8.令嬢たちの嫉妬
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昼休み。大食堂のテラス席で今日もラキを囲むように令息たちが集まっていた。
「ラキ様、この前教えていただいた刺繍、完成しました!」
「わぁっ、すごい! シリルくん、前より縫い目が綺麗になってる! 努力したんだね」
「えへへ……!」
「ラキ、今日の髪型どうだ?」
「似合ってる! 前髪を少し流しただけで、すごく大人っぽく見えるよ」
「そ、そうか……!」
褒められた令息は耳まで真っ赤になりながらも、どこか誇らしげに笑う。
その様子を少し離れた場所から眺めていた令嬢たちは、揃ってため息を吐いた。
「ああもう……また始まったわ」
「今日も令息ばかり……」
「私もラキ様とお話ししたいのに……」
ラキは一部の令息たちだけではなく、令嬢たちの間でも密かに人気が急上昇していた。
「わたくし、お茶会に誘ってみるわ!」
「頑張って!」
一人の伯爵令嬢が勇気を振り絞り、ラキへ近付く。
「ラキ様」
「はい、どうしました?」
ラキは伯爵令嬢へ微笑んで返事をする。
「もしよろしければ、今度ぜひわたくしたちのお茶会へ―――……」
「ごめんなさい」
ラキは申し訳なさそうに両手を合わせた。
「ディートリヒ様から誤解を招く行動は慎むように言われてるんです。俺もディートリヒ様に勘違いされたくないので」
「……え?」
ラキがディートリヒに言われたのは『女と密会するな』だが、正直に告げるわけにはいかないのでそれっぽい理由を述べて断るラキ。
「せっかく誘ってくれたのに、ごめんね?」
「~っ!」
ラキの有無を言わさない微笑みに、伯爵令嬢は食い下がることが出来なかった。
「どうでした!?」
「承諾していただきましたの!?」
伯爵令嬢が戻ると、令嬢たちが一斉に詰め寄った。
「断られたわ……」
「えぇっ!?」
「でも、嫌がられたわけじゃないの。ディートリヒ様との約束だからって……ディートリヒ様に勘違いされたくないって……」
「そんなの真面目すぎるでしょう……!」
「更に好感度が上がってしまったわ……!」
令嬢たちは頭を抱えた。
婚約者がいても、お茶会くらい参加する貴族は多い。
だが、ラキは違った。
ディートリヒに言われたことを律儀に守っているのである。
「ディートリヒ様って罪なお方ね……」
「ラキ様を独り占めしているようなものじゃない」
「でも、ディートリヒ様は全然独占してなさそうなのがまた悔しいわ……」
令嬢たちが恨めしそうにラキがいるテラス席へ視線を向ける。
「席替えしようよ! ラキ様、こっちに来て!」
「僕の隣、空いてるよ!」
「いやいや、昨日は君たちが隣だっただろう!」
「そうだそうだ!」
「仕方ないなぁ~」
ラキを囲んで、令息たちが平和に席決めをしていた。
「今日の紅茶は僕が淹れます!」
「じゃあ、今日のラキ様と放課後を過ごすのはこの三人ね!」
「「「異議なし!」」」
驚くほど平和で、令息たちは誰もラキを独占しようとはしない。
なぜなら彼らにとってラキは“憧れの推し”だからだ。
ラキ(推し)はみんなで語り合うもの。
ラキを(推し)が笑顔なら、自分も嬉しい。
ラキ(推し)が楽しそうなら、それが一番。
令息たちの間には、そんな暗黙の了解が自然と出来上がっていた。
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