十人十色 前編
洞窟で体験したことを仲間たちに事細かに話した後。
サーラはふと小首を傾げて、
「ふーん……シデって世界樹に気にかけられているんですね」
「気にかけられてるんじゃないよ!目ぇ付けられてるんだよ!」
思わずツッコむと、ラヲゼさん、ヴェルティア、コレネは三者三様に次々と口を開く。。
「ン、【黒】か……噂じゃ東に魔物が溢れかえるようになったのはその世界樹のせいだろう?」
「超大物ね……B級迷宮にいるのはおかしいくらいの」
「分かったぞー!やっぱりその世界樹とシデは運命の糸で繋がっているんだ!」
「やだよそんなん!でも、どうしてドンピシャで『巌腕の洞窟』にいたんだろうな」
「シデ、あなた、気付きませんか?」
「いやいや、【黒】の世界樹が俺を追いかけてやって来たとかそんなオチはいらないよ?」
「違います、そちらではありません」
にべもなく断言され、俺は硬直する。サーラは珍しく真剣な表情をしていた。
「……この気配、やばいです。明確な、死の匂い……」
さっきまでの空気が一変し、「ドラゴン亭」の中は緊張感で満たされる。
そして、次の瞬間。
—―はっきりと、世界樹の絶叫が耳に届いた。
室内を見渡す。
だが、皆が気付いた様子はない。
俺にしか聞こえない、世界樹の泣き叫ぶ声。
慌てて、外に繋がる扉へと駆け寄り、なりふり構わず蹴破る。
それから、目に飛び込んできたのは。
「世界樹!?」
氷の細枝が作る籠に囚われた、一人の世界樹の姿だった。
誰が。いつ。どうやって。—―なぜ。
様々な問いが頭を駆け巡る。イタズラにしたって、タチが凶悪すぎる。世界樹は薄氷に覆われたまま、ピクリともしない。
弾かれたように、走り出す。
—―何か、世界樹が抗えないほどの何かが起きている。
氷の籠の中の世界樹に、必死に手を伸ばす。
が。
「うひゃっ!?」
突然、頭に強い衝撃がした。そのまま地面に叩きつけられる。
「ささがきにしようと思ったけど、しぶとい」
その声には、聞き覚えがあった。
激痛に悶えながら、おそるおそる見上げる。
「……カタナ?」
迷宮で初めて出会い、その後、世界樹を巡り教会で衝突した少女、カタナ。
目の前にいる理由より、真っ先に気になったのは少女が両足に纏うものだった。カタナの脚は、まるで氷柱のように氷塊に覆われていた。
「なんだその足。イメチェンしたのか」
「貴方、自分の立場分かっている?今から、あたしに斬られるのに」
「ふーん。そういえば元気にしてた?あの時はごめん」
「……私のこと舐めてる?あとっ、あの時のことは蒸し返さないで!」
そこで、顔を真っ赤にしたカタナに怒鳴られた。
前回の彼女の倒し方が、武人のプライドを傷つけるほどあまりにもあんまりなものだったからだろう。
「こほん。それで、貴方には世界樹を差し出してもらう。あたしのこの氷武装は、【蒼】の世界樹のもの」
「【蒼】の世界樹ぅ?」
俺が素っ頓狂な声を上げると、カタナの背後から青年が歩み出て来た。
蒼色の髪。
蒼色の瞳。
蒼色の袴。
「初めまして、【翠】に認められた少年」
……形容しがたい陰のオーラが滲み出ていることは置いといて。
【黒】と対面した時にも感じた、この心臓を握り潰されるような感覚。
凍てつくような鋭い眼差しをした青年からは、人ではない気配がする。
間違いない。
こいつは、正真正銘、【蒼】の世界樹だ。
【蒼】は、小さく口ずさむ。
「—―氷茨」
同時に。
俺の腕、肘から先に、氷の刺が生えた。
「ゔ、あ……?」
血は流れない。ただ、霜焼けのような感覚が纏わりついているだけ。
それが、何より気持ち悪い。
悲鳴を上げて、腕を掻きむしる。氷を取れない。全身が粟立つ。
「【翠】は貰っていく。元々きさまには不相応な代物だろう」
【蒼】の世界樹は背を向けて、【翠】へと近づいていく。やめろ、触るな。
世界樹に乗っていいのは、俺だけなのに。
涙が零れ落ちようとした、その時だった。
「そこどけ、根暗ヤロー!」
視界をよぎったのは、巨大なナックル。
【蒼】との距離を一瞬で詰めたそれは、轟音と共に叩きこまれた。
ナックルを振るうのは、小柄な茶髪の少女。
シスターの仮面をかなぐり捨てた狂戦士だった。
「無事ですか、シデ!」
コレネに加え、サーラ達三人も駆けつけて来た。
「すみません、遅れてしまいました。シデが出て行ったあと、扉が氷の壁に塞がれてしまいまして」
サーラが指差す先には、小屋の入り口を塞ぐ氷の壁があった。いつの間に。
「本当にすみません、あなたにけがを負わせてしまい。この償いは結果で返させていただきます」
すると、サーラの爪が黒く染まっていく。艶やかな白髪が真っ黒な襤褸へと変わっていく。
「ここからは、死神サーラちゃんです」
読んでいただきありがとうございます。
そろそろ【蒼】の世界樹編の終わりが見えてきた……!長かった……!
とは言いますが、世界樹同士の衝突はまだまだ続きます。




