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塵の末裔  作者: 無夜
幸せな生命
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14/20

6


 この電子現象のワープ理論を前にして、ウィディネの唯一の双子がこうして同公転軌道上に在るということがとても意味深く思えた。

 もしなんらかの事情で『ウィディネ』が攻撃を受けたとき、略奪系の海賊が攻め込んだりしたとき、この理論が一部の隙もなく完成していればシー・シックはすぐにあちらに行くことが出来る。そうした想定していたのだということはわかった。

「ねえ、イリス。この理論、どうなってるの? 電子は磁界の中では円運動したがるから、消えても同円上、同軌道上に出るのは納得できるんだけどさ。『ガルーダ』でもやって見せられたから、納得するほかない。この船が球体で内部と外部の質が違ってるのは知っているしね」

 僕はシー・シックの帰路の中で、珍しく寝入らないイリスに種明かしをせがんだ。

 イリスが起きているのは、ワープを使うことでシー・シックまでの距離が数日になっているから、体の機能を低下させる必要がないのと、たぶん僕とそういうことをしたかったんだと思うんだけど。

 僕はこれが解決するまで、ベッドに行く気はさらさらなかった。寝物語に出来るようなもんじゃないし。

「電子と比較して、移動する球体の大きさ(体積)をXとして、×円周率なのか。いや、X累乗×π、それから恒星の引力が離れるほど弱くなるから、公転軌道半径もしくは直径を分子にして、電子速度をかけて宇宙船がワープできる速度を求めるってこと? あ、恒星の大きさと中性子の比率は反比例、分母に置かれるんだよね?」

「ちなみに、直径だよ。あと重さ、というより比重も関係してくる。累乗ではなく質量と体積を掛けて平方根。土星まではそれでいいみたい。ここまでは簡単(普通の人間には暗算はすでに不可能域なんだけど、イリス)。でも天王星から法則ががらりと変わってる」

「そうか。天王星は地軸が傾いているんだっけ。そのあたりからもう、太陽の引力が目に見えて減退してるんだ?」

「冥王星の側になるともうぐちゃぐちゃで、計算は難しくなると言っていた。あたしも暇潰しに計算していた頃があったけれど、面倒くさかった」

「この上、さらに出現する距離の計算をしなきゃならないわけだろう?」

 イリスは頭を左右に振った。

「忘れちゃ駄目だよ、タルヒ。太陽の活動周期は十一年で、その影響は近いほど大きくなる。速度が上がれば上がるほど、それもまた重要になる」

「あ、そうか。それはどう計算してるの? 太陽の活動周期によるものを単に足すの?」

 僕が興味を持ってイリスを覗き込むと、イリスは息を飲んだあとゆっくりと溜息をついた。

「どうしたの?」

「こんな話題でタルヒが喜ぶなら、早くにやっておけばよかった。そんなにこんな計算式とかそういう話が好き?」

「うん。すごく」

 イリスは溜息をまたついた。

「あ、でも、イリスが退屈なら、別の話でもいいよ。たまにこういうのやってくれれば」

 そう水を向けると、イリスは目を輝かせたのだが、すぐにまた沈み込んだ。

「でもタルヒはあたしの話より、公転軌道ワープの計算式の話の方が好きなんだ。そんなに喜んだ顔、ここ二ヵ月近くで初めて見た」

 僕に力いっぱい頬擦りしながらイリスは続けた。

「いいんだ。タルヒがそうして喜んでくれるなら、あたしは楽しくないピタゴラス学派の話だってする」

 なんでそんなに泣きそうな声を出すのかなぁ。これだって会話に違いはないのに。

 僕の背後を滑らかな毛皮がすり抜けた。

「そんな古い学問持ち出さなくても。直角三角形には今用がないもの。だったらむしろ、セツ・セイファートの重力リングの回転数計算式がなぜああなるのか、という話の方が僕には面白いよ」

 学生の頃に会えたら僕はイリスをもっと素直に好きになったと思う。こんなに論議ができる友人もガールフレンドも手に入らない。

「ワープ先の距離は、軌道を内側にずれる入射角度によってほぼ決定する。キンカナたちは頑張ったんだが、絶対に、中心点である恒星の真裏側には出ることはできない。限りなく近づくことはできるけれど」

 イリスは僕をしっかりと抱きしめてきた。

 そのまま僕は押し倒された。

 僕は優しく微笑んで見せた。しょうがないなと諦めるのではなく、もう少し前向きだった。

 イリスにしては僕のつまらない話題によくこんなに長く付き合ってくれたもんだよ。

 僕からキスをすると、イリスはご褒美をもらえた小さな子みたいに嬉しそうに笑った。



 『ウィディネ』から太陽を挟んで真向かいにあるシー・シックにたどり着いたのは四日後のことだった。

 その一ヶ月半の間に、シー・シックで行われたテロ及び殺害事件は片がついていた。

 僕は元の仕事に戻り、イリスは名残惜しそうだったが、旅立った。

 僕はしばらくしてから、またいつもの日常を送るようになった。


 ちなみにイリスから聞き出した土星までのワープの方程式は


恒星質量X:球体質量Y=中性子質量:電子質量


《 √(球体質量×球体体積)÷√(電子質量×電子体積)×(公転軌道直径÷電軌道直径)×電子速度×Y》÷《電子体積×(恒星の質量+恒星の活動周期による変化影響を質量に換算)÷中性子の質量×X》


 ってことらしい。

 確かに、わかりやすい。桁数さえあれば普通の電卓ではじき出せる。ちなみに球体っていうのは、船のこと。今のとこ、球体じゃないと駄目なんだって。


 土星以降になると、計算は複雑化してコンピューターで試算しても出ないことがあるとか。特殊な公転軌道を描く冥王星に達すれば、今はまだほとんど計算不可能。

 おまけに惑星は遠心力で少しずつ、太陽から遠ざかってもいるから、毎回の計算、毎回の予測が必要なんだ。

実は、風俗枠のWAというか、高石は、惑星軌道ワープと水星軌道ワープができてですね・・・。

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