちを見つめている。



「レイラ・ヒルトゥーラ」

「はい」

「うちの魔法士が、あんたと話したいって」

「はい…」


 彼女の返事には、かすかな戸惑いが感じられた。


 エレナが前に出る。


 レイラも一歩前に出てきた。

 

 あたしは、二人の顔が見える位置にそっと移動した。



「はじめまして。私は、エレナ・フォートラン。シュナイツの魔法士として所属している」


 レイラの表情を見ていたけど、特に変化はなかった。


「レイラ・ヒルトゥーラです」


 彼女はまっすぐエレナを見て自己紹介する。


「失礼ですが、あなたは魔法士ですか?」

「はい」

「そう…」

 

 エレナがあたしをちらっと見た。


「つかぬことをお聞きする。転移魔法はご存知ですか?」

「転移魔法ですか…一応知っています」


 レイラの言葉に、エレナが少し前のめりになる。


「ぜひ!ご教授いただきたい」

「えっと…それは出来かねます…」

「それはなぜです?何か制約があるでしょうか?」


 エレナの問いに、レイラは首を横に振った。


「いいえ。制約などありません…転移魔法がある、という知識しかないのです…」

「知識だけ?」

「はい…」


 レイラは転移魔法は知っているが、使えるわけではなかった。


「習ってないということ?」

「はい。私だけではありません。ノーストリリムにいる魔法士全員、知らないと思います」

「そう…ですか…」


 エレナは肩を落とす。


「あたしからも聞いていい?」

「はい、なんでしょう」

「なぜ、習わないの?便利だと思うけど」

「ノーストリリムは、転移魔法がいらないほどの小さな国ですから」

「あーなるほど…」

「だけど、東西に長い」


 エレナがそう指摘する。


「ノーストリリムの首都とその他の町と村、集落は、ほぼすべて東側にあります。偏っているのです。西側に住んでいる者たちもいますが、ごく少数で、国としての重要度は低い」

「なるほど…」

「ということですので、申し訳ありません」

「いいえ。あなたに否はない」


 エレナにとっては、残念としか言えない情報だった。


 

「お近づきの印び、握手をしていただけますか?」


 エレナの突然の申し出に、レイラは少し驚いた表情を見せた。


「え?ええ…」


 レイラは戸惑いながらも、エレナの手を取った。


 二人が握手をする。


「エレナ?」


 エレナは、黙って握手をしてる手を見つめていた。


「…」

「…」


 レイラも言葉を出さない。


 二人が見つめ合う。いや、この場合お互いの力量みたいなのを推し量っていたというべきかもしれない。



「あなたは二度の限界突破をしている」

「はい。あなたもですね」

「ええ」


 これにはあたしも驚く。


 魔法士の限界突破は非常に難しい。


 一度の限界突破をしてる魔法士は相当数いるが、二度となるとぐっと数が減るとエレナが言っていたのを思い出す。



 ゆっくりと手を離す二人。



「私は一年ほど前に、やっと突破したので…魔法力はそれほど高くはないかと…」


 レイラは謙遜してるのか、そう話す。その声は、どこか自信なさげだった。


「関係ないと思う。私は、十代で二度目の限界突破をしたが、あなたと差はない」

「十代で…すごいですね」

「すごくはない」

 

 エレナも謙遜しているのか、首を横にふる。



「もし魔法士として成長や高みを望むなら、シファーレンに行くことをお勧めする」


 エレナは真剣な表情で、レイラに助言した。


「シファーレンですか…」


 レイラの声には、迷いが感じられる。


「シファーレンは魔法研究において最先端を行っているのはご存知でしょう」

「知っています。知っていますが…私は魔法士としての志は高くはありません」

「そう…ではなぜ魔法士に?」

「食べて行くために魔法士になったのです」


 レイラたちの家は貧しく食べていくのがやっとの状態だった。


 レイラは兄妹たちに楽をさせたくて、魔法士としの道を選んだらしい。


「そういう事情が…」


 エレナの表情には、理解と、わずかながら同情の色が浮かんでいた。


「つい最近までは、特に変わりなく順調だったんですけどね…。あなたこそ、シファーレンに行くべきでは?」

「私は…色々事業があって」

「そうですか」


 エレナは話をはぐらかした。

 


「レイラ、話せてよかった」

「私もです。エレナさん」


 エレナとレイラは、穏やかな表情でもう一度、握手をして離れた。あたしも離れる。



「エレナ」


 十分離れてから、エレナに声をかけた。


「彼女、どう?魔法士として。あんたと同じくらいみたいだけど」

「相当できると思う」


 エレナがそういうなら信憑性は高い。


「根拠はない。けど…」

「けど?」

「何か雰囲気が違う。どう言っていいか、わからないけど…」

「雰囲気って、いったって…まあ、変に緊張というか張り詰めてる感はある。くらいはあたしにもわかるよ」

「そう…あなたの言葉を借りるならば、嫌な感じがする」

「やめてよ…」


 あたしは苦笑いを浮かべた。


「私の、嫌な感じは当たらないから安心していい」

「あたしのは…」


 それ以上言葉を続ける必要はない。


 私の嫌な予感は、これまでの経験上、ほとんど外れたことがないんだから。


 

 四人に食事が配られた。

 

 彼らは静かに食事を始める。


 あたしは、四人が食べる様子を見つつ、ウィルに報告するために館へ入って行った。


 


 

Copyright©2020-橘 シン

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