10.ディートリヒの思惑
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「そうか……ハネスト男爵令息……」
何やら考え込むカムグロス侯爵。
カムグロス侯爵家を継ぐディートリヒの婚約だ。
慎重になり、即答出来ないのは当然だった。
「やはり、親子なんだな」
「父上?」
フッと何処か遠くを見つめるカムグロス侯爵。
「良い機会だ。着いて来なさい」
「はい」
ディートリヒがカムグロス侯爵に連れて来られたのはカムグロス侯爵のコレクションルームだった。
何が保管されているのかは不明で厳重に管理されており、カムグロス侯爵夫人も入ることは許されない部屋だ。
「これは……」
ドアの鍵を開けて入室すると、美術品がたくさんあった。
ディートリヒが美術品に目を通していると、カムグロス侯爵が布に包まれた何かを大事そうに持って来た。
「見てみなさい」
「はい」
カムグロス侯爵に促され、ディートリヒがゆっくり布を取ると姿を現したのは絵画だった。
「!」
絵画を見て、ディートリヒは目を見開いた。
描かれていたのはラキだった。
しかし、よく見るとラキと似ているのは顔と髪の色だけ。
ふんわりとした蜂蜜色の髪に茶色い瞳の美女だった。
「父上。この方は……?」
「アナベル・エククレム子爵令嬢。ラキ・ハネスト男爵令息の母親だ」
「! この方があの“魔性の女”なんですか」
「そうだ。美しいアナベル嬢に色んな男が夢中になった。私もその一人だ」
「………」
ディートリヒはなんて返事をしていいのか分からず、黙ってカムグロス侯爵の話を聞くことにした。
「男好きで有名なアナベル嬢だったが、私とは一夜を共にしてくれなかった。求婚状も送ったが断られてしまったんだ。挙げ句の果てにはあの醜男……ハネスト男爵夫人になってしまった」
「………」
「一体どんな汚い手を使ってアナベル嬢を手に入れたのか未だに分からない。結局、醜男はアナベル嬢に愛想尽されて出て行かれたがな」
「………」
「アナベル嬢が事故死したのは世界の損失だったが、あのままハネスト男爵邸にいたら不幸になっていただろう」
「………」
「お前の母親が公認愛人を許可してくれればアナベル嬢を囲えたのに……全く私の邪魔ばかりしてくれる」
「………」




