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己で書いてて思います。
なんでこんな残酷な物語にしたのかなー
nano-animato
アニマートとは『活発に生き生きと』という意味だ。
体を維持するためにナノテクノロジーの生んだ怪物。『ナノ・アニマート』は商品名。
『ナノマシン』構想は1990年代にはすでにあったという。そのときの理想どおりの形だった。能力的にも。ただ出来上がるまでに百年かかったのは意外だったかもしれない。使い捨ての『ナノ・コバルト(開発・イージー・インターナショナル)』『ナノ・フウコ(開発・飛跡科学研究所)』は増殖できず、定期的に入れなくてはならなかったが、それに関しては2045年には医療器具として発売されていた。
2098年に完成にこぎつけ、動物実験を繰り返したあと、二年後に実験的に発売が開始された『ナノ・アニマート』は自己増殖機能を携えているから、一度投与すれば前者のように半年ごとに打ち込むという手間が要らなかった。
発売元は株式会社ブルース。ブルースはこれのほかに2115年に、前述の品より遥かに安価で効果の弱い『ナノ・ヴィーヴォ』nano-vivo(活発に)『ナノ・コン・モート』con moto(元気良く)を制作し、立て続けに販売した。
またこの業界に同時期に参入した有限会社ペーパードラゴンは2118年に同じく自己増殖できる『ナノ・エリクシル』『ナノ・アムリタ』を販売した。
ペーパードラゴンよりさらに遅れて月都市月読に本社のある晃学がここに参加するが、『若水』を製作中に計画は白紙にしてしまった。以降、晃学は使い捨ての『律』を発売しただけで事実上この開発から降りた。
『ナノマシン』それはまったく、奇跡といっていい医学ロボットだった。
人が活発に生き生きと生きられる機械。まさしくそれだった。
10のマイナス9乗という名前のついた、体内で自己増殖できる医療ロボット。これが入っている限り人は病気になることがない。癌は最初の最初で発見されて駆逐され、脳腫瘍からも胃潰瘍からも、ウィルスからも、黴からも、アレルギー反応からも、すべてから人間の体を守ってくれる夢の機器。大きな傷さえ素早く癒す。骨折にさえも適応する。
これが世にいう『ナノテクノロジー』の究極のもの。
地球人たちはこぞってそれを買った。
それが広まった頃に大きな騒動がおきた。
メーカーの違うナノ所有者同士は性交によって、または軽いキスによって酷い炎症を起こすようになったのだ。
ナノは人間の特定の正常な細胞以外はすべて攻撃するように出来ている。だから、『ナノ・エリクシル』の所有者と『ナノ・アニマート』の所有者がキスをすると、唾液に混じっているそれらが互いを攻撃しあう。恐ろしく増殖力のあるそれらが、機械らしく白熱しあってすべてが叩き潰されるまで妥協せずに潰しあう結果、生身の肉は火傷する。最悪な相性なのは、『ナノ・アニマート』に接触した『ナノ・アムリタ』所有者だった。『ナノ・アニマート』は叩かれると爆発的に増殖する。『ナノ・アムリタ』も同じ性質だ。性器が爛れ、三日の間苦しんだという。その後、『アムリタ』が体の中で権力を取り戻して、体を綺麗に治したというけれど、その人たちは気安く他人と深い付き合いはできなくなっただろう。
そんなことがあってナノシリーズはとても危険だと判断された。当然廃棄が検討されたし、それぞれのメーカーでも最低限の互換性を持たせ、こうした事故を防ごうと考えた。
ところが、2120年にナノの母子感染が認められ、さらなる大騒動に発展した。人の手から離れてそうやって独自に進化していったナノはついに人間への直接の脅威に変わる。
異常に増殖したナノは人体に悪影響を及ぼすようになったのだ。体一杯に増殖して、血管を詰まらせ宿主を殺す。
2148年。ナノシリーズの販売はここで停止する。
だが、ナノはミトコンドリアのように百パーセントの確率で母子感染するのだ。同性同血液型同年代間でも感染率は高い。これは体温に関係している。
2150年代の始めになると、ナノを継承してしまった子らは迫害され、差別を受け始める。
これは完全に人為的に生み出された、エイズパニックにほかならない。結婚で、仕事で、住居で、病院で、葬儀や墓地に関してさえも、あらゆる生活においてヒステリックなまでに忌避されたナノ所有者は四百年を経た今、そうは残ってはいないはずだ。確実に胎内で母子感染するが子供が男の子であった場合、そこでナノは途切れるはずだから。
僕の中には生まれる前から一種類の悪魔がいた。
『ナノ・アニマート』。母がくれた悪魔。
これのおかげで僕は今まで一度も病気をしたことがない。怪我もすぐに治る。見かけのわりに力も強い。筋肉繊維を強化してくれているからだ。骨も丈夫になっている。
僕の中は常に無菌状態だ。母の胎に居たときから、悪魔も一緒だったから。そんなわけで僕は一度として病気はしていないけれど、人間がもつはずの一切の免疫がないのだ。
特殊な技術が出来て、ナノを体から完全に切り離してくれるといわれたら、僕はきっと拒む。ナノのせいで僕はやがて死ぬけれど、ナノがなければたわいない雑菌たちが空っぽの僕を食い散らかして終りだ。苦しい死に方になる。
それに、僕は血を作り出す能力がほとんど無い。僕の血は透明で、『ナノ・アニマート』の持つ青紫色が入っているだけだ。増殖したナノが血液の代替をしている。増殖するのに邪魔だった、赤血球や白血球、血小板なんかを排除してしまった結果だろう。
母も同病だった。たぶんそういう血筋なのだ。もしかしたら元からこうで、先祖はそれを癒すためにナノを取り込んだのかもしれない。
悪魔と詰りながら、僕はナノに依存して生きていかなければならない。
僕はたぶん最後のナノの継承者なんじゃないだろうか。体内で独自で思考し、増殖する類の機械の開発は、今でもタブーになっている。ナノ継承した最初の少女たちは子供が欲しかったのなら人工子宮でつくり、悪魔を途絶えさせている。
僕は四百年の間迫害と差別に耐えて自然分娩で生まれ続けた奇特な娘たちの、その血脈に終止符を打った、息子なのだ。




