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空戦の天使



───文字通り雲(・)の(・)下(・)で二つは激突していた



「───」



片方は水色の髪を靡かせ、翼も加速器も無いというのに自由自在に空を飛翔する機械人形。

音速の壁すら易々と突き破り、水蒸気の爆発すら追いつけないスピードを持って空を駆け巡るスピードスター。




『ひゅぅーー! 盛り上がってきたねぇーーー!!!』



もう一つはある意味当然と言えば当然。

100年前の世界であれば、空を駈けれるものは鳥を除けばただ一つ。

浮かぶのでもなく、飛ぶのでもなく、空を駈けれる機体はただ一つ───戦闘機。

青色の塗装………も所々剝がれ、傷だらけの年寄りだが、未だ嘶くエンジンの音は溌剌のそれ。

空に残された唯一の蒼い天使は未だ現役。

雲の下で己が追いつけぬ物等、許さないという気焔を加速器からぶちまけて機械人形を追う。



───互いの動きは既に物理法則を超越していた



機械人形の方はいいだろう。

そもそもが翼も加速器も無いのに飛ぶという事自体が反則行為。

最初から反則している物が更に反則をしても、今更というもの。

秩序に属していない物が秩序を守る方が道理に則っていない。

だが、戦闘機の方は違う。

100年前に生み出された普通の機材と人間のパイロットによって動かされていた翼は最早、理屈を突っぱねていた。

音速を超えて飛ぶだけならまだしも、ふと唐突に直(・)角(・)に(・)曲(・)が(・)る(・)のなんて当然。

上下にもまるでカクついたからと言わんばかりに移動し、酷い時は急旋回しなくても進行方向を一瞬で後ろに向きを変え、発進する。

どの挙動を見ても、既存法則に喧嘩しか売っていない。

というよりもどの挙動も行えば、戦闘機自体か、もしくはパイロットが文字通り分(・)解(・)される挙動というのに戦闘は続行される。

既存法則ではあり得ぬ以上、異なる法則が既にパイロットと機体を侵しているのは自明の理であった。

既に100年前から既存法則は侵されていたが、ここに来て、無遠慮に法則を侵す2機に悲鳴を挙げる星をどちらも気にもせずに速度だけを上げる。




───その光景を地面にいる事しか許されない2本脚の2人組が睨む



人間では到達出来ないと嘆いた世界で速度と殺意を競い合う光景を見ている事しか出来ない茜とアマルは歯嚙みするしかない。

これが今の世界の常識(デフォルト)。

空を飛び、音を超え、既存法則を否定する異界法則を持って世界を否定する。



世界を壊したモノから贈られる世界を壊す祝福



壊される側である茜に、それをどうにかする事は何一つ出来ない。

飛翔するという言葉すらおこがましいあの戦闘機とパイロットに出会った時から───



※※※


雪道をメリッサを背負いながら歩きながら、茜は一息吐く。

当たり前だが、やはりしんどい。

言葉で思い浮かべるのもなんだけど………やっぱり自然というのは人間に優しい事はほぼ無い。

積もる雪は足を取り、体力を無駄に使わせるし、降り続ける雪は視界を奪うから、更に体力を奪う。

100年前では雪が降ったら、それを利用して遊んでいた事もあるとの事だが───少なくとも私は今後雪が降ってもわーー! となる事は無いだろう。

唯一、こんなため息を吐きまくる環境でもほっと出来る事があるとすれば



「…………メリッサ───あんた、温いわねぇ……子供の体温は温かいって100年前の伝説じゃなかったのね………」


何とも有難い事に言葉通り、メリッサが凄い温かいのだ。

それも的確に本当に丁度いいと思える温度くらいなので、まるで背中だけ常にお湯に浸っているような感覚が唯一茜の気分を癒してくれる。

尚、前面はつまり普通に寒いのだが、首に回る腕も温かいので良しとする。

メリたんぽ………と微妙に口から発すると危険な気がする単語を心の中だけで告げる事を赦す。

すると隣から己、貴様だけがと言わんばかりの眼で見てくるアマルがいるのを見て



「何? 大変だけど温いからこの背中のぬくぬくを上げる気は無いから諦める事を推奨するわ」


「ふっ、一発で仲間割れを起こすのを躊躇わないのは流石だけど、必要なら力づくも辞さないと言えばどうする?」


「いいのかしら? その行動の結果、仮に背中のメリ………湯たんぽを奪う事が成功しても、その結果、湯たんぽからの心情が下がり、温度も下がるかもしれないという事を」


「茜………! 印象操作まで躊躇わないなんて!! そんなんだから戦争が無くならないって何故気づいてくれないの!!?」


「仕方がないのよ……! どんなに頑張ってもこの背中の湯たんぽは一つだけ。分ける事も出来ない以上、奪われない為に、全てを尽くす、当然の事!!」


「減らず口を………!! 冷たさと体力の消費と湯たんぽのせいでテンションがアッパーになっている自分をどうして受け入れてくれないの! 見なさいよ! メリッサと出会ってから、一番殴り合いをしているのが湯たんぽ争奪戦になっている事を!!」


「温さがいけない!! この温さが!!!」


「それ以上にーーわーたしの認識がー湯たんぽになっているのが問題でーすねー」


背中からメリたんぽが欠伸交じりに告げるが、メリたんぽは今は温さをくれる究極の機械人形だから多分幻聴だ。

正直、ちょっとハイになっている事は認識しているが、それはそれとしてこの背中の温さを捨てる地獄は耐えれないので良しとする。



「いい? アマル、選択肢は一つよ───諦めて見た目ヒロイン属性っぽい白髪赤目のこってこての儚い系だった事を悔やみなさい……!」


「人の属性になんてことを……! そっちだってお母さん属性の巨乳なんて100年前ですら廃れた属性じゃないっ。悔しかったらエロ属性か幼馴染属性取ってくる事ね!」


「どーしてぶんめー消えた世界でニッチな会話だーけが継承されてんでーすかぁー?」


意図的にツッコミを無視してにらみ合う私達。

えうーーと可愛く鳴くから、耳も良し、とドヤ顔かますと最早許さん、とアマルが荒ぶる鷹のポーズをとるのを見て臨戦態勢に入る。

人間代表、茜、行きますっとほわたぁーと叫びながら漫才をし合う。

その間、湯たんぽ兼機械人形は無表情に諦めと面倒に支配されたとさ。



閑話休題(さておき)


キャットファイトを終え、あーーとだらしない声を上げて立ち止まる。

どうあれ、やはりこの環境は人間には厳しいものである。

冬の寒さというのは何をしても体力を奪ってくるものだし、視界が雪のせいで見えづらいのも心に来る。

メリッサが眠っている場所に向かう時も味わったものではあるが、だからといって経験したからもう雪の耐性はバッチリだ、とか一度行った場所はスキップする事が出来る、というのは無いのである。



………いや、異能によっては出来る人はいるのかなぁ



羨ましいと言ってはいけない気はするけど、覆水盆に返らずである以上、異能をただ恐ろしいモノとして捉える価値観は変えていかないといけない。

綺麗事である事は分かってはいるけど、異能を無くす事はほぼ不可能だろう。

無くせないモノを異物として捉える方がストレスになる以上、異能を排斥する方が何時か排斥される可能性がある。



………だからといってそんな単純に異能を認めましょう、と言って認められるものではないでしょうけどね………


こればかりは人間という種の限界としか言いようがない。

それに流石にそう言った事は白羽茜の手に余る。

そういったごたごた系は未来の人間に対応して貰うおう。

他責と言われそうだけど、本当にどうしようもない事をどうにかして大失敗するよりはマシでしょうし。

というか変な思考に偏っていると気づき、一度だけ頭を揺らす。

疲れでどうでもいい思考に逸れて現実から目を背けている。

ある種、楽だが雪道の中でやるには酷く危険行為だ。



「ごめん、アマル。頭、空回って来た。ちょっと休憩か、最悪ストップお願いするかも」


「ん、じゃあしょうがない。何度も言っておくけど、この場で人間は茜だけなんだから、私達を基準にしちゃいけない」


言われた言葉に一瞬、思考を停止するが、次の瞬間、苦笑する。



何て言葉だ



こんなにも人間らしく、人間のように見える二人が人間ではない、と当たり前のように受け止めなければいけない世界。

何が異能は認めないといけない、だ。

私自身も全然異なる何かを受け入れ切れていない。

もう知性体が人間だけだった時代はとうの昔に終わっていたのだ、と余りにも今更な真実に自嘲する。

やれやれ、と首を回しているとアマルが地図を取り出し



「ん、丁度ここに来るときに使った広場がもうちょい先。そこで今日も野宿しよ」


ああ、と茜もアマルに提案されて思い出す。

確かにここら辺でぽっかりと穴が空いたような広場のような空間があった。

元々は公園だったのか、あるいは巨(・)大(・)な(・)ナ(・)ニ(・)カ(・)に(・)踏(・)ま(・)れ(・)て(・)出(・)来(・)た(・)空(・)間(・)なのかもしれないが。

どうあれ、休みやすいといえば休みやすいのなら使うのが一番である。



「やぁっと休みですかーー」


くぁ、と小さく欠伸をして少女の顔がひょっこりと肩から出てくる。

顔つきだけはとても整った少女なのに、こうも眠そうな顔をしていると慣れてくるわね、と思いつつ



「貴方は私の背中でボーっとしていただけでしょうが。言っとくけど、メリッサもテントの設営とか料理とか手伝って貰うからね」


「幼女も働かなきゃいけないなんて世も末ですよーう」


めそめそ、と口で言う余裕がある幼女なら大丈夫でしょう。

というかあんたがここまで自分の手を動かしたところを見た事がない。

食事やら何やらの雑事は何時も袖口から出る鎖にさせている物臭アンドロイドに慈悲は不要である。

そう思って一度メリッサを背負い直すと反動で少女の髪がこっちの肩に乗る形で引っかかったので思わず見てしまう。



相も変わらず自然には存在しないであろう水色の髪


それだけでも反則なのに、肩に乗ってる髪の光沢すら素晴らしい。

100年前の普通をそこまで知っているとは言えないが、それでもアンドロイドに使う髪がここまで綺麗な事はあるのだろうか。

それもこの世界ならでは、とすればあっさりだが、この子の事だと一体どこまでが異常でどこまでが普通なのかが本当に分からない。

ちょっと女性的にあんまり言える事ではないが、メリッサはご飯を食べるがお手洗いを申し出た所はない。

何なら途中、メリッサが機械人形という事でメンテナンスが必要じゃないの、と聞くと少女は嫌そうな顔でセクハラですよーう、と詰って来た。



……アンドロイド的にメンテナンスはセクハラ行為に当てはまる概念なのかしら……?



まぁ、確かに体の内部を見られる行為だから、そうなのかもしれない。解せぬ。

ともあれ、少女が人間的にも、機械的にも真っ当では無い事は確かである。

───正直に言うならば、メリッサが機械人形であるかどうかも最近は怪しんですらいる。

……個人的にはそれはどっちでも問題ないと言える事なのだが、本人が機械人形である事に誇りを抱いているとかなら、問題なのでちょっと言い辛い。

そんな風に空回ってると



「なーんですかー」


と自分の髪を見られている事に気付いたのか、メリッサがツッコミを入れてきた。

別に悪い事をしたわけじゃないけど、ちょっと気まずいのでえーと、と内心で呟いた後、とりあえず嘘ではない事を告げた。



「───この水色の髪の毛をまた梳かせれるのはいいストレス発散になるなぁ、と思って」


「聞き捨てならない。今日、メリッサの髪を梳くのは私の役目」


「ニンニクぶつけるわよ吸血鬼」


最強の殺し文句にこの人でなし! と叫ばれるのを華麗にスルーしてるとメリッサが欠伸交じりに



「別に構いませんけど―。水色の髪の毛っていうと一気にしょぼく感じるんですからー、そーこはー空色でいーんじゃないですかぁーー?」


少女の言った事に首を傾げる。

茜はついアマルにも視線を向けたが、アマルもまた首を傾げる。

こ(・)の(・)少(・)女(・)は(・)一(・)体(・)何(・)を(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ん(・)だ(・)ろ(・)う(・)、と。

暫くして、思考が現在から持っている情報を絡める様になり、ようやく意味を理解した。

そうだった、だからこそ少女の言葉に少し感動したように答えた。



「そうなんだ───ソ(・)ラ(・)の(・)色(・)っ(・)て(・)メ(・)リ(・)ッ(・)サ(・)の(・)髪(・)色(・)み(・)た(・)い(・)な(・)感(・)じ(・)な(・)ん(・)だ(・)」


「───」


胡乱気に少女は瞳を動かし、何(・)を(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ん(・)だ(・)こ(・)の(・)人(・)は(・)と瞳に映し、その瞳をアマルの方に向けて、アマルの表情が私と同じである事を読み取り、あーーーと空を見上げる。

そこには茜からしたらとても見慣れた空模様───生(・)ま(・)れ(・)て(・)か(・)ら(・)ず(・)っ(・)と(・)。

その思いを感じ取ったのか、メリッサは気だるそうなまま



「単にーー起きてからは運悪くあくてんこーだと思ってたんですがーー───そうじゃなくてぇ、ずっとこんな天気なんですぅ?」


その質問に一度アマルと目を合わせ、同時にうん、と頷く。

私達にとって、空とは雲の色。

メリッサの綺麗な髪色とは似ても似つかない、灰色の空。

だから、メリッサの言うソラ色というのは余り共感が出来ないが……



「じゃあ、私達、メリッサのお陰で本当のソラの色を見れたんだ。ちょっとした贅沢をした気分ね」



※※※


休息地に向かう為に再び二人が前進する中、メリッサは一人、背中から上を見ていた。

空色の瞳に移るのは変わらない大粒の雪と一つの巨大な雲───二人の言を信じるなら恐らく世界全てを覆う雲。

これもまたどう見ても異常事態。

でも、それを疑問に思う者はいない、あるいは少ない。

それはそうだろう。

生まれてからそうだったものを疑うのはまず難しい。

常識とは受け継ぐ事をしなければ、途切れた常識は現在の形にリセットされる。

つまり、誰も雲があり続ける事を問題視しなくなり、仮に問題にする者がいたとしてもこんな常識が崩れた世界で雲くらい、となるわけである。



そして出来上がるのは不可視の牢獄───両目を塞がれた奴隷の出来上がり



余りの悪趣味さに機械人形は目を細める。

そしてその後に、くぁっと欠伸をする。

だとしても、それらの事を語る程、機械人形はお優しくも正しくも無かった。

雲の上がどうあれ、それらが少女に何かしてくる気が無いというのなら、存在しないも同じ事。

何やら、下らない情報漏洩はしているみたいだが、わざわざ乗っかる程、こちらとて無力でも操り人形でも無し。

無感動の仮面を顔に張り付けながら、機械人形はどうでもいい、と真実を煩わしそうに捨てた。



※※※


アマル・ティアは目の前に広がる広場を相棒と一緒に停止して見ていた。

この場合、停止していたのは動作だけではなく思考もだった。

思考停止の原因は未知のモノを見た事。

ただし、それは魔物、あるいはメリッサのような超常現象を見たというわけではない。

いや、広義の意味ではこれは超常現象という事になるのだろうか。



───何せ広場のほんの少し上空、9~10m程の空間に戦(・)闘(・)機(・)が(・)コ(・)ク(・)ピ(・)ッ(・)ト(・)を(・)下(・)に(・)向(・)け(・)た(・)直(・)立(・)姿(・)勢(・)で(・)浮(・)い(・)て(・)い(・)る(・)のだから



この世界で常識を求める方が馬鹿を見るのは分かっているのが、未だに脳は視認する異能(じょうしき)を受け入れるのに時間がかかってしまう。

アマルも流石に戦闘機に関しては知識だけで実物が動いている所なんて見た事が無い為、余り意見は言えないのだが……それでも戦闘機がそんな態勢で同じ場所に浮き続ける事は出来ない、筈だろう。

なまじ中途半端に存在だけは知っている現代兵器が絡まっている為、これが本当の異常なのか、実は正常なのかが判別し辛い。

浮くまではまだ正常の範囲だと思うけど、機首を下にした状態でブレずに浮遊するのは幾らなんでも無理な筈。

そんな風に現実を無意味に理解しようとする意識に声が響いた。



「おい。オタクらが世界を滅ぼしたっていう荒唐無稽な機械人形を連れた面子かぁ?」



放たれた言葉は拡声器でコクピットから声を届けられていた。

野太い声、女声では例外を除いて発声する事が出来ない声である以上、まず男性。

しかし、言語が日本語ではない為、一瞬、何を言われたのかと思い、首を傾げそうになった時、メリッサがふぁっと小さく欠伸をした後に、指を鳴らす。

すると不思議な事に彼が告げる言語に対して急に理解し始めた。


…………本当に何でも出来るんじゃ………?


メリッサの万能性に舌を巻く所ではないが、今は感謝の行動は出来ない。

先程の発言内容からしてメリッサを狙っているのだから。



「───私がその機械人形」



即座にアマルは嘘を吐いた。

自分で言うのもなんだが、銀髪赤目の神秘的という点ではメリッサには劣るかもしれないが、人間の認識の中では自分にもあるという事は流石に知っている。

そしてメリッサは今、茜の背に隠れており、コクピットの視点では髪の毛くらいは見えているだろうが、顔まで見るには茜の頭が邪魔をしている筈。

それならば、私でも騙す事は出来る筈。

仮に攻撃されても、生命力なら無駄にある私なら即死は無い…………………多分。

あーーー? と男がコクピットの風防越しにこちらを見てくるのが分かる。

チラッと見たら、金髪………ゴーグル越しだから目の色までは見辛かったから不明だが、更に第一言語が日本語ではない以上、外国人だろう。



国交なんて物は既に断絶している



飛行機はおろか船ですら存在は知っても知っているだけになっている。

何故なら空にも海にも当然、自分達の認識を超える化け物がいる───と聞いているからだ。

そして電気も死んでいるから連絡等もやる余裕は無く、伝わる事があるとすれば───こんなにも追い詰められてるのに他国から救いの手が無いという事は、きっとどこも同じだろう、という当然の絶望だけだった。

故に戦闘機という当たり前のように空を飛ぶ兵器がまだ動いている事に驚きはするが、異能の寄る物だと思えば、何ら不思議な事ではない。

故に男の値踏みする視線に機械人形らしく無感情そうに受け止めようとしてみたが───



「───ちげぇな、お前じゃない」


断じられた言葉に反射的に何故、と問いそうになるが、ここでそれを行うのは完全に認めるようなもの。

ブラフの可能性も含めて、表情を変えずに反論を口に出そうとするが



「お前さんにも確かに圧はある。が、弱(・)ぇ(・)。異能の力が分かるとかそんなんじゃなく、お(・)前(・)さ(・)ん(・)か(・)ら(・)世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)て(・)も(・)い(・)い(・)と思える熱がねぇんだよ。今、お前さんが考えているのはここをどう凌ぐかって凡人の思考だろ───そんな凡人の思考(常識)的な考えじゃあ貧弱過ぎる」



男だけに通じる理屈に───異を唱えるべきなのに唱えれない。

お前は普通過ぎるという言葉に反論するには自らの異常性を明かす、という事になるだろうが、アマルにはここでアドリブで晒せる異常を表現する出来る程、理解も知識も無かった。

世界を滅ぼしてもいい程の狂気をどうすれば、表現出来るのかなんて、吸血鬼のアマルでも分からない事柄だった。



「同じ理屈でそっちの巨乳女もそうだろ───じゃあ、残るのはそういう事だな?」


男の笑み(さつい)が茜に背負われた少女に向けられる。

その事実に歯嚙みする間もなく、背負われた少女がやれやれ、と言わんばかりに茜の背から降りて前に出る事で事態が動く。



「ずーいぶんと暇な人ですねーー。アメリカっぽい人ですけど、ハンバーガーとコーラが消えたから燃料が無くて大変だーって言うんですかぁー?」


「何時の時代の話してんだよ生意気な餓鬼が───質問は一つ、お前さんが世界を滅ぼした機械人形っていうのは本当か?」



最初の台詞と後半の台詞ではっきりと分かる程の温度差。

最初の言葉に合わせた調子で返せば、返ってくるのは殺意であるという意思表示。

強制的に見せつけられる殺人の許可証に対してメリッサはとても下らなさそうに答えた。




「───雑魚がーそれを知って、どーするんですかーーー?」



少女の口からあっさりと放たれた悪意に私も茜も停止する。

見た目愛らしい少女から放たれた言葉に噓偽りも曲解も無し。




心の底から少女は"弱い人間が真実(それ)を知って何が出来る?"と見下したのだ。




反応は一瞬だった。



刹那の速度で跳ね上がった機首───その下部についている機銃が一瞬で私達諸共メリッサに火を噴いたのだ。

どれにも反応が出来なかった私と茜は反射的に腕を上げようとするが当然間に合わず、先に私達の前に出ていたメリッサに着弾し───数秒後に私達の元まで弾丸が届いていない事に気付く。



「───」


弾幕によって打ち上げられた土煙から現る機械人形は無傷。

何時の間にか袖口から零れ落ちた鎖はまるで生きているかのように脈動し、主の前に出て戦闘機に向かって威嚇している。

その事実に、アマルの鋭敏な聴覚が男がはっ、と笑った音を拾った。



「───いいねぇ、久しぶりに乗って来た。名乗れよ機械人形」


「今時、決闘スタイルですかー? 戦闘機乗りがする事じゃないでしょうがー」


「そりゃそうだがいいだろ別に───互いに今生の最後に聞く名前かもしれねえんだぜ? それこそお前ら日本人はこう言うんじゃねえか? 風情がねえって」


「それこそもう死語って言うんじゃないですかねー?」


はぁ、とメリッサは男の殺意に面倒くさそうに溜息を吐き───



「───メリッサですよーう。覚えなくていいですよーう───どうせそんな余裕、貴方に残ってないでしょーから」


「───アクセル・サンダースだ。反芻はしなくていいぜ? ───どうせ忘れるのが難しい名になる」


瞬間、空間が爆発した。

無論、比喩だ。

正確には一瞬で二人がソラに向かって飛び立った衝撃波が私達には爆発したような感覚を与えただけだ。

音速を軽く超えた領域で飛翔する二人にアマルは戦慄を禁じ得ない。

出会った時に決して劣らぬ衝撃と同時に沸き立つ劣等感───またあの子に戦いを任せてしまった。



「───ッ!」


隣で茜が同じように歯噛みするのを見て、きっと同じ気持ちだ、と思うが、同時に残酷な事実が脳に刻まれる。



───きっと、これから先、自分達で解決出来ない力を前にした場合、私達は何時もこうして後ろで見ているしか出来ない立場しか得れないのだと



私達が世界を滅ぼせる力を探したのは、私達にそんな力が無い証明。

何をどうしても他力本願でしか自分達の意志所か生きる事ですら精一杯だという事実。

分かっていた。

分かっていなかった事はただ一つ───探し求めた機械人形には感情があり、子供のようだった事。



私達の願望は同時に少女を破滅に誘い込む悪魔の取引だったのではないか、と目の前の光景を見ていたら思わずにいられない



どんな自虐をしても時は戻らない。

起こさないという選択もきっと私達には無い。

この光景はどうしても必然で、避けようがない現在だ。

そんな感情の重みを知った事かと言わんばかりにソラに駈けて行く二つに私は思わず、天使を夢想する。

天に昇る彼女達と地に残るしかない私達。



だけど───離れていっているのは一体どちらなのだろうか



天に近付くように人から離れるような力を持ってしまった彼女達と、無力に等しい身のまま地上に残る私達。

一体、どちらが地球に生まれた生命としての在り方から離れてしまったのだろうか。

答えれる人間はいるまい。

いるとすればそれは神様くらいだろう。

そしてきっと神様は答えてくれない。

私達が生まれた意味を答えてくれる存在は、何時まで経っても現れる予兆をくれないのだ。




大分お待たせしました……凄い難産で手間取ってしまいました……。

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