【?】との邂逅
週一更新でのんびり頑張っていこうと思います。
時間が作れたら、もっと更新していくかもしれません。
ラヲゼさんが言う、俺にやってほしいこと。
それはごく単純なものであり……悲しいことに、「俺にとっては」簡単なことだった。
「準備はいいか?」
ラヲゼさんは、腕を手綱に変えながら見やってくる。俺は大きく頷いた。
ただ、さっきから足の震えが止まらない。武者震いだたぶん!
「3,2,1,……」
眼前のゴーレムを見据える。手綱が俺の胴体に巻き付く。息を吸う。
「いつも通りやるだけでいいんだ。いつも通り、な!」
返事代わりに、手綱を握り返す。
ラヲゼさんが号令をかける。
「0!」
発射。
手綱が大きくたゆみ—―その反動で、俺は勢いよく宙に放り出された。
丸腰で、ロックゴーレムへと真っ直ぐ突っ込んでいく。
「まっ……!これ、ゴーレムにごっつんこしちまうッ!」
黒い岩肌が急速に迫ってくる。あ、ぶつかる。走馬灯が頭を駆け巡る。
そこで。
「シデ!岩につかまるんだよー!」
コレネの声に、はっと目を見開く。眼前には、ゴーレムの硬く丸まった背中。
「くっそ、ヤケクソだぁあ!!」
前転をする時の姿勢で、背中を曲げてゴーレムの背に取りつく。まるで抱え込むかのように、しがみつく。岩を掴む両腕に凄まじい圧がかかる。
腕が千切れそう。あとこのゴーレム臭いな!
「よくやった、ここからが本番だ!」
胴に絡みついていた手綱が解けていく。それから、自由になった手綱は円を描き、ゴーレムの首の周りを一周する。
そうして、ゴーレムに文字通り「手綱」が巻き付けられた。
俺は体勢を整え、高らかに宣言する。
「世界樹ライダーの本分見せてやる!」
ラヲゼさんが頼んだこと。それは。
ゴーレムの調教。
『ゴアアアアアアアアッ!』
狭い洞窟内で、ゴーレムは身をよじって暴れる。大量の砂埃が立つ。俺は、振り落とされないよう必死に両足でホールドする。そして、思いっ切り、手綱を引く。
ゴーレムは更にもがく。尖った岩が頬を切り裂く。躾のなってないゴーレム。
普通のライダーなら、ここで上手く操り、手懐けようとするんだろう。
普通なら。
ドラゴンライダーの素質が全くなく、運転ミスで神木と衝突事故を起こすような輩じゃなければ。
「よし、ゴーレム!自壊しよう!」
俺としては、いつも通り操縦しているつもりだ。
だが、ゴーレムはしっちゃかめっちゃかな方向に暴れまくる。自ら壁や床に激突していく。
轟音が絶え間なく鳴り響く。
「な、ラヲゼ―、あれどうなってんだ?すごいのか?」
「いや、すごいどころじゃない……あれは神業だよ。ゴーレムの自己防衛機能を突破するほどの技術がないと成り立たない……」
凄く真剣に実況してもらっているが……すべては俺の操作技術のなさが招くこと。
そう。要は、操縦が下手過ぎてうっかりゴーレム傷つけちゃいましたーみたいな。
「普段の俺はハイスぺ世界樹様に下駄を履かせてもらっているだけ……!本来の俺に倒れ伏しちまえ!」
がっはっはっと悪魔じみた呵々大笑を上げる。ゴーレムが洞窟に頭部をぶつける鈍い音が反響する。
俺は、そのまま我を忘れて、ゴーレムと共に洞窟の奥深くへと進んでいく。
「ま、待ってくれシデ!肩が脱臼する!」
そういえばこの手綱、ラヲゼさんの腕だった。
衝突。再起。転倒。再起。
そのセットを何度も繰り返していたら、いつの間にか洞窟の最深部に来ていた。
不思議なことに、慣れると硬い岩でも座り心地がいいものだ。
真っ黒なゴーレムの威圧感の影響か、他の魔物の姿は全くない。
「シデ、仕上げ!」
ラヲゼさんは、息を切らしながらそう叫ぶ。俺は正気に返り、肩を揺り動かす。
「コレネ!」
「お安い御用だ!」
合図と共に、コレネが壁から突き出した大岩を叩く。衝撃に洞窟内が激しく揺れる。
見ると、壁にはぽっかりと大きな穴が空いていた。
今だとばかりに手綱を大きく引く。
「お前専用の岩屋だよ、ゴーレム!」
ゴーレムは前のめりになりながら、一直線に突き進んでいく。壁にできた凹みへと。
そして—―ジャストフィット。
頭から、穴にすっぽりと収まった。
あとはもう魚のように手足を振ることしかできない。完封。
「っしゃ!」
ゴーレムの背中からすんでのところで飛び降りた俺は、ガッツポーズを取る。ゴーレムを生け捕りにできたという達成感で、思わず小躍りしたくなる。
—―しかし、それがよくなかった。
「あ」
足元をおろそかにしていた、というのはしょうがないと思う。
だって誰も、大岩がせり出していた場所に縦穴があったなんて、予測できないだろう。
秘密の隠し通路……そんなギミックはB級迷宮にいらない!
「あああああああ!?」
「「シデ―!?」
足を滑らせ、穴に転がり落ちる。
綱を掴もうと手を伸ばす俺を嘲笑うかのように、視界が暗転していった。
「……うっ」
呻き声が散る。潰れた蛙のかな。いや、俺の声だ。
「い、生きてる……」
瞼を開けると、そこは全く見知らぬ不気味な場所だった。
丸い空間全体に、脈のようなものが張り巡らされており、淡く発光している。床は柔らかく、まるで生きているかのように温かい。何だか怖くなって手を離す。
立ち上がり、辺りを見回す。
すると、背後には。
「……蛹?」
それは、羽化する前の蝶が閉じ込められているかのような、白色の蛹だった。
心臓が跳ねる。後退る。なぜなら、途方もない魔力が、蛹からは滲み出ているからだ。
—―が、その時だった。
『人の子』
声がした。男か女か、人か魔物かも分からない、中性的な声が。
体が硬直する。瞬きすら、できない。
『キミは、変な気だ。育つ前の若木みたい。それでいて……あぁ、旧友の気配がする』
無機質で、冷たい声音だ。全身の神経が一斉に悲鳴を上げる。
「だ……っ、だ、れ?」
『世界樹に決まっている』
蛹の中の人物は、断言した。
『【黒】の』
読んでいただきありがとうございます。
アホと天才は表裏一体といいますか……欠点も突き詰めれば武器になる的な話です。
世界樹のアシスト走行がなければ、今頃シデは中央分離帯の破壊神になっていたでしょう。




