最悪の暗転
浦風は、ただ無心で琴を弾いた。
自分の指に染みついている曲を自分のやり方でゆったりと弾いていく。
それに合わせ、女四宮の気品あふれる琴の音が浦風の曲を包み込み、今までにない幻想的な合奏が出来上がる。合奏は部屋全体を満たし、ほのかな輝きが部屋の中に現れる。
三宮は、それをじっくりと、物静かに聞いていた。
どのくらい時間がたったのかは、浦風自身にも分からなかった。
何となく、自分の指の動きを止めたとき、女四宮の琴の音も消えていった。
全身から疲れがどっと出てくる。そのまま床に突っ伏しそうになるのを何とか我慢する。
「素晴らしいな、お前ら」
盛大な拍手と共に最高級の褒め言葉をする三宮。
「夜もだいぶ更けた。浦風は、妹たちが心配する頃合いだぞ」
そう言って浦風を屋敷の出口へと案内しようと戸を開く。
「は、はい」
浦風、急いで琴を片付け始める。
「......また来てね」
去り際、浦風は女四宮からそう声をかけられる。彼の下がりかけた心拍数が再び上昇する。
「......はい、またいつか」
できる限りの冷静さを繕い、浦風は三宮の後を追うのだった。
「一度やってみたかったんだ、お前らの合奏」
廊下を歩きながら、にっこりとする三宮。
「私も非常に楽しかったです」
浦風も満足そうな顔つきだ。
「いつの日か、またこういうの出来たら良いのにな......」
「また、お呼びください。三宮様の頼みならいつでも参ります」
しみじみとする三宮に、元気よく宣言する浦風。
「いや、そうじゃなくてさ......」
珍しく、言葉を濁す三宮。
「何か問題が?」
浦風は言わんとしていることを推測できない。
「父上がな、あいつ、女四宮を橋立に降嫁させようとしているんだ」
「......」
「あいつをここに呼べるのは、あいつが独身だからだ。結婚したら、多分こんなとこには来れない」
「そ、そうですか?」
「当たり前だろ。妻が簡単に他の男と合奏なんて出来ないしこんなところに来ることもできない。第一、俺だってあいつに会う機会が大きく減るだろう」
「あ、まあ。確かに......」
どう答えるべきか分からない浦風は生返事しかできない。まあ、彼の心情からすれば無理もないことなのだが。
そうこうしている内に、そのまま出口に到着。
「ま、お前が橋立に頼めば何とかなるかもしれんがな! お前らの仲だろ? そんときゃ交渉頼むぜ! あ、俺はまだここで片付けあるから、じゃあな!」
走って戻っていく三宮。
「......女四宮様と橋立か。確かにお似合いかもな」
自身を強引に納得させようとしつつ、帰路につく浦風。
三宮も知らないであろう浦風の最大の願い。それは、女四宮との結婚である。
一時の衝動ではなく、十年以上彼の中にあるものだ。
しかし、元から叶うはずもなく、間もなく屈辱的な形で消滅しようとしている。
その原因の誰にも話したことのない浦風の思い出は、もうすぐ灰となってしまうだろう。
橋立については次の話で書きます。
里見レイ




