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コマチvs神獣

 火花が散る。

 魔法が飛び交う、そしてコマチと白い人型――神獣は対峙した。

 ここは精神世界のようなもの。

 実体のない世界ゆえ、戦闘は激しく派手になる。


 『もう少し本気をだそうかな』

 「…………」


 コマチは神獣と戦って不利を悟った。

 この世界に慣れすぎている。それに対し自分はまだ慣れていない。

 リヒトの精神から生まれたおかげか、今は対抗できているが、これ以上相手が力を上げるのなら抵抗むなしくやられてしまうだろう。

 それほど相手は強く、油断ならなかった。


 『トワのために死んでよ』

 「トワを返せ」


 両者がまたも衝突する。

 現実ではありえない十個以上の並列による魔法詠唱に高速詠唱。

 そして、最高の剣技。

 想像により生み出された動きが二人を動かしている。

 どちらも引かない攻防は終わらないかのように思えた。


 「なっ」


 神獣の動きが一段と増して早くなる。

 魔法の詠唱も剣技のぶつかり合いも全てが押され始め、守りに転じていた。

 このままでは押され続け待っているのは負けの二文字。

 この精神世界で死ぬということは、現実の世界でも死ぬことと同じこと。

 コマチは少しだけ顔を歪め、その速度に合わせるように無理をする。


 『もう無駄なことは止めなよ、トワが望んだことなんだ』

 「トワはそんなこと、望ま、ないっ」


 一瞬だけ相手の力量を追い越し、押し返した。


 『まだこんな力が残っていたんだ。でも、僕はまだ手加減してあげているんだよ。トワは君達のことを大切にしていたからね、最後の忠告だ、僕の言うことを聞いてくれないか、僕はトワの願いを叶えたいだけなんだ』

 「絶対、いや。トワの願いは私達が叶える」


 いつもの無表情ではなく、神獣に対して睨み返す。

 それからすぐに、両者は再度激突した。











 「翼はもう使えません」


 メルが最大威力の風魔法によって翼が再起不能となり、より一層動きが遅くなる。

 両足も負傷しており、立とうとしても立てないでいた。


 「逆鱗を探すのじゃ」

 「分かりました」

 「分かったよ」


 メルとミアが手を振り回し暴れているのを避けながら、逆鱗を探し始めた。

 リーシャはも背中から翼を生やし、空中から探す。


 「僕も探してみるよ」


 イールは探査する魔法を使い、逆鱗らしき箇所を伝えていく。

 逆鱗はドラゴンの弱点であるが、そこを傷つければドラゴンの本能でブチ切れるだろう。

 そうなると、どのような行動に出るかは分からない。

 なのでチャンスは一回、逆鱗に最大威力のものをお見舞いし、気絶へと持っていくのが一番だ。

 探し始めて数分が経過した頃、ミアが逆向きに生えた鱗を発見した。

 逆鱗だ。

 場所は尻尾の付け根辺りにあった。


 「まだ攻撃はしてはならぬのじゃ」


 位置を確認し、一旦皆して距離を取る。


 「どうするんですか?」

 「逆鱗に全員で攻撃すれば、流石に気絶するはずじゃ。チャンスは一回まで、もし失敗するとここは瓦礫の山になるじゃろう」

 「チャンスは一回までか」


 コマチがドラゴンの中にいる奴を足止めしてくれている間に、終わらせなくてはいけない。

 作戦はこうだ。

 まずミアがクレイモアを逆鱗に突き刺し、それと同時にメルがプラズマをクレイモアに当てる。そして、イールが風圧によって迫りくる腕を叩き落とし、リーシャが止めにクレイモアの柄を殴る。

 それで無理ならもうどうしようもない。


 「いくのじゃ」


 合図によって、ミアが単身で懐に飛び込む。

 腕が襲い来るのを避けながら翻弄し、逆鱗のある尻尾の付け根に到着した。


 「トワ様、ごめん」


 思いっきりクレイモアを逆鱗に突き刺す。

 突き刺した瞬間、ドラゴンがぴくりと跳ね、目が赤く染まっていく。


 「させません」


 ミアがプラズマをクレイモアめがけて投下し、その電流によってドラゴンの神経が一瞬麻痺した。

 その一瞬を見逃さず、すぐさまイールが腕を風圧によって地面へと落とす。

 そして、リーシャが龍のそれにした右手に魔力を込め、殴るために走り出した。


 「グガアアアアアア」


 最後の抵抗なのか鼓膜が破けんほどの咆哮を放ち、リーシャを威嚇した。

 その咆哮には魔力も込められていたらしく、それを真正面に受けたリーシャの服はいたるところが裂け、そこから血が流れだしている。

 だが、リーシャは速度を緩めない。

 緩めるはずがない、一度のチャンス、トワを助けるためなのだから。


 「はああああああっ」


 最後に気合を入れ、クレイモアの柄に一撃を喰らわした。

 クレイモアが深く突き刺さる。

 そして、ドラゴンの口からは先ほどの咆哮とは違う、強烈な痛みによる悲鳴が聞こえてきた。

 上を仰ぎ見てドラゴンは痛みに吠える。

 そして、その時は来た。

 ドラゴンの大きな図体がぐらりと傾いたかと思うと、そのまま床へと伏せてしまう。

 ドラゴン――斗和は気絶した。


 「やりました!!」


 メルが皆の思いを口に出す。

 恐ろしく強かったドラゴンが地に伏せた瞬間だった。











 『ん?どういう、ことだ?』

 「はあはあ」


 もう少しで危なく首がとぶところだった。

 今、コマチは神獣の魔法に囲まれており、一秒でも遅かったらもうこの世にはいなかっただろう。

 どうもうまくいったらしい。精神世界に変化が生じる。

 辺り一面色ついていた世界が、黒く染まっていく。

 気絶したのだろう。


 『そうか、まさか本当に気絶させられるとは思わなかったけど、残念だね。これで終わりじゃないよ』


 嫌な予感がした。

 周りを見渡すと、黒く染まりかけていた空間が半ばにしてその進行が止まっている。

 そして、また元の空間へと戻ろうとしているのだ。

 まさか、気絶を無理やり直した?


 『そのまさかだよ』


 白もやなのになぜだか笑っているように思えた。

 いや、実際この状況を笑っているのだろう。

 余裕ぶった態度でゆっくりとこちらへ近づいてくる。


 『さあ、もうこのくだらない争いも止めよう。トワの願いを叶えるためにも』


 絶体絶命。

 もう全てが終わったと諦めてしまった時、白もやの後ろに黒い人物が立っているのが見えた。

 誰?


 『さあ、君には死んでもらおう』


 魔法が何百個も生成され、それら全てがコマチに向かって降り注いだ。


 「――もう、大丈夫だ。コマチ」


 コマチの前には先ほど見えた黒もやが立っていた。

 圧倒的な安心感、魔法生命体であるのになぜかその瞳には流れるはずのない涙が流れている。

 その声はいつも聞いている声だ。

 姿は違うが分かる、トワだ、トワが生き返った。

 降り注ぐ魔法の雨はトワの腕の一振りで全て消え失せる。


 『ま、まさか、トワなのかい?』

 「ああ、そうだ。お前は神様の神獣だろ」


 やはりトワだ。

 この精神世界に入った時に、トワの存在を一欠けらも感じず、本当に消滅してしまったのかとすごく心配していた。

 良かった、うれしい。

 いつもと違い、感情があふれトワに後ろから抱き着く。


 「おわっ、どうしたんだ?」

 「何でもない」


 何でもないのだが、今は抱き着いていたい。


 『生き返ったのか、そんなことを神様が許すはずが……』

 「実際、俺がいるだろ」

 『た、確かに』


 トワは神様と話した内容を話す。

 勝手に飼い主から逃げたこの神獣は帰ったらお仕置きをされるらしい。

 そのことに神獣はぞっとしている様子だ。


 「まあ、お前は俺の力が欲しいという願いを叶えてくれたんだろうが、俺はこんな力が欲しいわけじゃない。それは分かってくれ」

 『そうなのか、分かったよ』

 「それでなんだが、女神様が俺に従うなら俺が死ぬまではこの世界にいていいと言ってた。お前はどうする?」

 『本当かい?それなら僕は君に従うよ。まあ、言われなくても従うつもりさ』


 契約成立だ。

 神獣や神様は嘘はつかない。なので、その言葉に嘘偽りはないだろう。

 さて、リーシャやミア、メルにも会いたいし、すぐに戻ることにする。


 「じゃあ、コマチ。外で会おう」

 「うん」


 ドラゴン化は解かれているはずなので、俺は精神世界から意識を外へと持っていく。


 『あ、ちょっ、今は――』


 神獣の声が遠くなり、視界が暗く染まる。

 瞼を閉じているのだろう。思い瞼をゆっくりと開いていく。

 そこにはリーシャ達の顔があった。


 「トワかのう?」

 「ああ、ごめん。迷惑をかけた」

 「本当じゃ、ぐすっ、心配をかけよって」

 「本当にごめん、痛っ」


 背中に痛みを感じて、背中を確認した。

 すると、そこにはぱっくりと割れた裂傷が……。

 まさしく逆鱗の位置に刺したクレイモアが原因だろう。


 「あっ」


 気づいた瞬間にものすごい痛みを感じ始め、俺は再度気絶することになった。


 『止めようとしたのに……』


 という、声が最後に聞こえた気がした。



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