妹たちの心境
「ただいま」
浦風は、いつもよりだいぶ遅くに帰宅する。表情は、完全に疲れている。
「おかえりなさい、兄様。遅くまでどうしました?」
心配そうに声をかける桜。
「左大臣邸からの帰りに三宮様に会ってね、結構長く琴を弾いていたんだよ」
一応屋敷のことは秘密なので、場所については話さない浦風。
「そうそう、姉様がお帰りを待ってましたよ。今は縁側にいます」
「あ! そうだ、返事!! 今行く!!」
桜の言葉で左大臣邸からの要件を思い出す浦風。
弁中将から預かっていた手紙を懐から取り出しながら、慌てて縁側へと走り出す。
浦風の後ろ姿を見つめながら桜はつぶやく。
「......三宮様、一体兄様に何を話したのかしら? もし、それが兄様を苦しめるものだったら、たとえそれが皇族の方だったとしても、許さない......」
珍しく、彼女の体から殺気が出ている。
十年以上一緒にいるのだ、深追いせずとも浦風の心境はわかる。
彼は、今までの悩みぶりと違い、非常に苦しんでいる。それを妹として機敏に察知したのだ。
桜にとって、浦風こそ第一優先である。それこそが、彼女の存在意義なのだ。
「紅葉、ただいま」
「! 兄上!!!」
縁側でぼんやりとしていた紅葉、浦風の声に反応しばっと振り向く。
「これ、弁中将からの返事だ」
「はい......」
恐る恐る手紙を受け取り、そっと開く紅葉。そのまま目が手紙に釘付けになる。
浦風は、その様子を不安げに眺めていた。
たとえあの厭味ったらしい弁中将とはいえ、今は大事な妹の恋人である。そいつがどんな手紙をよこしたのかが、心配でしょうがないのだ。
「......しばらく、手紙の交換はしようとおっしゃっています」
少しして、紅葉は手紙から顔を上げてそう浦風に伝える。
「そうか、受け渡しは俺がやろう」
いくら異例の出世をしたからといっても、浦風はまだ右中将、二人の結婚に反対している左大臣にはとてもかなわない。だから、できることがこれしかないのだ。
「兄上」
悲しげな表情の紅葉。こんな紅葉を今まで浦風は見たことない。
「せめて兄上は、幸せになってくださいね」
「え?」
紅葉の活発な性格からは考えられないしおらしい発言に、戸惑う浦風。
「兄上は何も話してくれませんが、恋には敏感な私にはわかります。兄上にはお慕いしている姫君がおられる。それがどなたかまでは不明ですが、どうか、その方と......」
そのまま座って礼をする紅葉。
紅葉は、和歌集だけでなく物語も多く愛読している。そこから得られる疑似体験により導き出された結論なのであろう。
「......そう、だな」
浦風は、自分の思いが叶わないことを知っている。それでも悲しんでいる紅葉に追い打ちをかけることはできない。だから、曖昧な返事しかしない。
「兄様」
と、そこにやって来る桜。何か知らせにきたのだろう。
「橋立殿がいらっしゃいました」
「......こんな時間に。明日じゃ無理なのか?」
「どうしても、だそうです」
「はぁ、仕方ないなあ。金でも足りなくなったのかな」
そう言って、困った顔をして客間へと向かう浦風。
しかし、この困り顔は、精一杯の作り物だった。
すいません。橋立まだ出ませんでした。次は必ず!
里見レイ




