乗り物トライアングル
俺は、ゴーレムに乗っていた。
「これ手綱どこ!?うわまじか、背中のこぶ!?握りづらっ!待って、勝手に進まないで!」
特に操縦している訳でもないのに、ゴーレムは勝手に突進していく。草をかき分け―—【蒼】の世界樹のもとへ。
右、左と足を出すごとに体が激しく揺れる。
乗り心地どうにかならないのか。さっきから岩の隆起で尻が裂けそう。
「しっ、シデ!?あなたどうしてゴーレムに乗っているんですかー!?穴に落っこちたのでは!?」
「かくかくしかじかで骨で空を飛んできたー!」
「遂に頭がおかしく……?」
遂にとはなんだ、と思うが、今はそれどころではない。
目の前には余裕たっぷりの態度で佇む【蒼】がいるからだ。
「くらえっ、先手必勝!」
背中のこぶを強く押す。
すると、ゴーレムは後ろ手に持っていた斧を振りかぶり、世界樹へ叩きつけた。
見事な強襲が決まる。
「しゃっ!見たか世界樹、カタナに『神木封じ』を握らせられないのならゴーレムに握らせよう作戦!これで謎に弾かれた俺でも使えるんだ!はっはー、参ったか……あ」
しかし、本当に失念していた。
【翠】の世界樹サマの補助輪がなければ、自分の操作技術は下の下だということに。
……確かに照準は合わせていたはずだった。
なのに、斧はちょうど世界樹の真横に突き刺さっていた。
しかも抜けない。
どうしましょう。
「あはは……ちょっとタンマ。もう一回登場からやり直させて……?」
「『氷枝』」
「あーっゴーレムが!」
ゴーレムの腕が、『神木封じ』ごと凍てつく。地面に手を突っ込んだ姿勢のまま固まってしまった。
俺はバランスを崩し、滑り落ちる。すってんころりん、【蒼】の世界樹の御前へ。
【蒼】は冷酷に語りかけてくる。
「我を『神木封じ』で斬ろうとするとはな。誰からもらった?まさか、骨人形師か?」
「だったらなんだってんだ!どうせ言っても言わなくても凍結ルートでしょ!?」
無理に強がりながら、俺は後退る。
【蒼】が袴の袖を翻し、一歩踏み出してきたその時——
割って入ったのは、サーラだった。
「いつも通りのシデで安心しました!シデに攻撃するなんて、私が許しませんよ、【蒼】!」
「サーラ……!」
シスターの後ろ姿は何よりも頼もしい。
感動の眼差しで見上げる。少しカッコ悪い構図だけれど、これがデフォルトなのだから仕方ない。
「わーいシデが帰ってきたー!サーラもはりきってるぞー!……でも、この姉ちゃんはどうして気絶してんだ?ヴェルティア知ってるか?」
「コレネ、知ってはいけない秘密もあるのよ。野暮な詮索はよしましょう」
「変な勘違いが生まれてるぅ!?こいつ一応敵だから!あ、足折れてるから手当はしてあげて!」
「そうか、カタナを倒したのか……。しかし、敵に情けをかけるなんて、甘い」
【蒼】の世界樹は、繰り返す。
「ツメが甘いな」
発散された圧に、思わずたじろぐ。
呑まれそう―—そう感じた瞬間。
「っ!?」
腕を覆うように生えてきたのは、氷の棘。
霜焼けのような痛みが内から湧き上がってくる。
覚えがある。この技は。
「『氷茨』……っ、だっけか!精神攻撃じゃなかったのかよ!」
「何を勝手に思い込んでいる。我の『氷茨』は時間差攻撃。体内に根を張り、徐々に蝕んでいく技。そして、再び茨が芽生えた時には……もう手遅れだ」
棘が、肘、二の腕、肩、と広がっていく。
芯から凍っていく感覚。
えげつない、よりも先に、怖い、と思った。
「シデっ、シデ!?しっかり!ヴェルティア、『妖精の粉』を!」
「発動しているけど、追い付かないわ!どうしよう、このままじゃ……!」
「我の術はそう簡単に解けるものではない。
【翠】によって『神木弾き』が施されているようだが、命ごと凍結し
てしまえば問題ない」
命を奪えないなら、凍結保存、ということか。
体中から棘が生えた、ウニみたいな見た目で?
冗談じゃない。
俺は、遠くの、氷の籠に囚われた【翠】の世界樹を見据える。
信心なんて全くないし、神木を壊した身ではあるけれど、願わずにはいられなかった。
―—世界樹、なんとかしてくれよ。
世界樹は、沈黙している。起きているのか、眠っているのかも分からない。
―—あんたなら、お茶の子さいさいでしょ。
信心なんてない。けれど、サーラは言っていた。信仰と信頼は違うと。
俺が世界樹ライダーとして【翠】に寄せるのは、間違いなく信頼だ。
―—また、俺と一緒に空を飛ぼうよ。
どんな柵からも抜け出して、自由に飛ぼう。
そう、願った時だった。
狭窄する視界の端で、閃光が瞬いた。
同時に、冷え切っていた体が、熱を帯びる。
「あ……」
翠の、陽だまりの中にいる。
瞼をゆっくりと上げ、やや遅れて気付く。
「は?我の氷が……」
いつの間にか、霜焼けのような痛みは消え失せていた。
氷の棘も、きれいさっぱり溶けている。
俺は目を見開く。
「あれ……?生きてる?」
「う、うそ」
サーラが呆然と呟く。
「この光は、世界樹の、加護……?」
「はぁーっ!?シデ、それってあれだぞ!?世界樹様に認められた人間しかもらえないっ、超超超やばいご褒美一生の誉れ!」
「そうなの?」
きょとんとする俺に向けて、コレネがまくし立てる。どうやら俺は世界樹の凄い技によって蘇生させられたらしい。
「『神木弾き』だけではなく加護まで……。何故だ、何故、【翠】はそこまでこの少年を……」
「おお、体が軽い。さすが世界樹だなぁ」
狼狽する【蒼】の世界樹。
俺は笑みを浮かべ、宣言する。
「さ、返してもらうよ、【翠】を」
ドラゴンの飛翔音が近づいてくる。
かくして、総力戦の火蓋が切られた。
読んでいただきありがとうございます。
補足:世界樹の攻撃手段 第一弾 【蒼】編
・『氷枝』
基本的な技。鼻をほじりながらでもできる。ペンライトを鼻にぶっさしながらでもできる。即座に凍結できるため、面倒くさい相手にはこれ。
・『氷茨』
時限爆弾的な技。余程ムカついた時か完全に凍らせたい時にしか使わない。タイパは悪い。
・『千年凍歌』
体内の水分を消費する大技。災害レベルの花粉爆弾。
・『神木封じ』
世界樹全員に備わっている。仲間の世界樹が暴走した時のためのストッパー。発動条件が厄介。




