仲間の在り方
【黒】の世界樹やら、魔物の争乱やら、【白】の世界樹やら。
俺の頭を破裂させるような情報ばかりで嫌になる。
こちとら脳の容量がクリオネの腸並みに小さいんだぞ。そこんとこ分かっているのか、と世界を収める重鎮たちにケンカを売りたくなる。
『巌腕の洞窟』から無事脱出してから日付は変わり、今は昼下がり。
俺は窓の外に置かれているゴーレムを眺めながら茶をすする。
「あー、今日も良い陽気……」
と呟いたところで、サーラが机を叩いて立ち上がった。
「何も良くないです。誤魔化そうとしても無駄ですよ。あなた、洞窟で謎の穴に落下したんですって?」
「くそっ、話を流すことはできなかったか……。俺今眠いんだよ、後にしてよー」
「はあ、帰って来るなり丸一日も熟睡してその言い分ですか。私が目を覚ましてあげましょうか?」
「やめて、武力行使はやめて。本当に死んじまうから……」
サーラは整った柳眉を吊り上げて言う。これはどう弁解しても駄目そうだ。
「あたしも何があったか知りたい―。助けに行こうとしたらいきなり穴から飛び出してきたんだもなー」
「私も見てみたかったわ!魔法でも持っていたの?」
「いやあれは根で……ゴホンゴホン」
興味津々といった様子のコレネとヴェルティアに、うっかり自白させられそうになった。危ない危ない。
俺は平静を装って茶をすすり続ける。
「あれはたまたま脱出できただけだよ。えっと……日頃の行いがいいというか」
「……日頃の行いが良いなら、そう何度も世界樹に遭遇するもんですかね」
「ごぶっ!?」
思わず茶を吹き出してしまった。正面に座るラヲゼさんはお盆でガードしている。
「あー、やっぱり世界樹様に会ったんですね。何色ですか?もしかして……【黒】?」
「怖いっ、何で分かんの!?死神の勘!?」
「あなた、死の匂いがぷんぷんするんですよ。具体的には、何度も壊されて、治された痕跡が……」
そして、サーラは俺の頭を優しく叩いた。労わるように柔らかい手つきで、さっきとは打って変わって眉を下げながら。
「大丈夫ですか?辛かったでしょう」
「んー、超痛かったけど、寝たら忘れた。別にオモチャにされるくらい慣れてるって」
「慣れ……昔にも、あったのですか」
「あぁ、戦士の奴らにダルマ落としにされたくらい?魔物の死骸にサンドウィッチにされちまって。
あれは死ぬかと思ったなぁ。ハンマーで叩かれそうになった時は焦った」
「あなた、結構壮絶な人生を送っているんですね……」
サーラの手が徐々に頭の天辺から下りていく。俺の伸び放題の銀髪越しに、頬に触れる。
雪のように白く、それでいて温かい手。
「全部、一人で背負わないでください。貴方はまだまだ未熟なんですよ?世界樹に乗っているといっても」
「いや、俺は別に……」
「あなたは、過去のことを引きずっているんじゃないですか?」
その言葉にはっと胸を突かれる。サーラは澄んだ瞳で見つめてくる。
「大きな失敗をしてしまったから、もう誰かを巻き込みたくない、そう思っていませんか」
サーラに神木を壊したことを話したことはあっただろうか。なかったような気がする。
それでも、死神は全てを見透かしている。
俺は、ドラゴンに乗ろうと努力しても空回りするばかりで、挙句の果てに村の皆に迷惑をかけた身だ。
だから、もうサーラ達を巻き込むわけにはいかなかった。
また大失敗をして、世界樹の企みを阻止できなかったら?
凶暴化した魔物が溢れる世界になったら?
俺は別に、自分のしでかしたことで自滅したっていい。
けれど、サーラ達は?
彼女たちはきっと、世界樹という存在に魅せられてついてきているだけなんだ。
俺に付き合う道理なんて—―
「シデ」
その時、サーラは確かに、俺の名を呼んだ。
「私は、世界樹教のシスターです。信仰の対象は、世界樹のみ。しかし、信仰と信頼は違う。
私が何よりも信頼を寄せているのは、貴方です」
—―信頼。
それは、今までの人生で、一度だって聞いたことのなかったもの。
「あなたが失敗をしたところで、私の信心は揺るぎません」
サーラは綺麗な微笑を向けた。
頬に置かれた指先から鼓動が伝わってくる。
俺が、呆然としたまま口を開こうとした瞬間—―
「よし、サーラいけー!そのまま押し倒せー!」
「コレネうるさいッ!空気読みなさいよ、もうっ!」
「わははー、真っ赤だぞサーラ」
「……ん?」
元気が有り余るコレネの介入があった。
途端にかまびすしくなる二人に目をぱちくりさせていると、
「……ン、てな訳で僕たちは君の見方だよ、シデ。僕も君には本当に感謝している」
「私もよ!ラヲゼの恩人は私の恩人でもあるもの!」
ラヲゼさんとヴェルティアはそう笑いかけてくれた。
何だか妙にこそばゆくなって、俺は破顔する。
大丈夫。
何回失敗してもいいんだ。
そんな些細なことでは損なわれない大切な人達が、今の俺にはいる。
その頃。
ドラゴンライダーが住まう森に踏み入る、二つの人影があった。
「ここで間違いないだろう」
「本当?ここに、【翠】の世界樹がいる?あの少年も?」
「同族の匂いだぞ。間違えるはずもない」
端的に言葉を交わす青年と少女は、森の中を駆けていく。
「……あの少年。今度こそ、ささがき」
読んでいただきありがとうございます。
シデを取り巻く人々の思いというのを描写した回になります。
補足ですが、
ゴーレムは魔法でプログラムを組まれていて、プログラムを上書きする技術を持っていれば誰でもいじくれます。まぁ、生け捕りにするまでが大変なんですけどね。




