【完結】20
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身支度を済ませて、今日もハネスト男爵邸へ向かう予定のラキ。
「ん?」
カムグロス邸を出ようとしたら、ディートリヒを発見した。
「ディートリ……」
ディートリヒから『必要最低限、オレに関わるな』と言われていても、見掛けたら挨拶くらいはするのでラキは声を掛けようとして立ち止まる。
ディートリヒは一人の令嬢と仲睦まじく歩いていた。
令嬢は金髪で、ラキと髪色がよく似ていた。
ディートリヒは愛しそうに令嬢の髪に触れる。
(おぉっ!)
令嬢がディートリヒの公認愛人であることを察するラキ。
(仲良さそうだし、もしかしたら来年には跡継ぎが産まれるかな!)
ラキはそんな感想を抱きながら、ハネスト男爵邸へ急ぐのだった。
別の日。
「ただいま戻りましたー」
ハネスト男爵邸からカムグロス侯爵邸へ帰って来たラキ。
執事から湯浴みと食事をどちらにするか聞かれ、食事と答えるとダイニングルームへと案内される。
「!」
ダイニングルームには既にディートリヒがいて、ディートリヒの隣には先日と違う令嬢が座っていた。
「はい、ディートリヒ様。あーん」
令嬢はディートリヒに切り分けた肉をあーんしていた。
(何処の令嬢? マナー悪いなぁ)
食事とは個人で行うものだ。
乳幼児なら大人が食べさせるのが基本だが、ディートリヒは学園を卒業した成人男性である。
「………」
令嬢が率先してやっていることかと思ったが、ぱくりとあーんされた肉を口に含むディートリヒ。
その時にちらりとラキを見た気がした。
(もしかして、ディートリヒ様って俺が知らないだけで普段から令嬢にあーんされてる? それなら見て見ぬふりをしてあげた方が良いよね)
食事の時間が被ってしまったことを悪いと思いながら、一流シェフが作ったディナーに舌鼓を打つのだった。
更に別の日。
夜、星空が綺麗なのでカムグロス邸の庭を散歩しようと自室を出るラキ。
「!」
廊下を歩いていると、客室からディートリヒが出て来た。
「っ、ディートリヒ様!」
先日に見掛けた2人の令嬢とはまた違う令嬢に抱き締められるディートリヒ。
「離せ。もう用はない」
「わたくし、信じてますから!」
ディートリヒが不機嫌なのが分かったのか、すぐに離れる令嬢。
「……お待ちしております」
カーテシをして、令嬢は客室へと戻って行った。
「覗き見とは随分悪趣味だな」
「あ、気付いてました?」
ラキにそんな趣味は全くないが、そう言われても仕方ない状況だった。
「邪魔してしまったのなら申し訳ありません」
「ふん」
「失礼します」
ディートリヒと話すことはないので立ち去るラキ。
「待て」
「?」
ラキを呼び止めるディートリヒ。
「貴様は今の状況を見て何とも思わんのか」
「何がです?」
「………」
ディートリヒが何を言いたいのか、ラキは分からなかった。
「旦那が自分以外の女といるんだぞ」
「え、俺は男ですけど?」
「………」
会話が噛み合わない2人。
「えーと……もしかして、公認愛人についてですか?」
「! そうだ」
「俺は跡継ぎを産めないので愛人に産んでもらう話でしたよね」
「っ」
公認愛人については合ってるが、跡継ぎまで話が飛んでしまい、ディートリヒは『そこじゃない!』と突っ込みたくなった。
「あ、そうだ」
「な、んだ?」
「俺、ディートリヒ様に確認したいことがあったんです」
「!」
ラキが自分に興味を持ったことに嬉しく思うディートリヒ。
「あの、公認愛人が何人いようがディートリヒ様の自由なんですけど……」
「ああ」
ディートリヒは、にやけたいのを必死におさえる。
「ディートリヒ様は最初の子をどの令嬢に産ませるかは考えていますか?」
「………は?」
「何処の家も長子って重要じゃないですか。子どもが産まれた順番によって公認愛人の待遇も変わってきますし。それとも同時進行で子作りするつもりですか?」
「………」
てっきり『公認愛人なんて作らないで!』と懇願するのかと思ったが、ラキは見掛けた3人の令嬢が公認愛人としてどういう待遇になるのかが気になるようだ。
「貴様には関係ない」
「確かに俺には関係ないですけど、公認愛人だけじゃなく子どもを産むとなると令嬢たちの父親とも相談しないといけませんよね?」
「………」
公認愛人は伴侶に認められた愛人のことだ。
伴侶が自分以外と男女の関係になっても構わないというお墨付きだが、子どもを産むのが加わると話が変わってくる。
公認愛人が産んだ子は庶子とはいえ、貴族の血を継いでいるので利用価値が高い。
両家で取り決めしておかないと後々トラブルの原因となるのだ。
「俺には関係ありませんけど、ディートリヒ様に一日でも早く跡継ぎが出来ることを祈っています」
「………」
全身の血の気が引いていくディートリヒに対して、ラキはにこやかに笑う。
「俺、そろそろ行きますね。おやすみなさい」
会釈してラキはその場から去って行った。
「………」
選んだ3人の令嬢と仲睦まじい姿を見せてラキに嫉妬どころか、誰に最初の子を産ませるか聞かれてしまったディートリヒ。
ラキは結婚しても、ディートリヒに興味を抱くことはなかった。
“お飾りの正妻”と言ったのはディートリヒで、ラキは結婚の条件を律儀に守っているだけだ。
それが今、ディートリヒを更に苦しめていた。
(ラキ以外の人間と子作りなんて……)
ラキと少しでも仲を深めていれば、ディートリヒは“跡継ぎを作ることは貴族の役目”として腹をくくっただろう。
(……一体どうすれば良いんだ)
初対面でラキへの接し方を間違えてしまったディートリヒ。
ラキはディートリヒに対して無関心だ。
これから先、ディートリヒとラキとの関係が好転する日は来るのだろうか。
それはディートリヒに委ねられるのであった。
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