ドラゴンは世界樹に勝てますか?
総力戦。
その始まりは、ラヲゼさんがドラゴンと共に飛来してきたことだった。
「シデ!皆!無事か、遅れた!」
二対の透明な翼と、一対の赤い翼が折り重なって生えたドラゴンだった。
少し昆虫味があり、俺のドラゴンポリシーには反するが……
「これが一番強いってドラゴン!?」
「ン、そうだよ!スピード性と強靭さを兼ね備えた僕の相棒……『カゲロウ』!」
「やっぱ昆虫じゃんー!?」
そこで、カゲロウの姿がかき消えた。
いや、【蒼】の世界樹へ突進したのだ。
氷が砕ける轟音が響く。一瞬の出来事。通り道は深くえぐれ、土埃が大量に舞う。
「くっ……なんだ貴様は。名乗りもなしに……」
「名乗ってなんかいられるか!暴虐非道な【蒼】の世界樹を倒すには!」
砂煙が晴れた先には、氷壁を背に呻く【蒼】の世界樹と、カゲロウ。
乗手のラヲゼさんは四本腕を駆使し、高速手綱さばきを披露する。
何がどうなっているのか、目で追うことができない。
これが一流ドラゴンライダー……俺にできるかな。
「カゲロウはドラゴンの中でもトップスピードですよね。それをあんなに正確に……」
「そう、ラヲゼはすごいのよ!カゲロウをいなせるのは、ラヲゼの他にはいないわ!毎日スライム叩きで鍛えていたもの!努力家なの!」
「スライム叩きって……前から思ってたけど、変な特訓方法多くない?」
もしかしたら、ドラゴンライダーとは全てをこなせてナンボなのかもしれない……と、俺が悟りを開きかけていると、
「やるな。が、カゲロウの種はブレスを噴けないだろう。我がそうしたからな。
貴様は、脅威たりえない。——『氷枝』」
体当たりをされ、地面に押さえ込まれながら、【蒼】は唱えた。
同時に、前脚を伝って、カゲロウが凍り付いていく。
「ピキャアアアアアア!」
咆哮が上がる。…意外と可愛いらしい鳴き声だ。
どんなドラゴンでも、【蒼】には敵わない。せめて、炎のブレスがあれば。
カゲロウが氷塊に封じ込められていく。
しかし、ラヲゼさんはにやりと微笑む。
まるで、悪だくらみが成功した子供のように。
「今だ!噴け!」
氷が内側から解ける。
そして―—勢いよく、炎のブレスが放たれた。
「なっ、なぜ、炎を持っている!?」
【蒼】は動揺したせいで攻撃を躱せず、正面から直撃する。燃え盛る炎に、巻き込まれていく。
氷に木。
よく解け、よく燃える。炎が天敵最弱コンビ。
いくら世界樹といえど、木炭になることは必至——
「ごほ…っ、氷、枝……」
が。
ブレスがやんだ後、そこには氷で作られた籠があった。半分解けかけた籠の中から出てきたのは、
無傷の、世界樹。
火傷ひとつもない。
顔面から氷の仮面が剥がれ落ちる。なるほど、あれで防御したのか。
「なんでもアリじゃん!炎で解けない氷って何!?反則だ反則!」
「反則なのは貴様らだろう。この国のカゲロウは、我が全て喉を凍結させたはずだ。ブレスなんて噴けるはずが……」
「ン、このカゲロウは、僕が赤ちゃんから育てた個体だよ」
ラヲゼさんはカゲロウの頭を撫でる。すると、カゲロウは嬉しそうに飼い主にすりよった。
「ドラゴンを……育てるだと?何をやっている。我の支配から外れたものを生み出すなど……」
「支配……支配は、楽しいか?」
そこで、ラヲゼさんは静かな怒りを纏う。
「君は、危険なドラゴンも安全なドラゴンも、敵対的なドラゴンも、友好的なドラゴンも、全て等しく弾圧した。他の種族もそうだ。翼をもがれたドラゴンが、どんなに苦しんでいるか、分かるか?瞳から光を失った人々の顔を、ちゃんと見たことはあるか!」
普段の様子からは想像できない、すさまじい剣幕だった。
【蒼】の世界樹は一瞬たじろぎ、それから瞑目する。きっと、彼なりに思うところが
「抑圧されていた者たちが牙を剥く、か。くく……推せるな」
……救いようのないオタクだった。
「シデ!私は援護しに行ってきます!タラはひ弱なんですからそこでゴーレムのシミの数でも数えていてください!」
「酷い!」
サーラは再び鎌を呼び寄せ、ラヲゼさんと【蒼】のもとへ向かっていく。ブレスで木々が消し飛ばされ、焼け野原になった場所へと。
「シデ―、あたしが翻訳してやる。サーラは『貴方にケガされたら困るから引っ込んでいてください』って言ってるんだ」
「……!そうか!世界樹ライダーの務めを果たせってことか!」
「ちが……おいサーラ、全く伝わってないぞー」
俺はゴーレムの背に飛び乗る。
岩の出っ張りを握り、いざ発進……と意気込んだはいいものの。腕と神木封じが凍てついているのを思い出した。
「これじゃ戦えない……ど、どうしたらいいんだろう?」
「ごめんなさい、もう『妖精の粉』が残っていない……これじゃ、全部氷を解除できない……」
それじゃ、詰み?
ラヲゼさんも、サーラも確かに強い。でも、世界樹はそもそも、最強ランキングからはかけ離れた位置にいる。最強をしのぐ、伝説級。
だから、切り札が必要なのに。
「せめて、この氷さえ―—」
と、その時だった。
「あたしがやる」
片足を引きずりながら、カタナが歩み出てきた。
「やるって……へ?」
「あたしが氷をささがきにする」
おかっぱ頭をぼさぼさにし、今にも消えそうな声で、カタナは宣言した。
「え、だってあんたは敵で」
「うん。【翠】の世界樹は取り戻したい。でも、それだけじゃない……。【蒼】の世界樹のせいで苦しんでいる人がいるなら、あたしは【蒼】に従ってていいのかなって、思ったから……」
カタナは、俺の制止も聞かず、折れた方の足を支えに、もう片方の足を上げる。
「氷……解除してみて……」
「え、ええ……」
光の粒子が降る。カタナは、汗を滲ませながら、淡々と言う。
「これ、一回こっきりだから……」
「本当に、いいのか?俺は助かるけど……」
「いい」
カタナは目を細め、綺麗な笑みをこぼした。俺ははっとする。
「貴方には、借りが、あるから」
そして、一人の剣は、氷を粉砕した。
読んでいただきありがとうございます。
どうでもいいですが、カゲロウは陽炎と蜻蛉をかけております。
コレネが恋愛マスターのような振る舞いをしていますが、きっと修道院の先輩たちから聞いた話をもとにしているのでしょう。やつは三度の飯より戦闘と恋バナが好きです。




