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聖女の薄荷の三層を、二人で並べた――痣は、契約の、出力の口だった

 『これは、契約のメカニズムの、消費装置だ』

 『契約は、別の場所に、その魂の、何かを、押し出している』

 葦の縁の青さの上で、彼の輪郭の重みは、まだ、私の方角に、薄く、寄っていた。


 寄ってきた重みの中で、彼の意識の手が、葦の縁の青さの上に、ゆっくり、降りた。


「——別の角度を、書いてみる」


 彼の発話は、低く、葦の縁の青さの上に、置かれた。


 置かれた発話の下で、葦の縁の青さが、三層に、薄く、開いた。


 いちばん古い層から、順に。

 いちばん新しい層まで、三つの絵を、彼の手は、葦の縁の青さの上に、ひとつずつ、並べていった。


   *   *   *


 いちばん古い層に、一筋の線が、立ち上がった。


 線の輪郭の中で、神殿の岬の、夕日の海の青さが、薄く、開いた。

 開いた青さの中に、巫女の肩のかたちが、立ち上がってきた。

 肩の上に、薄荷の葉のかたちが、添えられていた。

 葉の主筋の角度から、側脈が、五本、左右に、開いていた。


 巫女の足元には、神殿の油皿の火の影が、ふたつ、薄く、揺れていた。

 火の影の側に、神殿の長の影が、ひとつ、薄く、立っていた。

 長の影の手は、巫女の方角に、ゆっくり、伸びていた。

 長の影の手の先には、供物の香木の小箱が、薄く、置かれていた。

 香木の小箱の縁に、葦の繊維の写しの、巻物の影が、ふた巻き、立てかけられていた。


 巫女の絵の下に、彼の手が、文字を、書き入れた。


『痣ある者が、死の際に、その魂を、神殿に納める』


 文字の墨の濃さは、神殿の儀礼書の写しの墨の濃さと、揃っていた。

 葦の繊維の上で、油の墨の重みの中、文字は、長く、保たれた。


   *   *   *


 中央の層に、別の線が、立ち上がった。


 線の輪郭の中で、石壁の写字室の机の上の、写本の縁が、薄く、開いた。

 開いた縁の上に、書き散らした文字の影が、立ち上がってきた。

 筆を持つ者の手の傾きの癖が、文字の墨の濃さの差の中に、薄く、残っていた。


 写本の縁のそばに、夕陽の傾きが、薄く、降りていた。

 夕陽の縁から、修道院の窓の格子の影が、机の上に、伸びていた。

 影の先に、書き手の腕が、薄く、置かれていた。

 腕の先には、写本の縁の上の、墨壺の影が、薄く、揺れていた。

 墨壺の縁の向こうで、中庭の泉のほとりの、校正の朝の光の角度が、薄く、揺らいでいた。


 写本の絵の下に、彼の手が、文字を、書き入れた。


『痣ある者が、死の際に、その魂を、胸に押し当てて導く』


 文字の墨の濃さは、修道院の校正の手の墨の濃さと、揃っていた。

 羊皮紙の縁の上で、油の墨の重みの中、文字は、長く、保たれた。


   *   *   *


 いちばん新しい層に、最後の線が、立ち上がった。


 線の輪郭の中で、海面下の樹脂の壁の、青い光の角度が、薄く、開いた。

 開いた光の中に、薄荷の葉脈の紋章が、立ち上がってきた。

 紋章の主筋の角度は、いちばん古い層の、巫女の肩の上の葉の主筋の角度と、揃っていた。


 紋章のそばに、設計図の余白の、書き入れの薄い線が、残っていた。

 余白から、海面下の確認区画の天井の、青い光の角度が、降りていた。

 光の角度の手前に、私の薄荷の痣が、薄く、立ち上がっていた。

 痣の縁に、海面下の確認区画の樹脂の壁越しの、両方向の同期の最後の一筋の余韻が、薄く、保たれていた。

 余韻の中に、彼の腕の中の最後の呼吸の重みが、もう一度、薄く、降りていた。


 紋章の絵の下に、彼の手が、文字を、書き入れた。


『痣ある者が、死の際に、その魂を、海に還す』


 文字の墨の濃さは、海面下の確認区画の彼の書き入れの墨の濃さと、揃っていた。

 樹脂の壁の青い光の縁の上で、墨の重みの中、文字は、長く、保たれた。


   *   *   *


 三層の絵の下の、三つの一行が、葦の縁の青さの上に、揃って、並んだ。


「——共通の、三つの言葉が、ある」


 彼の重みが、三層の絵を、ゆっくり、揃えた。


 揃った絵の中央で、共通の三つの言葉が、青さの上に、薄く、浮かんだ。


『痣ある者が』『死の際に』『その魂を』


 共通の三つの言葉の下で、別の動詞が、それぞれ、置かれていた。


『神殿に納める』

『胸に押し当てて導く』

『海に還す』


 動詞は、世によって、別の場所を、指していた。


 神殿の油皿の火のそば。

 修道院の写字室の机の上の写本の縁。

 海面下の樹脂の壁の青い光のそば。


 別の場所のはずの三つの場所が、共通の三つの言葉の上で、薄く、重なった。


   *   *   *


 私の側の設計図が、三層の絵の重なりの上に、降りていった。


 降りた設計図の上に、一万回の観測の累積が、立ち上がってきた。


 立ち上がってきた累積の中の、一万回分の観測の経験が、共通の三つの言葉の上で、揃った。

 揃った経験の重みの下で、ひとつの機能の輪郭が、ゆっくり、立ち上がってきた。


 立ち上がってきた輪郭の中央で、ひとつの単語が、私の喉の奥の、いちばん深い場所から、抜き取られた。


「——これは」


 抜き取られた単語の重みは、三層の絵の共通の動詞の上に、薄く、降りていった。


「——契約のメカニズムの、消費装置だ」


 消費、という単語の重みの下で、三層の絵が、もう一度、揃った。


 揃った絵の中央で、共通の動作の輪郭——別の場所に、何かを、移す——が、薄く、立ち上がった。


   *   *   *


 彼の意識の手が、揃った絵の上で、ゆっくり、止まった。


 止まった手の重みの中で、彼の応えが、立ち上がってきた。


「——つまり」


 彼の発話は、私の応えの重みを、間に、置いた。


「痣を、持つ者が、死ぬたびに——契約は、別の場所に、その魂の、何かを、押し出している」


 押し出す、という動詞の重みが、青さの上に、もう一筋、降りていった。


 降りていった重みの中で、三層の絵の動詞——納める、導く、還す——が、揃った。


 共通しているのは、別の場所に、何かを、移す、という、動作。

 差分は、移す先の、場所の名前。


 神殿、胸の上、海。


 移す先は、世によって、別の名前を、持った。

 ただ、移す、という動作だけが、世を跨いで、一万世のあいだ、同じ動作だった。


   *   *   *


 三層の絵の重なりの中央で、私と、彼の、累積が、揃った位相のまま、薄く、揺らいだ。


 揺らぎは、二人の別の場所で、同じ深さに、立ち上がっていた。


「——私たちは」


 私の喉の奥の応えと、彼の発話の重みが、青さの上で、揃った位相のまま、続いた。


「毎世——契約に、何かを、納め続けてきた」


 納める、という動詞の重みが、いちばん古い層の動詞と、もう一度、揃った。


 揃った重みの中で、彼の応えが、続いた。


「——納めていた、というよりは——契約が、俺たちから、押し出していた」


 押し出されていたのは、私たちの魂の、どこかの、何か。


 押し出されていく場所は、世によって違っても、押し出される、という動作の枠は、世を跨いで、同じ枠だった。


 その枠の中で、私と、彼の、毎世の死は、ひと続きの動作の、ひとつの拍として、機能していた。


   *   *   *


 三層の絵が、ゆっくり、薄くなっていった。


 薄くなっていく絵の中央で、共通の三つの言葉と、移す、という動作だけが、青さの上に、長く、残った。


 残った動作の中央で、一万回の累積の、いちばん古い記憶の影が、薄く、揺らいだ。


 揺らぎは、契約の前の、ひとつだけの生の、薄い設計図の影の上に、降りていった。


「——白銀の薄荷の、痣」


 私の喉の奥の応えが、揺らぎの輪郭の中央に、低く、立ち上がった。


「——これは——出力の、口だ」


 出力、という単語は、私の側の累積の観測者語彙の海から、選び取られた。


 選び取られた単語の重みは、三層の絵の共通の動作と、寸分違わずに、揃った。


「——契約が、私たちの魂の、何かを、別の場所に、押し出すための——口」


 彼の応えが、私の応えの重みの上に、揃った位相で、続いた。


「——伝承が、肩の上の葉の形を、別の名前で、呼んでいた」


 彼は、その呼び方を、最後まで、口に、出さなかった。


 出さない代わりに、彼の意識の手が、いちばん古い層の絵の中央——巫女の肩の上の葉の形の上に——もう一度、置かれた。


 置かれた手の下で、巫女の肩の上の葉の主筋の角度は、私の薄荷の痣の主筋の角度と、寸分違わずに、揃っていた。


 揃った主筋の下で、彼の応えが、低く、続いた。


「——その呼び方は、装置に、付けられた、外側の、名前だ」


 装置、という単語の重みの下で、私の累積の中央の、いちばん深い場所が、ゆっくり、降りた。


 降りた場所の下に、私と彼の、毎世の死が、ひと続きの動作の枠の上で、薄く、保たれていた。


   *   *   *


 三層の絵の、最後の重なりの中で、私の累積の中央の、いちばん深い場所が、もう一度、揺らいだ。


 揺らぎの輪郭は、私の薄荷の痣の上に、薄く、降りていった。


 降りていった重みの下で、私の意識の手が、薄荷の痣の上に、ゆっくり、置かれた。


 置かれた手の下で、痣は、いつもの熱のかたちを、保っていた。


 保っていた熱の中央で、何かが、薄く、揺れていた。


 揺れは、私の意識の中の、どの設計図の上にも、まだ、書かれていない、別の何かだった。

 書かれていなかった何かは、痣の熱の縁から、ゆっくり、外の方角に、滲んでいた。


 滲んでいく中で、薄荷の痣の熱は、いつもの縁から、外の方角に、伸びようとしていた。


「——私の中の、何かが」


 私の喉の奥の応えが、低く、立ち上がった。


「——外に、出ていきたがっている」


 出ていく、という動詞の重みが、三層の絵の最後の動詞——海に還す——と、薄く、揃った。


 揃った重みの下で、私の意識の手は、薄荷の痣の上から、動かなかった。


 動かない手の下で、痣の熱の中央の、外に出ていきたがっている何かは、ゆっくり、保たれていた。


 保たれていた中で、彼の重みは、私の方角に、もう一度、寄ってきた。


 寄ってきた重みは、三層の絵の、共通の動作の中央で、薄く、揺らいだ。


 揺らぎの中で——私たちは、毎世、何かを、納め続けてきた——その一筋だけが、青さの上に、長く、保たれていた。

 白銀の薄荷――これは、出力の、口だった。

 『——私の中の、何かが、外に、出ていきたがっている』

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