そして神木封じ
「おや、来客だね」
骸骨竜の背に胡坐をかく美女は、そう言った。
「は、はい……?」
骨だらけの穴の中で、その女性は明らかに異質だった。さっきまで俺たちを食おうとしていた竜たちが、揃って頭を垂れている。
俺は背中のカタナ共々ぽかんとする。
「うちの子たちが迷惑をかけたみたいですまないね。何せ、家に人が来るなんて数十年ぶりだから」
「数十年!?お姉さん何歳!?やっぱあんたも骨なんじゃ――」
「女性に歳を聞くなんて失礼だね。私はたかだか三世紀しか生きていないよ」
「へぶっ」
脳天にチョップを食らい、地面にめり込む。り、理不尽……。
「貴方、危害を加えるつもりなら、みじん切り」
「おお、片足が折れている状態で無理するんじゃないよ。
私は見ての通り『骨人形師』。死体の骨を操る希少種族だよ」
「『骨人形師』?聞き覚えがない。紙人形師なら聞いたことあるけど」
「あ、そうか。知らないのは当たり前だね。現存するのは私一人だから」
「!?」
カタナは息を呑み、後退る。
しかし片足ではバランスが取れず、俺の腰に尻餅をついた。何だろう、この仕打ち。
「それで、あんたたちはどうしてここに来たんだい?二人はどういう関係で?」
「暴れ馬とその尻に敷かれるかわいそうな少年」
「世界樹を盗んだ罪人と正義の武人」
「ほほう、なるほどね」
何に納得したのか、女性は頷き、それから骸骨竜にサインを送る。
すると、竜は俺たちをくわえ、ひょいと持ち上げた。
「尖った歯!当たってる当たってる!超痛いんだけど!?俺たちをどうするつもりだよ!?」
「ん?応接室に連れて行こうと思ってね」
骨と骨に挟まれ暴れる俺に向かって、女性は笑いかける。
「お茶でも飲むかい?」
「はい、骨出し紅茶」
「すごく不味そう!」
目の前に置かれたカップからは悪臭がしている。これは絶対に飲んじゃいけないやつだ、と灰色の煙を見て確信する。
そこは土の中に丸くくりぬかれた隠れ家だった。
真ん中に小さなテーブルと戸棚があるだけの手狭な空間。
天井からは植物の蔓や花が垂れ下がっている。それらは全て蒼い。
「シデ、この紅茶とてもおいしい」
「そう言って、俺の腹を壊す気でしょ。胃が強靭な武人サマと違ってこっちはひ弱なんだよ。
ああ、早く世界樹のところに戻らないと……」
「世界樹のもとへは行かせない。はいお茶」
「やめて実力行使に出ないで!」
俺はカタナと取っ組み合いを始める。その様子に、茶をすする女性は優しい声音で、
「仲が良いようだね」
「「どこが!」」
「世界樹、と言っていたね、どの色のだい?」
「うーんと、【翠】だっけ」
「こら、それは守秘義務……」
「別に大丈夫だよ。私、世界樹……【蒼】のやつとは会ったことがあるからね」
「「へえっ?」」
動きを止める俺とカタナ。更に爆弾が投下される。
「というか、恋人同士だった」
「「はあああああああっ!?」」
あの根暗そうで性格がねじくれている【蒼】の世界樹と!?
「嘘でしょ!?てか世界樹って付き合えんの!?」
「し、神聖な世界樹と、つ、つき、つきあ……ぶくぶくぶく」
カタナには刺激が強すぎだようだ。
泡を吹いて気絶するカタナを尻目に、俺は女性に詰め寄る。
「絶対騙されてるよ!だって初手で精神攻撃を仕掛けてくるようなやつだよ!?きっつい圧政してるとも聞くし!」
「はは、あいつ嫌われてるね。昔は本当に良い男だったんだよ。国を治めるようになってから変わった」
女性はどこか遠い目をして、自身の巻き毛をいじくる。それから小さく嘆息し、
「大きすぎる力を持つと変わってしまうのかね。あいつは他人も、自分も省みなくなった。
冷酷に、冷徹に秩序を追い求めるようになってしまった。
今のあいつは人もモンスターも狭い箱に押し込めているだけさ」
アンニュイな表情でそう語る、『骨人形師』の女性。なんだか壊してはいけない空気を感じて、俺はおずおずと尋ねる。
「じゃあ、さ。あんたはどうしてここに?」
「私は骨を操る種族だからね。モンスターの死体がないと生きられない。ここら辺はドラゴンライダーが住んでいるからね、ドラゴンの死体が手に入ると思って」
「ドラゴンライダー……そうか、ラヲゼさんたち!」
ようやく合点がいった。
つまり、この女性もラヲゼさんたちと同じように、【蒼】の世界樹の統治から逃れるためここに流れ着いたという訳か。
……思ったより複雑だ。元カノと元カレが敵対しているなんて……。
顔を引きつらせる俺に、女性はあっけらかんと言う。
「しっかし、世界樹なんて言うからさ。あんたたちが【蒼】に会ったのかと思いきや、【翠】だなんて」
「あ、俺会ったよ。今【蒼】に【翠】が盗られかけてる」
「……なんだって?」
その後、ひっくり返っているカタナを他所に、俺が事情を説明すると。
「……そうかい。【蒼】はまた良からぬことをしようとしているんだね。あんたも大変だね。こんな地方のいざこざに巻き込まれるなんて」
「やっと分かってくれる人が!そうなんだよ、大変なんだよ!この地方の人の方がもっと大変そうだけど!」
「……うん、やっとチャンスが来たようだ」
女性が戸棚から取り出したのは、長い桐箱。
ゾッとするような圧を放つそれは。
「これは、私が長い年月をかけて作り出した魔道具――
『神木封じ』の効果を持つものだ」
世界樹を、ただの人にする魔法。
読んでいただきありがとうございます。
色々伏線をより合わせた回になります。
早々に神木封じされた紫姐さんを、出オチキャラにしないために試行錯誤しました。その結果がこれです。君の犠牲は無駄にしない、紫姐さん……!




