6.久しぶりの登校
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「久しぶりだから、ちょっと緊張するなぁ」
学園の校門を見上げ、ラキは呟く。
これまでは実家のトラブル対応や借金問題に奔走していたため、ラキの学園での出席日数はギリギリだった。
ハネスト男爵家の借金がカムグロス侯爵家によって完済された今、サボりではなくラキが学園を欠席する正当な理由はなくなっていた。
制服姿のラキが学園の敷地へと一歩踏み出した瞬間だった。
「……えっ!?」
「あら。あの方はどなた?」
「ハネスト男爵令息だ」
「嘘でしょう……? 最後に見た時より、格段に美しくなってない……?」
すれ違う生徒たちの視線がラキへと集中する。
ハネスト男爵家の嫡男であるラキが“社交界の魔性の女”と呼ばれたハネスト男爵夫人の美貌を受け継いでいることは有名な話だ。
しかし、ラキは父一人子一人で母親が亡くなっており、交流の場であるお茶会などにはあまり参加することがなかったため、ラキの姿を間近で見た者は少なかったのだ。
「すごい視線……。やっぱり“没落寸前の男爵家がカムグロス侯爵家に救われた”って噂、もう広まってるのかな?」
ラキは周囲のヒソヒソ声や熱い視線を“好奇の目”と捉え、気にせずに自分が所属するクラスへと向かう。
まさか、ただ単に見惚れられているだけとは、微塵も思っていなかったのだった。
「ふぅ……ちょっと早く着きすぎちゃったな」
周囲の視線など全く気にせず、教室で自分の席についたラキはパタパタと手で顔を仰いだ。
『言っておくが、貴様は女と密会することはおろか愛人を作ることは絶対に許さん。だが、貴様も男だ。そうだな……ああ、男で発散するのは認めてやろう。男遊びならしてもいい。貴様のような顔立ちなら相手に困ることもないだろうからな』
ラキはディートリヒに言われた条件を思い出す。
(今まで同年代の友だちっていなかったからなぁ。これを機に男友だち、たくさん作っちゃおうっと!)
ディートリヒに言われた時から考えは変わらないが、ラキにとっての“男遊び”とは下心満載の密会などではない。
外で遊んだり、美味しいものを食べに行ったり、趣味に没頭したり、楽しくお喋りしたり、仲良く交流することである。
(昼休みになったら、誰に声を掛けようかなぁ~)
授業を受けながら、ワクワクするラキだった。
昼休み。ラキが目をつけたのは影を潜めていた令息たちだった。
貴族が通う学園では、実家の権力や財力などで立ち位置が決まる。
彼らは控えめな性格や嫡男でないことなどを理由に、高圧的な令息たちから少し浮いてしまっているいわゆる“庇護欲をそそるタイプ”だった。
「ねぇ、隣いいかな?」
ラキが声をかけると、木陰で本を読んでいたルダース子爵家の三男・シリルが『ひゃい!?』と情けない声を上げた。
「ハ、ネスト男爵令息……!? ぼ、僕に何か用っ?」
顔を上げたら普段見掛けることがないラキがいたことで警戒するシリル。
「うん。久しぶりに登校したから、誰かとお喋りしたくてさ。君、すごく綺麗な刺繍のブックカバーを使ってるね。何処で買ったの?」
ラキは微笑みながらシリルの隣に座って、ブックカバーへ視線を向けた。
至近距離でラキに微笑まれたことで、シリルの顔は一瞬で真っ赤に染まる。
「こっ、これは趣味で……」
「趣味?」
「あっ、ちが……っ!」
失言だったのか、慌てて手で口を塞ぐシリル。
「自分で刺繍したの?」
「………」
言い逃れは出来ないと思ったのか、シリルはこくりと頷く。
「器用なんだね」
「でも、男のくせに刺繍なんて、みんなには笑われて……」
「えー! なに言ってるの、めちゃくちゃ凄いよ!」
「……え?」
ラキはシリルの手元にあるブックカバーをまじまじと見る。
「このブックカバー、もうプロのレベルじゃない? ここの色合いとかすごくセンスが良いよ! 君の刺繍が好きって気持ちがこういう繊細な作品を作り出すんだろうね。男とか女とか関係なく、特技があるって本当にかっこいいよ」
「僕が……かっこいい……?」
今まで『男らしくない』や『もやしっ子』とからかわれてきたシリルは初めて言われた言葉だった。
「本当だよ。もっと自分に自信を持ちなよ。君が楽しそうに刺繍してるところ、見てみたいな」
「えっ! 僕が刺繍をするところを……?」
「うん。だめかな?」
シリルを見つめながら、こてんと首を傾げるラキ。
「~っ! ぼ、僕、ハネスト男しゃ……ラキ様にこれよりもっとすごいブックカバー作るから……っ!」
「え、ほんと?」
「うん!」
警戒していたはずなのに、自分自身と刺繍を褒められたシリルはころりとラキに落ちたのだった。
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