悩みの増える浦風
「っという訳で、通い婚なら承諾してくれそうなんですが・・・・・・」
次の日、宮殿への出仕準備をしながら、昨日の桜からの返事を三宮に伝える浦風。
「いーや!俺は自宅に引き取りたいの!!妥協は何一つ認めん!!!」
どうしようもない頑固ぶりを見せる三宮。
「・・・・・・」
ため息が出るところを、何とか抑える浦風。
三宮も桜も意地っ張り、互いが惚れているのはわかるが、これではいつまでたっても結婚にこぎつけられそうにない。
平安時代、妻が実家で暮らしているまんまの通い婚はごくごく普通だ。兄の縁談に妹が口出しするのも異常である。
つまり、互いが一般常識から大きく外れた行動をとっているのである。
似た者同士と言えば聞こえがいいが、二人の間を取り持つ浦風からしたら苦労しかない。
(うむむ、どうすれば・・・・・・)
宮殿に向かう牛車の中、浦風はしばらく考えていたが、両者の性格は嫌なくらい熟知しているので、
(打つ手なし)
と、思考を停止させるしか仕事に集中するための手段は無かった。
さて、ここは浦風の勤務場所、近衛府。今日もしっかり仕事仕事っと浦風が腕まくりをしたその時、彼の悩みの種を増やす同僚が、絶妙なタイミングでやって来た。
「やあ、浦風!今日も地味な服装をしているね!はっはっは!」
仕事用の衣装がどっかのパーティー仕様なこちらの男、名を弁中将という。
これは、あくまで役職名で、大弁と左中将を兼任しているということだ。本名は、源氏物語の頭中将と同様に謎のまんまである。
彼は、左大臣の次男で美男子。そして、浦風より年下の十九歳ながら、妻は十人、子供は四人持っている宮中で話題の超色男である。
なにかとつけて農民の血を持つ浦風を馬鹿にしており、この服装も、ほとんど浦風への当てつけのために着てきたのだろう。
「これは、弁中将。大弁の仕事はどうされました?」
話を発展させないよう、出来るだけありきたりの挨拶で済ませようとする浦風。
「今日はこっちさ!久々に君のことをからかいたくなってねえ!」
弁中将はまだ話し続けるつもりらしい。まあ、浦風には慣れっこの事であるが。
予想通りの反応に、頭を痛める浦風。この男と一緒にいてはろくなことがない。
「それはそうと浦風、君に頼みがあるんだ!」
いつになくニヤニヤしている弁中将。浦風は嫌な予感しかしなかった。
「この手紙を妹の紅葉の君に届けてほしいんだ!返事を待ってると伝えてくれ!」
弁中将が手に持っているのは、綺麗な花を添えた高級和紙。要するに恋文である。
「全力で断らせてもらう!!!」
めったにない大声で反発する浦風。顔つきも超真剣だ。
「貴殿のような浮気者に妹はやらん!!!」
前述した通り、弁中将の色好みはなかなかの評判。ホイホイ嫁にやっては妹がいずれ泣くのがオチだ。
「いや、そこを何とか~」
しつこく頼む弁中将。しかし、浦風は一切取り合わない。
いたちごっこな会話をすること数往復。
「俺の知り合いの女の子紹介するよ!浦風、まだ独身でしょ?もう二十一歳なのに」
ついに弁中将が地雷を踏んだ。
「絶対に断る!!!」
自分の結婚話をされ、怒りがマックスになる浦風。驚いて、周囲の者が振り向くほどだ。
説明しよう!浦風が独身なことを話に出すのは、宮中でも上位に位置するほどの禁則事項なのだ。
弁中将、これからガンガン出番があります。典型的な色男と認識しておいてください。それでは。
里見レイ




